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第四曲 祥登場


「ぶ、ぶり、、しょ○△xx□○△xx□!!!!!」


 弘子さんは、まだパニクっている。祥も、もっと普通に登場すればいいのに。人気バンドのイケメンギターって自覚あるのかな? って、一昨日まで僕も知らなかったけれど。


 僕はパニクる弘子さんを放っておいて祥に聞いた。


「祥さん……? 今日はどうしたの? って言うか、そもそもココで僕がバイトしてるの知ってたの?」


「ああ。翔のことなら何でも知ってるよ~」


 飄々(ひょうひょう)と答える祥に突っ込む気も起きなかった。


「ところで何の用?」


「あ、そうそう…」


 祥がカバンの中をゴソゴソ探している。

 その間に弘子さんは何とか平静を取り戻したらしくテンパりながらも自己紹介を始めた。


「ぶ、ぶりどりの祥くんですよね? 私は翔くんのバイトの先輩の笠原………」


 弘子さんの自己紹介が終わる前に、祥はニコニコして言った。


「知ってますよ? 伝説の女子バンド『女神(MEGAMI)』のベースHIROKOさんですよね?」


「祥くんが私のこと知ってる!!!」


 祥の言葉を聞いて弘子さんは卒倒しそうだ。


 ……伝説のバンド?

 そんなスゴい人なんだ?


 それにしても立て続けの祥からのサプライズに弘子さんの寿命はいくつ縮まったことだろう。とりあえず弘子さんを何とかしなきゃな。


「弘子さん大丈夫? 深呼吸してみたら?」


「スーハースーハー……」


 素直に弘子さんは、両手を広げて深呼吸を始めた。いつも冷静な弘子さんが、こんなにテンパるの初めて見た。

 それだけ祥の存在は凄いってことか。やっと何回目かの深呼吸で落ち着きを取り戻したらしい弘子さんに祥が聞いた。


「ところで『女神(MEGAMI)』って、活動してます? あれだけ盛り上がってたのに最近おとなしいですよね?」


 祥の素朴な疑問を聞いて弘子さんの表情が曇った。


「おとなしい……そうかな……? ごめんね。仕事戻らなくちゃ。」


 弘子さんは言葉を濁して仕事に戻っていった。何だか痛いところを突かれた感じだったけど大丈夫かな? 祥も『マズいこと聞いちゃったかな?』ってバツの悪い感じだ。気まずい空気を察して僕は話題を変えた。


「話は戻るけど何か用?」


「あ、そうそう! これ!」


 祥からCDを手渡された。


「なにこれ?」


「何ってCDだよ。ベースが際立っている曲を集めたから聞いておいてな!」


 ベース……弘子さんの分析は正しかったらしい。


「僕が担当するかもしれないのはベースなの?」


「あ! 言ってなかったっけ? 翔くんが担当するのはベース!!」


 すっとぼけた感じで言い切られた。


「バンドに入るかは悩んでいる最中だよ。でも折角だから受け取っておく。」


「おっけー♪ でも翔くんはバンドに入るよ? 絶対に、ね。仮に断られても追い続けるからな。地球は丸いんだから!! じゃあ、またな!!」


「何それ?意味わからない!」


 祥は笑いながら大きく大きく手を振って去っていった。追い続けるって……祥なら本当にやりかねない。

 それにしても弘子さんが伝説のバンドのメンバーだったとは驚きだ。まあ、祥はオーバーに言っているだけかもしれないけれど……


 明日、理津美に聞いてみよう。彼女なら音楽にも詳しいし客観的な意見をくれるだろう。


 おっと、レジにお客さんが並んできたな。サボってないで、僕も仕事しなきゃ。レジに入ると隣でレジ打ち対応していた弘子さんから耳打ちされた。


「翔ちゃん。仕事終わってから時間ある?」


 ん? どうしたのだろう? 弘子さんに仕事以外で誘われるのは初めてだ。なんだろう?


「大丈夫ですよ。時間あります」


「さんきゅ♪ じゃあ後でね」


 弘子さんの様子を見たら、仮に予定があっても断れないと思った。さっき祥が弘子さんに言った『バンド活動が最近おとなしい』ってことに関係するのかな。その言葉を聞いてから元気がなくなった感じがしたんだ。



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