貴方が主人に成り得たのは。
山下君はなぜどーして勇二を好きになったのか?
そーゆー感じの話です。
微下ネタ?注意。
閲覧は自己責任にて宜しくお願いします。
裏話は全員分書こうと思ってます。まだそーゆー感じじゃない人の裏話が先に出来上がっていたりもしますが……。
中学時代はテキトーに乗り過ごした。
彼女なんていらなかった。まぁ、セフレは何人かいたが。
恋?
そんなもの、いらない。
女はいちいち纏りついてくんのがうっとうしかったが、テキトーに相手して、面倒くなったらダチにやったりした。
「格好良い。」
「明るいけどちょっと冷めてる。」
「遊び慣れてる。」
「不良だけどそれが似合ってる。」
誰も俺の本当の顔をしらない。
教えるつもりもないが。
それは、高校に入っても同じだろう。
そう、思っていた。
私立泉院学園。
地元でも有名なバカ高校だ。試験に名前書くだけで入れるとか言われている。
そして、今日から俺が通う学校でもある。正直かったるい。中学からのダチの桃時とか木野がいなかったら、入る気すら起きなかっただろう。
桜がそこらへんを飛び交い、頬をかする。
見た事のない奴等と並んで、体育館に向かう。……入学式があるのだ。
外見ほど古びていない館内は、春特有のひんやりとした空気で満ちていた。
気持ち悪ィ。
何も思ってはいないのに、そう口の中で呟いて、自分のパイプイスにどかっ、と腰を下ろした。
「ゆーうじ!!」
騒々しい叫び声が聞こえた。バタバタという煩い足音と共に、体育館に入ってくる。
「純也!! お前うっせえよ!! 場所考えろ、場所を!!」
なんだよ、答えてるお前の方が煩ぇよ。誰だ?後でボコってやろうか。
俺は声の方へ振り向いた。
…………!!
「……? 山下君? どうしたの?」
「……何でも、ない。」
心配したのか、ただ気に入られたいのか、同じクラスの女子に声を掛けられた。が、いつものように軽く話題に入れない。
引きつけられた。
目が、放せない。
「そう? じゃ、メアド交換しようよぉ。あ、あたし木田怜子ぉ。れいちゃんって呼んでぇ。よろしくね!!」
言葉が、耳に入らない。
何故?
分からない。
「もう! 山下君!?」
「あ、悪ィ悪ィ。メアドな。」
なんで会ったばっかなのに、名前知ってんだとか、この学校ケータイ禁止なのに堂々と出していいのかとか、そんな疑問は一切吹き飛んでいた。
「俺等ももう高校生だぜ、勇二?」
「やべーよ。俺勉強智裕に教えてもらねぇといけなくなったかな。」
「智裕君弟じゃん!!」
後ろの二人の会話を、必死に聞いてしまう。
「はぃ、赤外線完了! 今からメールでアドレス送るね!」
「あ、ああ。」
そっちも赤外線で送ったら良いんじゃねーのとか、俺にメール送りたいだけなんじゃねーのとか、考える暇すらない。
「つーか純也お前高校こそはちゃんと宿題やってこいよ!」
「えぇ〜? やだぁ、じゅんちゃん宿題きらーい。」
「キモッ!!」
「うわ、ひでぇ!!」
隣りで木田が「れいちゃんの着メロくぅちゃんにしてー!」とか言っても、は? 何がれいちゃんだよ、お前なんかキダタローで十分なんだよ。とか、お前の着メロダースベーダーで決定ー。とか思う余裕はない。
「つーか見ろよ、純也。あの金パ、西中の山下じゃね?」
びくん、と体が震えた。
耳元で囁かれているかのように、鮮明に聞こえる声。
名前を呼ばれた一瞬のうちに広がる期待のような疑問のような感情。
今までの会話で分かったのは、名前と、クラスと、二人の出身中学。二人はどうやら同中卒らしい。
羨ましい、と思う。
ずるい、と思う。
何故?
やはり、分からない。
しかし、その感情はどうやら「勇二」という片割れを中心にして回っているようだった。
勇二? 俺にははたしてあの人を呼び捨てにする権利があるのだろうか。勇二君、勇二、さん。勇二…様、勇二様か。そっちの方がしっくりくる。
……バカじゃねぇか。なんで同級生に様付なんだよ。
「マジだ。目立つなー。」
「つーか顔キレー過ぎだよなー。女の気持ちも分かるわ。」
「うわー勇二にそんなこと言わせるなんて、嫉妬ー。」
「お前、相変わらずキモいな。」
「ちょっ! 今のは酷いだろ!!」
どくん、どくん。
やけに鼓動が速くなってくる。
どくん、どくん。
顔、キレー過ぎだよなー。
ぐるぐる頭の中で言葉が回る。今まで何人もの人に言われてきたはずなのに。
今までで、一番、むず痒い。
もっと褒めて欲しい。
でも、傷付けて欲しい。痕を残して欲しい。
「メールこないねー。」
「え? あ、ああ。もう赤外線で良くね?」
「えー。あ、やっと来たぁ。もう、遅いよぉ。」
れい、と登録した。否、正しくはさせられた。倖田來未は持ってないと言うと、赤外線で送られて、それを登録するハメになった。
「つーか担任あのハゲだよねー。」
「ハゲ言ってやるなよ、カワイソーだろ。」
「尋君思ってないくせにー。」
いつ、尋君って呼んでいいって言った? 正直ブリっ子はウザい。それにイタい。
「つーか俺等4年連続同じクラスとか、もう運命じゃね?」
「は? お前と運命とか、キモ過ぎ。ありえねー。」
同じクラスが良かったな。
パイプイス群を大きく迂回しながら前の方に進んでいく二人を目で追う。
彼等が座ったのは、俺から大分はなれた席だった。
いろんな女から誘われた。
カラオケとか、昼飯とか。奢るとまで言う。
だが、俺は行く気にならなかった。
何の予定もないまま家に帰る。
歩きながらも、電車に載っている間も、頭にはずっと、勇二様のお顔が、焼き付いてはなれない。
あれ?
勇二様?
お顔?
俺はどうしてしまったんだろう。
がちゃり、と家の鍵を開ける。古いアパートに一人暮らし。まるで不良の鏡だ。
不良。
勇二様は、不良がお嫌いではないだろうか。
金髪はお嫌いだろうか。
色、染め直そうかな。勇二様と同じ、黒に。
「山下。」
まだ、勇二様には名字でしか呼ばれた事が無い。それも、俺に声をおかけになられたのではない。
「……って、何考えてんだ、俺。」
やべーよ。
俺、頭おかしいんだわ。
「………ねよ。」
飯も食わずに、ベットに転がった。
ケータイから流れる倖田來未が、だんだんと遠のいていった。
………
…
……………ヒロ。
……ヒロ、返事しろ。ご主人様だぞ。
「は、はい。俺はここです。」
……一回でちゃんと返事しろ。
「はい、すみません。」
………お仕置だ。
「はい、ご主人様。」
ビシッ
「あっ…!!」
……なんだ、嬉しいのか?
「ご主人さまぁ。」
………何だ?
「わ、分かってらっしゃるのに……。」
……分からない。お前がちゃんと口で言え。
「……も、もっと、叩いて、下さい…。」
………フッ、とんだ変態だな。どれ位叩けばいいんだ?
「痣が、残る、くらいに。」
……どこを?
「…………。」
……尻か。自分から突き上げるなんて、お前の友達が見たら、なんて思うだろうな。
「………言わ、ないで、下さい…。」
……恥ずかしいのか? 自分からしておいて。
「恥ずかしい、です。」
………クスクス…、さて、何で叩いて欲しい?
「ご主人様の、持ってらっしゃる、その、鞭で。」
……そうか。
パシッ
パンッ
ピシッ
「はぁ、ひぁっ、はぁあんっ。」
……気持ちイイか?
「はっ、はいっ! ご主人、様!」
……俺の名前は、
…………………勇二。
「勇二、様。」
ジリリリリリリリリ!
……時間切れだ。じゃーな。
「ま、待って下さい! ご主人様!!」
リリリリリリリリリリリリリバンッ!!
リィーーーーン……
「マジかよ……………勃ってんじゃん。」
何でだ?
そして何だったんだ。
さっきのは……夢?
叩かれる夢見て興奮するなんて……俺ってM?
しかも……
相手、アイツだった。
「何なんだよ………クソッ!!」
枕を投げ飛ばす。壁にぶつかった枕は、だらしなく床に落ちた。
ムシャクシャは収まらない。しかし、俺にはどうする事もできない。
しかも、さっきから自分の尻がざわざわしている感じがする。
「………。」
この際、男とかそういうのは置いといて、Mかどうか位確かめてみようか。
俺は普段なら絶対にしないような事を、はじめてしまった。もう、本当に頭がおかしくなってしまったのかもしれない。
ゆっくりとスウェットごと下着をずらす。顔はベットにつけ、尻を突き上げるようにして膝を折る。
近くにあったプラスチック製のハンガーを手に取った。
パシンッ
「いっ!!」
痛い。
だが、一瞬だけ、ご主人様のお顔が浮かんだ。
……ご主人様?
「はぁ…。」
ため息を吐き出す。認めたくはない。無いが、しかし……。
俺は学校に向かっている。
朝色々あったから、一限には確実に遅れるだろうが、この際仕方がない。
只今の時刻、8時45分。一限は50分から。
電車から降りる。学園までは徒歩10分。
走れば半分だ。
走れば間に合うかもしれない。だが、俺は走る気にはなれなかった。
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!! 遅刻遅刻遅刻遅刻遅刻ううううううううう!!!」
いきなりの叫び声に、後ろを振り返った。
「ご主人様……。」
だんだん近付いてくる。
どくん、どくん。
鼓動が、激しくなってきた。
「ん? あ、山下じゃん! お前も遅刻するぞ!! ここの生活指導の中西、うるせーらしいから走った方がいいぞ!!!」
「あ? どっちみちもう遅刻だよ。」
「んなこたねぇ!! 俺はやってみせる!!!」
「そーか。なら、ここで喋ってない方が良いんじゃないか?」
「ああああああああああ!!! そうだった!! じゃ、俺は行くぜ!!! じゃーな!」
俺は、初めてご主人様とお話をすることができた。
小さくなっていく背中を眺める。もっと一緒にいたかったが、股関の方が大変なことになりそうだったから諦めた。
「気持ちイイ……。」
背中がぞくぞくとして、俺は制服の上から、自分が叩いた尻を撫ぜた。
俺は学校までの道を、また歩きだした。
きっと、着いたらご主人様と二人で生活指導室だ。
ニタニタする顔を、俺は元には戻せなかった。
ご主人様がお気付きになられるまで、この気持ちはそっと胸にしまっておこう。
いや、もう一生打ち明けられないかもしれない。
それでもいい。
それでも、勇二様は、俺のご主人様だから。
きゅう、
顔を思い出して、胸が苦しくなる。
桜が、どこまでも色素の薄い青空に舞っている。
それでも、
いつか、
いつか。
……相変わらずさーせんっした。