クリスマスの約束
空も地面も区別の付かないほど全てが灰色に覆われた場所に私は一人突っ立っていた。上着三重と下服二重に厚い手袋、スヌードを着服していた。気温は0度を下回りまさしく極寒と言えよう。
なぜ私がこんな所で棒のように突っ立っているのか。一人の女学生との待ち合わせがあったからである。本来、私のような二次元の世界にしか居場所がなかった人物は現実世界に何も期待はせず自由奔放にその十七年という人生を歩んできた。しかし、数か月前にとある女学生が近寄って来たのだ。彼女は私と同じような人生を歩んできたと言う。互いの趣味が合い、沢山の話をし、いつしか好意を持つようになっていた。そして今日、彼女を誘ったのだが、何故か来ないのだ。本当に訳が分からぬ。
右手の厚い手袋を外した。寒さが手を襲い一瞬のうちに冷たく感覚を麻痺させる。その手を下服の右側の衣嚢の中に突っ込み、多機能携帯電話を取り出す。時間は九時半。待ち合わせ時間は九時、三十分も待っていた。手紙のアイコンを親指で軽く押し、『待っています』と電子手紙を女学生に送った。待つこと数十分経つが一向に返信が来なかった。
私は到頭、自分の立場というものを理解した。それは待ち合わせ時間に来なかった時点で解っていた。しかし、自分が自分のためにそれを無意識に否定していたのである。
私は不格好なフォームでその場を駆け出した。泥沼に変化した道を蹴り、真っ白い世界の一本道を早くと早くと自分の心に嘆きながら走った。体全体の感覚がなくなったとしても。
自宅へ着いた。二重ロックされている扉を開け、家の冷え切った廊下を早々と歩き、自室の扉を強く開けた。そして勢いのままに寝台へと飛び込んだ。
私しかいない家からは無邪気になく子供のような声だけが響いていた。
その日の夜、女学生から一通のメールが届いた。長く空白の続いた先には『ごめん』があるだけだった。
それ以降、私は女学生とは一度も会っていない。