第六曲 CDと懐メロ
無事に弘子さんを終電に乗せることができて、家に帰る。
祥から貰ったCD聴かなきゃ。『ベースが際立っている曲』って言ってたけど、どんな曲だろ?楽しみだな。
「ただいま」
家に着いたが、やはり両親は寝ているようで反応は無い。2階の部屋に向かって階段を上る。
「翔ちゃんお帰り!!」
姉さんが元気よく自分の部屋から飛び出して僕に抱き着く。僕のことを見た時のルーティンワークみたいで、すっかり慣れてしまった。この人が弘子さんより年上なんて信じられない。もう少し落ち着いて欲しいものだ。
「ただいま香ちゃん」
「ねーねー? 翔ちゃんバンドやるんだって?」
「え? 誰から聞いたの?!」
「玲ちゃんからSNSで聞いたんだよ~」
玲子のやつ! 恥ずかしいから、結論が出るまでは秘密にしておこうと思ったのに! 女ってやつは、どれだけ口が軽いんだ。
「あいつ口軽いな」
「玲ちゃんがね? 『翔ちゃんのこと心配だろうからスパイしてあげる』って言ってた。可愛い子だよね」
まったく。僕にプライバシーってのは無いのか。そんなことより早くCD聴きたい。でも僕はCDコンポを持っていない……姉さんは持ってたよな。
「まあいいや。香ちゃんって、CDコンポ持ってるよね? 貸してくれない?」
「いいよ。翔ちゃんが音楽聴きたいとか珍しいね」
「うん。そのバンドのメンバーが聞いておけって貸してくれたんだ」
僕は姉さんの部屋に入ってCDを手渡した。姉さんはCDをコンポにセットした後、CDレーベルに目を通した。
「ふ~ん…… どれどれ? 1曲目は『金のルージュ』 ……だって」
「曲名聴いたことないな」
CDコンポから曲が流れだす。低音の楽器……これか。心に心地よく響く感じがする。歌手……誰だろう?艶めかしいと言うか妖しい感じ。曲に聴き入っていると突然姉さんが叫んだ。
「これ! 大泉今日子! キョンキョンだ!!」
「大泉今日子……? え? 女優の?」
ドラマに出ていた大泉今日子ならわかるけど歌手の大泉今日子なんて聞いたことがない。ピンと来ない様子の僕を見て、姉さんが僕の両腕を揺さぶった。
「前にパパが言ってたじゃん! 大泉今日子は昔歌手でファンだったって!」
「え? そうだっけ?」
父親の話は話半分に聞いているから良くわからないけど姉さんが言うなら、間違いないのだろう。興奮した姉はスマホで歌手の大泉今日子を動画サイトで検索して僕に見せる。
「ほら! これ! 大泉今日子!!」
「若っ!」
僕が持っている大泉今日子のイメージとかけ離れた女性が動画サイトの中で歌っている。言われてみれば確かに大泉今日子だ。
「綺麗だね~。私と同い年くらいかなあ……可愛い! 玲ちゃんに似てない?」
「似てないよ! ショートヘアーは同じだけど全然顔が違う」
「そうかなあ? 目のあたりとかソックリだと思うけどな」
「似てないって! そんなことより曲聴かなきゃ!」
「あ、そうか。ゴメンゴメン」
こんな曲、祥はどこから持ってくるのだろう……?
お陰でベースの音は少しわかったような気がする。『金のルージュ』が終わり次の曲が流れた。落ち着いた曲。バラードと言うヤツなのかな?
すると、姉さんがCDレーベルを読んでくれた。
「曲名は『CLOUDY HEAT』歌手名は何て読むんだ?POOWYって書いてある。ほら?」
スマホの画面を俺に見せる。
「ん? ポーーウイ?」
「ださっ! そんな訳ないじゃない!」
姉さんが笑いながら歌手名の読み方を検索してくれた。
「読み方『ポウイ』だって! あ! 麻袋寅泰さんがギターやってる!!」
「あのデカいひとっ?!」
「デカいひとって、そんな言い方ないでしょ!女優の明日井美樹さんの旦那さんね」
「へえ~結構有名な人が昔バンドやってたんだねえ……」
「そうだね~お父さんが聴いたら喜びそう」
『CLOUDY HEAT』のベース音は耳を澄まさないとわからない感じだった。だからベース音が分かりやすい『金のルージュ』を最初に聴かせて次に『CLOUDY HEAT』を持ってきたのだろう。やっぱり祥ってスゴイや。
姉さんがCDに入っている曲をスマホに入れてくれたから、明日通学する時に繰り返し聴くことにしよう。




