第七曲 女神(MEGAMI)
次の日の朝、スマホに入れてもらった曲を聴きながら通学する。
Bass音を強くして何回も聴いていると、リズムが何となく掴めてきた気がした。と言っても弾けるのだろうか? 今は想像もつかない。当り前か。
「翔ちゃん! 翔ちゃん! 翔ちゃんってば!」
「わっ! びっくりした!」
下を向くと理津美が僕の顔を覗き込んでいた。急に出てきたものだから驚いてしまって、思わず叫んでしまった。僕はイヤホンを耳から外し理津美を見ると、ぷくっと頬を膨らまして怒っている。
「びっくりしたとか、何回も呼んだけど翔ちゃん気づかないし!」
「そうか。あのさ、ちょっと聞いていい?」
「え? 突然何? 答えられることなら答えるけれど」
丁度いいや。バイト先の先輩の弘子さんのことを聞いてみよう。祥が言っていた伝説のバンド『女神(MEGAMI)』のこと。
「女子バンドでさ?『女神(MEGAMI)』って知ってる?」
「もちのろんだよ~知ってる知ってる。それで『女神(MEGAMI)』がどうしたの?」
やはり理津美は『女神(MEGAMI)』のこと知ってるんだ。これで話しやすくなった。
「僕のバイト先で『女神(MEGAMI)』のベースやってる人がいるんだけどさ」
「弘子さんでしょ? 知ってるよ! 彼女かっこいいよね~。頼りになるお姉さんって感じ」
さすが理津美、なんでも知っているな。ブリドリを紹介してくれたのも理津美だし、彼女には知らないことが無いに違いない。まあ、ブリドリを紹介してくれた経緯は、祥から僕を紹介して欲しいって頼まれたからって言うのもあるけれどね。
「その弘子さんの入っているバンドなんだけどさ、最近活動していないの知ってる?」
「知ってる。確か、メンバー間で音楽の方向性の違いとかで揉めちゃったらしいよね」
「メンバー間?」
「そう。メンバー間。ほら、弘子さんだけ高2で他のメンバーは3年生でしょ? 弘子さんは意見を言いづらいだろうし、他のメンバーは就職とか受験もあるし、余計に拗れちゃっているみたいなんだよね。近々解散と言う噂もあるくらい」
なるほど。これで祥が言っていた『女神(MEGAMI)のバンド活動がおとなしい』と弘子さんの暗い表情の意味が繋がった。
いくらバンド内とは言え、相手は年上だし言いたいこと言えないだろうな。自分の気持ちを抑えて過ごすのは辛かっただろう。
「さすが物知りの理っちゃんだね。ありがとう」
「なにそれ嫌味? それよりも翔ちゃんは、人の心配より自分の心配をした方がいいじゃないの?」
理津美から痛いところを突かれた。逃げ場くれないんだよな。正論だけに何も言い返せない。
「わかってるよ。ちゃんと考えているさ。」
「そうそう。真剣に考えなきゃダメだよ! 私にも関係するんだから……」
「……え? 僕の結論がどう理っちゃんに関係するのさ?」
「何でもないよ。ほら、急がないと! 遅刻しちゃうよ!」
理津美から、ポロっと出てきた言葉。僕の動向が理津美に関係しているって、どう言うことなんだろう?
……とは言え、自分の事だ。昨日の弘子さんの意見も加味して、ちゃんと考えて結論を出そう。
そして、いよいよ期限の木曜日の朝を迎えた。




