006.日常の崩壊3
かなり短いので続きをすぐに投稿します。
別け方の都合上こうなってしまいました。申し訳ありません。
司書さんが帰ってこない。
もう三日だ。三日もあの姿を見てない。
部屋の片隅で、ルーシーは身を縮こまらせていた。
どんなに仕事が忙しくても、司書は必ずその日の内に帰ってきた。
これまでにない異変にルーシーは敏感になっていた。
泣いたのだろう。彼女の目許は赤く腫れていて、目の下には隈が浮かんでいる。
カイトが懸命に場を盛り上げようとするが、重苦しい雰囲気を払拭することはかなわなかった。いない司書に向かって、カイトは決まり悪そうに毒づく。
「アイツめ。帰ってきたら俺様の右拳を顔面にくらわしてやるぜ。ルーシーをこれ以上寂しくさせると、威力が増してくから! いいかァ!? おい、そこにいるんだろ!? とっとと入ってこいよ。さもないと──」
「うるさいよ、カイト」
少し掠れてはいるが、透き通る声。
顔を俯かせ、カイトはそのまま黙ってしまった。
どうして司書さんかえってこないのかな。もしかしてルーシーのこと嫌いになっちゃったのかな?
考えたくないのだが、嫌なことばかり考えてしまう。
自分とカイト以外いない部屋が、やけに広く思えた。
まただ。
じわじわと視界が歪み、涙が頬を伝っていく。
嫌というほど涙は流したのにどうしてまだ出てくるの。
裾で涙を拭き、また出てくる涙を拭いた。
窓が音を立てて激しく振動している。外は豪雪だった。以前触れた時には温もりのあった雪も、今では冷淡とした様子で降りつけている。
それが余計、ルーシーを寂しくさせていた。
人肌が恋しい。
つい五日前の温もりがもう大分前のもののようだった。
寂しいのは辛い。取り残されるのは辛い。
自身の中で蓋をして、二度と開けないと思っていたはずの蓋が微かに開いた。
ルーシーの眼に映る輝きはくすんだものになっていき、いかなる光をも通さない黒へと変化しかけていた。
あの時の瞳だ。
変わっていく、いや戻っていくルーシーの姿を、カイトはただ呆然と見つめることしか出来なかった。
何時間経ったのか。ルーシーは泣き疲れたのか、すやすやと寝息をたてている。
コンコン。
扉を二回叩く音。ルーシーは顔を思いきり上げる。その表情は嬉しさに満ちたものだった。
ルーシーを耳、尻尾の毛が元気に踊りだす。
「かえってきた! 司書さんがかえってきた!」
部屋の中をぐるぐると回って、机にぶつかる。
痛みを感じながらも、ルーシーの笑顔は崩れなかった。
「えへへ、ぶつかっちゃったぁ」
頬を緩め、にんまりとした笑顔を見せる。ルーシーの宝石のように輝く白い歯が、その笑顔をさらにいいものにしていた。
「ルーシー迎えに行ってくるね!」
そう言って、ルーシーは扉まで駆けていった。
誤字脱字等ありましたら感想で教えていただければ幸いです。