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7.うそ

 美砂子は、太平からもらったきらきらと輝く貝殻の入った小さな段ボール箱を抱えていつものように、約束の時間に明秀と待ち合わせをしているところへと戻ってきた。その約束の時間までに明秀は、図書館で読書をしていたり、ぶらぶらと散歩をしたりしていて、美砂子の跡をつけたりは決してしなかった。

「お嬢様、それはどうされました?」

「もらったの」

 美砂子は素直に答えた。明秀は心配そうな顔をした。それを感じ取った美砂子は、

「大丈夫。お母様には、明秀と海岸に拾いに行ったことにするから」

「ですが・・・」

 明秀は少し困ったような表情をしていた。


「なんですそれは!?汚い」

 母親は、明秀と一緒に貝殻を拾ってきたと言う美砂子に向かって怒鳴りつけるように言った。その横には、かなり小さくなった明秀が立っていた。彼は、だから言わんこっちゃない!と言ったような表情をしていた。美砂子の母親は根っからのキレイ好きで、外に出かけることを極端に嫌っていた。ましてや、外に落ちているものを拾ってくるなどということがあろうものなら、このようなことになって然るべきなのである。

「お母様、私がすべて洗いますので・・・」

 明秀は、小さなまま言った。その小ささというのは、美砂子と同じくらいだろうか?それくらい萎縮していた。

「それじゃあ、綺麗に洗いなさいよ!」

 これで許してもらったのは奇跡だったと言えよう。ここ最近の美砂子の行動にもう呆れて、諦めてしまったのだろうか?いや、そんなことはない。そう、そんなことはなかったのだった。

 綺麗に洗いなさい!と明秀に命令した後、母親は、冷静になって考えた。

( そういえば、ここに執事に来てほとんど間もない明秀が、この島でほとんど外出した事のない明秀が、どうして、どうして、貝殻が落ちているような海岸を知っているのだろうか?)

 この島には、ほとんど海岸がなかった。あったとしても、断崖絶壁を下っていったところ。その他にもあるかもしれないが、そんな穴場を明秀が知っているはずがなかった。


 綺麗に洗われた貝殻が美砂子の部屋へと明秀の手によって運ばれた。貝殻は最初に入っていた粗末な入れ物ではなく、お金を出さないと手に入らないような入れ物に変わっていた。もちろん、貝殻は違う意味できらきらと光っていた。

 美砂子は安心した。洗われた後ではあったが、貝殻は元の輝きを失っていなかった。このきらきらとした輝きは、美砂子の笑顔へと移っていくのだった。その様子を見た明秀は、苦労して貝殻を磨き上げた甲斐があったと思った。一つ一つ手で黄色のスポンジを片手に汗を流しながら洗ったのだった。スポンジにした理由は、タワシやブラシだと貝殻に傷がついてしまうかもしれない、という美砂子への気遣いのためだった。明秀は、美砂子に気に入られること、なついてもらうことが、とりあえずの目標であった。そうすれば立派な執事がつとまると思っていた。


「美砂子、明日は私とお散歩に行きましょう」

 一同、目を白黒させた。食事の席で、美砂子の父親がいたが、思わず口に入れていたワインを噴出しそうになってしまった。それほど、母親のこの発言は驚きのものであったのだった。

 三井家では、家族全員で、食事をすることが決まっていた。三井家のお屋敷には、美砂子、その両親、および、その両親4人が住んでいた。ただ、美砂子から見て、祖父祖母にあたる4人は隠居生活とも言えるような生活をしており、食事のときくらいしか顔を見せない。普通の祖父祖母であるなら、孫の喜ぶ顔を見るためにあれこれとちやほやするものであるが、美砂子の母親がこれを一切禁じていたため、顔を合わすたびにかわいそうに見えて仕方がなかったために、部屋で老後の趣味にふけっているようであった。

「私は行かずに、お母様が行くのですか?」

 傍にいた明秀が、しばらくの沈黙を破り、控えめに言った。

「そうです。明秀は、今回は行かなくてもよろしい」

 きっぱりと言った。なんとなく今日の母親は違っていると美砂子は感じ取った。女の勘とでも言おうか・・・。

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