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祥と翔~友達発親友経由xx行き~  作者: 桐生夏樹
第七幕 日々是練習
32/66

第二曲 ツーバス使い


 スタジオ練習での最初の出番が終わり、小休止に入った。


「しょーちゃん。がんばったねー『ボールにぎにぎ』の成果出てたんじゃないかなあ? かっこよかったよ~」


「あーうん。まだまだだけどね。」


 直美が僕にねぎらいの言葉をかけてくれた。こういう時に気を使ってくれるのはありがたい。自分の演奏についての客観的な感想は初心者の僕にとっては気になるところだ。


「おお……? 哲太くん! 今更だけどツーバス使いなんだよね! ツーバスかっこいいよね~」


「は、はい。最初はワンバスにツインペダルだったんすけど、ツーバスの迫力が堪らなくて転向したっす」


「へえ……ちょっといいかな……?」


 弘子さんと哲太が話しているところ見るの珍しいな。むしろ初めてかもしれない。


 ところで……


 ワンバス? ツーバス? ツインペダル?


 音楽用語なのだろうけど、全くわからない。

 楽譜のチェックをしていた理津美が僕の表情を読み取ったのか、近くにやってきた。


「バスは、ドラムセットの中で一番大きくて中心に置いてあるドラムのこと。バスドラムが1つだとワンバス、2つだとツーバス」


「ああ、あのでっかいやつか。じゃあツインペダルは?」


「ツインペダルは基本的にワンバスの時に使うの。1台のバスドラムで2台分の効果を作り出すペダルのこと。メインのペダルにもうひとつペダルを連結できて、仮想的に2つ分のバスドラ音を作り出せる訳」


「なるほどね~見た目はツーバスの方が豪華でカッコよくみえるね……」


「そうね。その分、大きい太鼓2つも運ばなきゃいけないし、チューニングが倍になるとか、色々と大変なのだけれどね。でも、それを踏まえてもツーバスは迫力があって、私はかっこいいと思う」


 ほんとに理津美は物知りと言うか、何でも知っているというか……助かると言えば助かるのだけれど、たまに何でも知りすぎている彼女が怖くなることがある。



 ドドドドドドドドドッ!

 タタタタシャーーン!

 ドコドコドコドコドッ!



 いきなりドラムが鳴り響く。哲太ってば弘子さんと話してハイテンションになっているのかな……?


 いつも以上に音が勢い良く鳴り響いている気がする。


「……ひ、ひろぽん?!」


 理津美が『ドラムセットに座っている弘子さん』を見て、目を丸くしている。そりゃそうだ。


 ……え?


 弘子さんがドラムを叩いているっ!!


 しかも相当のテクニックだ。哲太の顔もひきつっている。

 一通り叩き終わると、弘子さんはスクッと立ち上がり、哲太にスティックを返した。


「哲太君。ありがと~楽しかった~」


「い、いえ! 俺よりうまいっすね……」


「誉めすぎだよ~現役ドラマーが何言ってるの~?」


 複雑な表情の哲太と謙遜けんそんする弘子さん。チビトリオは尊敬の目で弘子さんのことを眺めていて、目がハートになっているようだ。

 遠目に祥が、ニヤニヤと弘子さんのことを眺めている。いたずらっ子のような顔をして、絶対あれは何か企んでいる目だな。


「しーらーはーたーさん!」


「え? なに?! 何か気持ち悪いよ祥くん!」



 怯えたように身構える弘子さんに祥は、怪しく悪魔の様に微笑んだ。



「もう1つバンド入ってみないですか? がるばん♪」


「んえっ?! がるばん……ガールズバンドってこと? ううーん……やりたいような気もするけれど、時間がないかなあ。最近、生徒会の仕事もサボっちゃってるし……メンバー募集しているバンドでもるの?」


 生徒会……? 知らなかった。でも弘子さんは2年生だし、生徒会に入っていてもおかしくないか。でも弘子さんにはバイトもあるし、確かに時間的に限界じゃないかなと僕も思う。


 隣に居た理津美が、うっとりとした顔で弘子さんについて解説をする。恋する乙女って感じだ。


「ひろぽんはね。慶女けいじょで生徒会長なんだよ。人望厚いんだあ~」


「えっ?! 生徒会長! 慶蘭女子けいらんじょしって超偏差値高い高校なんでしょ?!」


「そうそう。しかも成績も学年トップだからね~ウチの高校で主席取るのとは訳が違うのだよ」


 自分のことのようにドヤ顔で自慢をする理津美。ウチの高校の学年トップは理津美じゃないか。お前だって十分に凄いぞ。でも弘子さんが学年主席で生徒会長なんて聞いてしまうと、急に弘子さんが物凄い遠い存在に思えてきた。


 祥が弘子さんのことを口説きに入った。まったく、狙った獲物は逃さないタイプだな。人のバンドの面倒までみるとか、優しいと言うか、お節介と言うか。


「メンバー募集と言うか……バンド結成というか……メンバーは白旗(しらはた)さんも知っている人たちですよ。そこでドラムを叩いてもらいたいのです」


「ドラム! ドラムかあ……ベースならともかく、それじゃあ尚更時間が取れないよ。ごめんね祥くん」


「練習は来れる時だけで良いですよ。白旗さんが居ないときは俺が代わりにドラム叩くので」


「まじか~……どうしようかな……」


 弘子さんは嫌と言う感じでは無くて、本当に時間が取れなくて止む無く断っているようだ。本当にバンド好きなんだな。祥も強引だからなあ……脈があるとわかれば、そこに付け込んでくる男だ。ある意味、弘子さんは、もう祥の術中にハマってしまったと言っても過言ではないだろう。


 思っているそばから、祥は弘子さんを煽りたてた。


「今までバンド休憩してた分、取り返しませんか~? 白旗さん好みの可愛い女の子が揃ってますよ~」


「まるで私がレズみたいじゃない! そう言えば、私の知っている子だって言ってたよね……誰?」


「はい。たぶんですけれど知っていると思いますよ。メンバーは『片瀬理津美』、『川名玲子』、『石川直美』です」


「ええ?!」


「うわあ!」

「まじかっ!」

「ちょっと聞いてない!」


 弘子さん、チビトリオが一斉に驚きの声を上げた。


挿絵(By みてみん)

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