3.秘密基地
太平くらいの年齢の少年なら誰でも秘密基地を作ってそこに潜んでいることに喜びを得るものである。もちろん太平も例外でなく、秘密基地を作っていた。それが、美砂子と出会った現場であったのだ。
太平はあまり友達がいなかった。というよりは、作ろうとしなかった。そのことから考えれば、美砂子という友達、しかも女の子の友達を持つなどということは異例中の異例であった。しかし、何故かこのような異例中の異例が実現したのかというのは簡単なことであった。太平は、何も知らない美砂子にいろいろと教えてやりたい。そして、一種の優越感に浸りたかったのであった。太平は根っからの負けず嫌いであったこともそれに影響している。
「ミーコはこの基地にいつでも来てええからの」
「うん」
「2人だけの秘密基地じゃ」
太平は自信満々であったし、美砂子はとてもうれしかった。
「ター君ってすごいね」
というのが美砂子の口癖になっていたし、太平はその言葉がたまらなくうれしかった。太平は、今、この言葉を聞くために生きていると言っても過言ではなかった。
秘密基地にはガタクタがたくさん置いてあった。そのガラクタが美砂子にとっては新鮮であった。いっそのこと花畑の写生をするよりは、ガラクタの写生をしたいと思ったくらいだった。習い事のとのひとつとして絵画があるのだが、花畑の写生はそれの課題である。
美砂子は習い事をたくさんしているために、いろいろなことが出来た。しかし、太平は美砂子の出来ないことを次々とやってのけるので、美砂子は驚きっぱなしであったし、太平と過ごす時間がとても楽しかった。
「ター君。私そこまで行けないよ〜」
「高くて見晴らしがええぞ。ミーコにも見せてやりたいが残念だわい」
「いいな〜。ター君」
太平は、秘密基地の近くの木にひょいひょいと登って美砂子を見下ろした。木の上からは島全体が見渡せた。この林で一番大きな木で、なぜか一つ頭飛び出していた。太平が下を見ると、美砂子が木に登ろうとしては、やめ、登ろうとしては、やめ、を繰り返していた。美砂子は怪我をしたらもう太平に会えなくなるであろう事をわかっていた。だから、木に登っていきたい気持ちを必死に抑えていたのだった。それに、服が汚れてしまっては母親にバレてしまうと思ったのもあった。
「ミーコ、手伝っちゃろか?」
「ううん、いい。ここから見てる」
美砂子は、太平と会えなくなることよりは木に登るのを我慢することを選んだのだった。
結局、太平は、美砂子は木登りが出来ないのだとわかったので、他の遊びをすることにした。
「そうじゃ、ミーコ」
太平が木からするすると降りてきながら言った。
「なに?」
「魚釣りしたことあるか?」
「魚釣り?」
「なんね?知らんね?」
「知ってるよ」
「そいじゃ、話が早い。やってみようや」
美砂子はずっと家の中に閉じこもったような生活をし、ほぼ習い事ばかりをしているため、知らないことも多かった。魚釣りはどういうことであるかということこそ知っていたが、どれだけ楽しいか、などということは全く想像がつかなかった。でも、太平が提案することなのだから、楽しくないはずがないと思った。
「うん」
美砂子はすぐに返事をした。