6.後の祭り
美砂子の度重なるおねだりに参ったため、さすがに、何日も何日も部屋に閉じ込めておくのはかわいそうだと明秀が母親に申し出た。普段あまり意見をすることはなかった明秀であったが、このときばかりは、美砂子のことが本当にかわいそうに思ったのであった。
明秀も美砂子のこの年齢くらいの頃、英才教育の名のもとにさまざまな習い事などをさせられ、普通の生活を送ることは出来なかった。それでも、外出することくらいは許されていたし、友達と外で元気よく遊ぶことは出来ていた。それすら出来ていない美砂子はやはりかわいそうだと思ったのであった。
仕方なく母親も同意し、美砂子を部屋から出すことを許可した。そして、明秀がもっと注意深く見ることを約束し、外出の許可までを得た。ただ、今までと同じように何度も何度も外出することは出来なかった。少しでも怪我の危険を回避するために、外出の頻度が減らされたのであった。
明秀にいつものように友達と遊んでくると言って秘密基地へと出かけて行った。明秀は明秀で、このときばかりは、かわいそうな美砂子を見て、許可をする以外の選択肢が思い浮かばなかった。もちろん、こんなことがバレようものなら明秀は執事としての職を失うだろう。明秀はそれくらいの覚悟は出来ていた。そもそも、明秀は、ここ数年でお屋敷にやってきたばかりであったので、長年ここに使えている執事ではない。だから、それほどこの母親の教育方針に洗脳されていないのであろう。
「すまんのぉ・・・、すまんのぉ・・・」
美砂子は、「なんで夏祭りの日に来なかったんじゃ?」と厳しく問い詰めた太平に対して、以前、太平が美砂子がヒットさせた大物の魚を逃がしたときに美砂子に謝ったときの言い方を真似た。
太平は、大笑いした。
「わし、そんなのじゃないわい!」
途中で笑っている自分が恥ずかしくなって、ふてくされたように言った。
「まあ、そんなこともあるじゃろ。うちのおやじもいかん、いうたら、いかん、ってのがあるんじゃ。ミーコもそんなんあるじゃろ。許しちゃる、許しちゃる」
美砂子は、心配そうな顔だったが、この言葉を聞くとすぐに笑顔に戻った。
「それでじゃ、ミーコが祭りに来なかったからわし、ミーコに花火を見せちゃろー思て、持ってたんじゃが、おやじに見つかって取り上げられてのぉ」
太平は、自分が花火をこっそり夏祭りの会場から持って帰る動作、それが見つかって父親に取り上げられる動作を面白おかしくやった。
「それでの、わし、考えたんじゃが・・・」
と言って、秘密基地の奥から美砂子が座っているものとは別の小さなダンボール箱を取り出した。それには布がかぶっていて、中が見えなくなっていた。太平はそれをうれしそうに美砂子に見えるように持った。
「なんじゃと思う?」
「わかんないよ、ねぇ、なに?なに?」
美砂子は、心からその中身が気になった。太平が夏祭りの変わりに用意してくれたものなのだから、きっと何か特別なもので、すごいものなんだと思っていた。
「じゃじゃ〜ん」
太平は、その布を大きな動作でさっと取り除くと、箱いっぱいのきれいな貝殻が顔を覗かせた。美砂子の顔は貝殻と同じくらいきらきらと輝いていた。
「これどうしたの?」
美砂子は尋ねた。
「これわのぉ、わしが秘密の海岸で集めたものなんじゃ。特別にミーコのために集めたんじゃ」
「うわぁ〜」
美砂子はその貝殻を手にとってより一層、目を輝かした。
「ねぇ、その海岸、どこにあるの?ねぇ」
「それはミーコでも教えられん。わしだけの秘密の場所じゃ」
太平は、わざと美砂子に意地悪して見せた。本当は心の中で見せびらかしてやりたい気持ちでいっぱいだったのだが、何か心の中の違った感情が、美砂子に意地悪をさせたのであった。
「もう、けち〜」
美砂子はむすっとした顔を作って冗談交じりで太平に言った。