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第二曲 初スタジオ


 土曜日の夜……

 バイトが終わり、藤沢駅近くのスタジオに向かう。スタジオの場所を僕は知らなかったけれど、一緒にバイトに入っていた弘子さんが知っていたので連れて行ってもらうことにした。


 弘子さんは大きなベースを背負っていて、とても重そうだが、長身で細身の弘子さんには、とても似合っているし格好がいい。


「ブリドリさんたちとセッションできるかなあ……?」


 弘子さんてば、ベースの重みよりもブリドリに会えることのほうが嬉しいみたいだ。そんなものなのかなあ?

 まあ、僕としても弘子さんが近くでベースを弾いているところが見れたら勉強になるし良いこと尽くめなのだけれど。


 弘子さんがベースを弾いているところを早く見てみたい。綺麗な人が楽器を弾いてる姿って、きっと綺麗なのだろうな。弘子さんは年上しか居ないバンドのメンバーだしテクニックもとても高いのだろう。


「あ! いたいた! 弟~!」


 後ろから祥の声がした。振り向くと祥が小学生の様に大きく手を振っている。そんな姿を見ていると可愛いなとか思ってしまう。変な意味では無くて……たぶん。

 弘子さんが僕の隣からブリドリメンバーに向かって会釈した。顔が緊張しているように見える。そりゃそうか。まともに話すのは今日が初めてなのだろうから。


 まあ、緊張するほどの面子ではないのだけれど超人気バンドと言う先入観があるだろうから緊張するのも仕方ないのだろう。確かに僕も最初は緊張していたしね。他人のこと言えないか。


 ブリドリメンバーが、こっちに向かって駆け寄ってきた……そして祥は僕に飛びついて思い切り抱き着いた。


「おとうと~! 会いたかったぞー!」


「ちょっと! 苦しいよ。弘子さんが見てる!やめろ!」


「ええ~……つれないなあ……」


 僕は祥のことを突き放して弘子さんに挨拶するように促した。祥も周りに気を使わないようになってきたな。いや、周りに人がいなかったら良いって意味ではない。決して。って、僕は誰に言い訳しているんだろう……


白旗(しらはた)さん! いきなり誘ってしまってすみません。」


「いえいえ。ブリドリから誘われるなんて光栄です。」


 珍しく祥が敬語で弘子さんに挨拶した。彼も目上の人には普通に話せるやつなんだな。目上の人と言うのもあるけど伝説のバンドのベースってことで敬意を払っているということもあるように見えた。


「弘子さ~ん! 会えて嬉しいっす~! お友達になってくださ~い」


「こら拓人! まず自己紹介が先だろ!」


 相変わらず軽いノリのボーカル拓人と保護者のようなドラム哲太。ブリドリ内でもちゃんと役割分担が出来ているみたいだな。


「自己紹介はいらないよ。ブリドリの拓人くんに哲太くんだよね」


 拓人の軽いノリに緊張が少しほぐれたのか弘子さんの表情が少し柔らかくなった。拓人のチャラ男っぷりも少しは役に立つのかもしれない。


「弘子さんから名前覚えられてるなんて、感激っすう♪ 」


「大袈裟だよ……」


 拓人は拝むように両手を組んで感激しているのだが、弘子さんの様子を見ると少し引いているみたいだ。こう言うノリは苦手らしい。

 道の真ん中で立ち話しているのも邪魔なので、スタジオに行こうと言う話になり僕たちは急ぎ足でスタジオを目指した。スタジオは僕のバイト先から、さほど遠くなくて雑居ビルの1階にあった。大きな看板に『POW』と書いてある楽器屋さんだ。


「達也さんお疲れです~」


 ブリドリのメンバーと弘子さんが挨拶をしているのを見て、僕も慌てて挨拶をした。

 こう言うところ初めてだからどうして良いかわからないんだよな。


「よお! お疲れ~Aスタ取っておいたよ。無制限に使ってくれよ。お得意さん!」


「いつもすみません。いつも広いところ押さえてもらっちゃって。特に今日は大人数だから助かります。」


 祥は店員の達也さんに恐縮した感じで挨拶した。達也さんは髪の長さが肩までくらいで細身、Tシャツに皮のパンツを履いている。いかにもバンドをやっている感じの人だった。見た目25歳くらいかなあ……


「全然構わないよ。その代わり売れたらウチのこと宣伝してくれよな!」


「任せてください!」


「ところで、そこの女の子は『女神(MEGAMI)』の弘子ちゃん? で、男の子は噂の新メンバーかい?」


 弘子さんは達也さんに肯定の意味でニッコリと微笑んだ。達也さんは弘子さんの顔を見て少し赤くなっていた。そりゃあ美人の弘子さんから微笑まれたら赤くもなるよな。礼儀として僕も挨拶しておいた方が良いよな。


「あ、あの。弥勒寺みろくじかけるって言います。よろしくお願いします。」


「弟~そんなに硬くならなくて良いよ。達也さんは俺たちの兄貴的な存在だからな」


 祥が僕の挨拶に割って入った。でも人見知りの僕には助け船と言う感じだ。初めてあった人と会話を続かせるなんて僕にはハードルが高すぎる。


「そうだ。その弟くんにバンドデビュー記念のプレゼントをあげるよ。」


 達也さんから小さな箱を渡された。

 なんだろこれ……? 祥が隣から箱を覗き見て大袈裟に驚いて見せた。


「達也さん! これミニアンプじゃないですか! かなり助かりますよ~」


「いやいや、大したことないよ。ギター購入特典のオマケアンプだから気にしないで。」


「よかったな弟! これで家でもベースの練習が出来るぞ!」


「う、うん。達也さんありがとうございます。」


「どういたしまして~。売れたらウチのこと宣伝な。あ、これさっきも言ったか。」


 本当に兄貴みたいな懐の大きい人だな。たしかアンプってベースに繋げて音を出す機械だっけ。


 祥も自分のように喜んでくれたし、これは貴重なものなんだな。けれど、これで家で練習が出来ないって言い訳が出来なくなって少しプレッシャーが増えたな。


 祥がメンバーに号令をかける。


「よし、スタジオ行くぞ。達也さんありがとうございます!」


「はいよ~。あ、そうそう。お客さん来て先にスタジオ入ってるよ。可愛い女の子3人組。」


「あ~はいはい了解です。」


 3人組って言うからにはチビトリオに違いない。

 あいつら早いなあ…メンバー以上に気合いが入っているじゃないか。まあ、理津美はメンバーだから、それに時間を合わせたのかもしれないけど。


 僕たちは、ぞろぞろとスタジオに向かった。



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