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被験者に絶望的な苦痛を与えるという、人間兵器の人体実験。
生きていることを後悔するような、苦痛の中で、被験者は廃人同然となり、主人の命令に従う冷酷な殺人マシーンとなる。
しかし、強靭な意思を持ち、想像を絶する痛みが伴う強化手術にも、文字通り『クスリ漬け』となる薬物投与にも、過酷な拷問も耐え抜き、自我を保っている被験体がいた。
それが、ロックフォード社が製造した『マスターピース』。最高傑作だ。
その『試験体』である被験体は、少女だった。彼女の名は……。
※
「シェリー・チェインズ? 彼女が敵に捕まったと言うの?」
女口調で喋るその男、マシュー・リペニーは手の爪にマニキュアを塗りつつ声を張り上げた。
ロックフォード邸の応接室では、スタンリーとリペニーが対面した状態でソファに腰掛けていた。リペニーはファンシーなメロディの鼻歌を歌いつつ、ネイルアートに夢中になっており、スタンリーは冷めた紅茶を啜っていた。
「ああ、そうだ。しかし、これも作戦のうちなのさ」
メイドを奪われたスタンリーは、特に取り乱した状態でもなく、リラックスした状態で茶を飲んでいた。
「どういうことよ?」
リペニーは、指先から視線をスタンリーの方へ移動させ、疑問を口にした。
「我が社が開発した最強の人間兵器と言えど、所詮首輪付きの犬さ。ナノも注射してはいないし、引き綱を引っ張るのは容易なのさ」
「えぇ!? シェリーちゃん人間兵器だったの?」
リペニーはマニキュアの瓶を落とし、驚愕の表情を浮かべる。明らかなオーバーリアクションだ。
「……君のチームにお願いしたい作戦は以下の通りだ。全東京都民のナノ・システムの中から『ナノの摂取を受けていない人間』、つまり我が飼い犬シェリーだな。そいつを見つけ出して、こちらに連れ戻す。それが一点」
リペニーは黙って聞いている。
「もう一つ。シェリーの間近にいるであろう、本社をコソコソ嗅ぎまわっている連中の一部を、見せしめに殺せ。以上だ。簡単だろ?」
そう言ってスタンリーは再び茶を啜った。
「簡単すぎるわね。なによ、ハッカーの坊やを逃したからアタシ達には何も期待していないってワケ?」
あの夜、宇佐美陽の逃走を許した失敗をリペニーは、多少は引きずっていた。
「そうじゃない。ただ単に、奴らに嫌な思いをさせたいんだ」
「……相変わらず陰湿よねぇ」
「生まれつきでね」
リペニーは立ち上がった。
「まぁいいわ。そこまで言うならアタシも協力してあげる。その代わり、それなりにお給料はいただかせてもらうわ」
そう言って踵を返し、お尻を振りながら応接室を後にした。
※
スタンリーやジョン・ロックフォードと同じく、リペニーはSASの出身だ。
元々は獰猛ながらも男気のある勇敢な軍人であったリペニー。
彼が今のような性格になったのは、過去の作戦失敗のせいであった。
某国にて、作戦が失敗し、撤退すらも成功しなかったリペニーは捕虜収容所に送られ、糞尿臭い牢獄に入れられ、臭い飯を食わされ、過酷な刑期を余儀なくされた。
それ以上に嫌だったのは、捕虜収容所の中は性欲に飢えた獣だらけであったことだ。
特殊部隊に所属している以上、どんな地獄でも喜んで飛び込むつもりであった。
が、実際に感じる苦痛は想像を遥かに超えていた。
シャワールームで、男性捕虜に囲まれ、パンツを無理やりずり下ろされ、犯された瞬間、彼は男であることをやめた。
そんなことはお構いなしに、ほぼ毎週、獣どもはリペニーの体を貪り尽くした。
とても嫌で、リペニーは無我夢中で脱走し、そして通信施設を乗っ取り、救援に来た友軍に保護された。
英国に帰国後、リペニーは軍を退き、そして隊に居た頃からの親友であったスタンリーのコネでロックフォード社に入社した。
しかし、どこかで戦争を忘れない自分がいるのであろう。リペニーはロックフォードの私設部隊である『スカッド』に入隊した。
スカッドは、隊長であるリペニーを除き、メンバーが全て人間兵器で構成された部隊である。
「ワン公の面倒は飼い主が見ないとねぇ」
機械的な動作で、行列を作り、行進していく人間兵器達を見て、リペニーは満足気に甘い息を漏らした。
「楽しそうで何よりだよ、マシュー」
スタンリーはそう言って笑ったものだった。
※
「はぁーい、アタシの可愛いボウヤ達。準備はいぃーい?」
リペニーは、横に陣列した人間兵器の隊員達にそう叫ぶが、感情を失った隊員達は当然、返事もなく、無表情のまま正面の一点を凝視しているだけであった。
「なによ、つれないわねぇ。『うん』とか『はい』とか言いなさいよ」
それでもこの、『人もどき(ヒューマノイド)』達からの返事はなかった。
「時々、あんた達の反応の無さは虚しくなるわね……」
リペニーはそう言って、首からベルトで下げたXM8ライフルの弾倉をチェックした。
弾はたっぷりある。
そのライフルには榴弾投擲機も付いていたし、腰のホルスターにはグロック19、同じく腰から下げているポーチにはオランダ製のゴルフボールサイズの手榴弾もあった。
「じゃあぁ、アタシについて来てねぇん」
リペニーはそう言って前進した。
その後ろには、隊員達が順序良く後に続いている。足をあげる高さ、速度までもが全く同じであった。
リペニー達は金属製の階段を登り、ドアを開けると、ロックフォード・ジャパン本社のヘリポートに出た。
頭上にあるポートには一機の垂直離着陸機(VTOL)が、その怪しげなシルエットで佇んでいた。
※
大晦日。年越しモードで賑わう街の圏外にひっそりとイヴァンたちのいるセーフハウスが建っていた。
中では無論、年越しへ向けての大掃除など行われていない。
ただ冷たい空気が漂っているだけであった。
セーフハウスの廊下を歩くイヴァンは、スマートフォンを片手にデチャンスと通信していた。
「もうそっちは二〇二一年なんだよな」
イヴァンがデチャンスに問う。
(そうだ。俺は年末年始も関係なく、年中無休で働いているがね)
デチャンスのジョークにイヴァンは苦笑しながら、
「その内倒れるんじゃないか? あんた」
(そうならないために、一時の快楽として煙草を飲んでいるのだよ)
「なるほど」
イヴァンは納得する。
確かに戦場へ行く兵士は一時の快楽として、よく煙草を吸っている。
ストレスケアのためでもあるし、数少ない娯楽でもあった。
なにせ、明日をも知れぬ命だ。それに比べたら肺癌で、紫煙が天に上るが如く死ぬリスクだなんて屁のようなものであった。
イヴァンの、故郷の反政府軍兵士たちは、煙草を愛用している者もいたが、もっとヤバい薬を使っている者もいた。
スティック状の木の棒を折り、そこから出てくる麻薬成分を摂取するという代物だった。
(話していた通り、その、シェリーちゃんは本部に移送する)
イヴァンはあぁ、と返事をした。
明日、シェリーはCIA本部に移送することとなった。
彼らは彼らでシェリーを独自に調べるから、イヴァンたちはロックフォードの調査をして欲しいとのことだった。
今、シェリーのいる独房にはレイとバーンズが、最終確認を取るため、最後の尋問をしている。段ボール箱いっぱいに送られてきた自白剤が全て尽きても、一切口を割らなかった、ということだった。
それだけでシェリーが人間兵器であることは明白なのだが……。
「デチャンス、チェインズは確かにそれで間違いない。そこはいい。ただ、彼女が最高傑作であることに決めるのは、如何せん早すぎじゃないかな?」
(……口答えか? 悪い子だな)
デチャンスが嫌味たっぷりに言う。
「いや、司令官はデチャンスだ。それだけで俺はあんたに文句は言えない。ただ、どうもあんたが急ぎすぎている気がしてね。そこの所、どう思うんだ?」
(イヴァン。今の私の声に焦りを感じているのか。よく聞いてみろ)
イヴァンは黙った。捜査官をやっている以上、そう言う相手の感情を読み取る能力は人並み以上に備わっていた。そして、今のデチャンスからその様子は伺えない。
「すまん、考えすぎだったようだ」
イヴァンが申し訳なさそうに謝る。
(いいんだ、イヴァン。司令官に懐疑の目を向ける捜査官ほど、無能な奴はいないからな。もうそんな奴はエージェントとは呼べない。人の言葉を解せぬ怪物だよ)
「そういうもんかねぇ」
(……また口答えか? イヴァン)
※
「整理しよう。あんたはスタンリーの企んでいることはおろか、会社の詳細については何も知らされていないんだな?」
独房となった物置きの中で、レイはシェリーにそう聞いた。
「うん、そうだよ」
シェリーはコクコクと頷く。
「じゃあ、改めて聞く。お前は人間兵器なのか?」
シェリーが黙った。
レイは溜息をつきつつ頭を掻く。
「なんでそこで黙るんかねぇ……」
「彼女がそうだという証拠では?」
レイの隣に居たバーンズが口を挟んだ。
「だからといって、確認が取れないのに、本部に移送するのはマズいしなぁ」
「そうですよね」
バーンズが納得した。
イヴァンが部屋に入ってきた。
「明日で、このお嬢さんを本部へ連行する」
入ってくるなり、そう告げる。
決まったんだな、とレイが諦め混じりに言った。
「少し、外してくれないか? シェリーと最後の話がしたい」
イヴァンは、レイとバーンズに言った。
「なんだ? フラれる寸前の彼氏みたいなこと言って。もしかして惚れたのかい?」
イヴァンは、去り際のレイのジョークを鼻で笑い、シェリーに向き直った。
胸のポケットからシェリーが付けていたクロユキの花を取り出す。
シェリーの眼の色が変わった。
「不気味な花だ。つくづくそう思う」
イヴァンがそう発した後、
「でも、君がつけると、とても似合っている」
と言い、その花をシェリーの耳にかけてやった。
シェリーはその時、初めて表情を変えた。面食らったような顔だ。
まるで、初めて告白された学生のように顔を赤らめた。
「そう言われたのは、初めてです」
シェリーは素直にそう言った。
イヴァンは背を向け、こう言った。
「……妹が居た。君によく似た、兄の俺でも自慢できるくらい綺麗な子だったよ。もう居ないがね」
「……亡くされたんですね」
「うん」
イヴァンが頷く。
「ここの人たちは、捕虜を見る目でわたしを見てきます。あなたも同じです」
シェリーはイヴァンの背中をじっと見ていた。
「でも時々、あなたの目はかなり澄んで見えるんです。本当は……優しいのでしょう?」
「……人としての感情など、とうに捨てているがね」
イヴァンが背中を向けたまま続ける。
「俺達の雇い主がそうさ。かなり冷酷な組織だ。非人道的なことを、ロックフォード同様に、いやそれ以上にやっているかもしれない。俺らもそう訓練されるんだ。そういう意味では俺らも人間兵器かもしれない。そりゃ、時々ジョークを飛ばしたりもするが、それは我を見失わないためさ」
そう言って、顔だけをシェリーの方に向け言う。
「でもな、俺は少年時代から冷酷な戦争を続けてきたよ。何度も頭がおかしくなりかけたし、実際、人を殺めている時は、どこかおかしかった」
シェリーは黙って聞いていた。
馬鹿な俺。喋りすぎだ。
イヴァンはそう思いながらも更に続ける。
「『悪霊』と呼ばれていたよ。その時の俺はそれで良かったかもしれないが、本当は嫌だった。だってさ、人間をやめているみたいだろ?」
「やめてなんか、ないよ」
シェリーが強い口調で言った。
その時であった。
イヴァンの腰につけているトランシーバーが鳴った。セーフハウス北のテラスで見張りをしているボンズからだ。
イヴァンは取り出し、応答する。
「ボンズ、どうした?」
緊迫した様子のボンズの声が、スピーカーから響いた。
(イヴァン、大変だ。一機のVTOL機がこっちに向かってきている。ロックフォードの無人兵器もだ!)
「わかった、君はテラスから狙撃で援護しろ」
イヴァンはそう言うとトランシーバーを切った。
不意に、後ろのシェリーの声が響く。
「その最高傑作と言われる人間兵器は、わたし。それは事実」
イヴァンは振り返った。シェリーは淡白な様子でこう続ける。
「でも……、スタンリーはわたしの存在がちっぽけに思えるほど、恐ろしい計画を実行しようとしているよ。その計画が何かはわからない。でも、恐ろしい計画」
彼女なりに焦っているのか、口調が今までと違っていた。
「わかった。協力に感謝する」
イヴァンはそう言った。
地響きが起こり、シェリーの頭上、後部の屋根に大きな穴が開いた。
粉塵が舞い、その穴からは無人兵器の眼が不気味に赤く光っている。
シェリーは最後にこう言った。
「わたしにもう一度会いたければ、追いかけてきて。陽と共に待っているよ」
陽、だと?
イヴァンはそう言いかけたが、穴から細長い触手が素早く入っていき、図太い指でシェリーを掴んだ。
ヒュンと風を切る音がし、部屋からシェリーが光の如く消えた。
※
アディソンは二階の窓から、自分たちのセーフハウスに迫り来る敵を狙撃していた。
M24スナイパーを二脚に乗せ、住宅地にいる人間兵器部隊の隊員を狙い撃つ。
スカッド隊員は、狙撃されても、さっと物陰に隠れてかわしていた。
まるで、陣取っている場所、引き金を引くタイミングまで知っているような、俊敏な動きであった。
「ちっ……!」
アディソンは舌打ちをしつつ、ボルトを引き、排莢をし、次弾を装填した。
テラスではボンズが、同じく狙撃をしていると聞いたが、彼女もおそらく手こずっていることだろう。
アディソンは物心ついた時から狙撃銃を持って、狩猟をしていた。
猟師の父親を持つ彼は、風向きから来るコリオリ効果や、獲物の動物の急所を熟知しており、その腕を見込まれ、海軍のシールズに入った。
その狩猟の腕を見込まれ、狙撃手を任された。
アディソンはシールズで功績を上げていったのだが……。
人間兵器相手には、知識や腕など、あまり価値はなかったらしい。
こいつらは、相手にするなら自分の戦闘の基礎、ゼロから考えなおさないとまずいな。
アディソンはそう思った。
これからも、この殺人マシーンどもを相手にすることもあるだろう。そしてその戦闘の中で、急所を、対応策を、知っていくしかないのだ。
面白い。やってやろうではないか。
アディソンは我知らず、ニヤリとほくそ笑んでいた。
セーフハウスのどこかで爆発が起こった。
「どこか損傷したか!?」
アディソンは狙撃を続けつつ、無線機にそう叫んだ。
(アディソンか? イヴァンだ!)
無線機からイヴァンの声が聞こえる。
「イヴァン? シェリーはどうした?」
(……ネガティブ。連れ去られたよ)
アディソンは唸った。
(このセーフハウスはもうダメだ。プランBだ、バーンズに爆薬を仕掛けさせる。俺とレイは武器を取りしだい、前線に出る。スナイパーで援護できるか?)
了解だ、とアディソンは言った。
(爆薬を仕掛けたら、バーンズに合図させる。そしてお前とボンズ、バーンズには脱出してもらう)
「わかった!」
※
イヴァンはセーフハウスの各所に爆弾を設置しろ、とバーンズに命じた後、レイと共に武器を取りに行った。
武器庫の中に足を踏み入れると、身長が二フィート近い男が、背を向けて立っていた。
「あら、来たようね?」
男が言う。男声を無理やり女っぽくしたような、聞いていて悪寒が走るような声であった。
「どこから入り込んだ?」
レイがホルスターから、愛用のブローニング拳銃を取り出しつつ言う。イヴァンもステアーを構えた。
「貴様、人間兵器ではないな?」
イヴァンが叫んだ。
「そうよ、アタシはただの人間。そして、今、現在進行形でこのセーフハウスを襲っている人間兵器はアタシの可愛い坊や達……」
男が振り返った。四十代近い顔立ちをしている、ニューハーフだった。
「マシュー・リペニーよ。アタシこそがロックフォード社私兵部隊隊長」
イヴァンはリペニーを睨んだ。
「あなたがスタンのオキニイリかしら?」
リペニーがイヴァンに聞く。
「俺は奴みたいなのが大嫌いだがね」
イヴァンは吐き捨てるように言った。
ステアーが火を噴いた。レイのブローニングもリペニーを狙い、何度も火を噴く。
リペニーはその弾道の全てを屈みながら避け、そしてイヴァンたちに向かってきた。その巨体に見合わず、まるで獲物を発見したチーターのような動きだ。
距離を詰めつつ、懐からボウイナイフを取り出す。
そしてレイの胸に掌打打ちを繰り出した。レイは「うっ」と唸りつつ、後方の壁に叩きつけられる。
イヴァンは鎌状のカランビットナイフを取り出し、逆手持ちでリペニーに斬りかかった。
リペニーはナイフでそれを受ける。
キーン、と部屋に金属音が響いた。
「なかなかいい反射神経じゃない。対応力もある。素晴らしいわ」
リペニーはギリギリと、イヴァンのナイフを受けつつ、恍惚とした表情で言った。
「カマに褒められても、嬉しくねぇ、よ!」
イヴァンはそう言いつつ、ナイフを持っていない左手で拳を作り、リペニーの腹部目掛けてパンチを繰り出した。
リペニーは後ろに退き、バク転をすると同時に、ボウイナイフをイヴァンに投げる。
イヴァンはそれを横に避けながら、リペニーに向かい、走った。
懐にナイフを構え、雄叫びをあげつつ、疾駆する。
リペニーは楽な姿勢でイヴァンを待った。
体を極力リラックスさせ、相手の出方を待つのは近接格闘術の基本だ。
今のリペニーは、肩を落とし、普通の速度で呼吸し、余裕の表情すらも浮かべていた。
咄嗟の戦闘にどれだけ頭と体をほぐし、挑めるか。それこそが格闘術に勝つための必勝法だった。
それだけで、この男がどれほどの兵士か、イヴァンにはわかった。少なくともリペニーの恐ろしさはわかっていただろう。
まずはナイフで急所を刺し、それから顔面を一発ぶん殴る。怯んだ所を、ナイフで利き腕であろう右腕の腱を切り、ハンドガンでとどめだ。
イヴァンの策はこうだった。
――しかし。
ナイフの刃がリペニーの懐に近づく寸前でその手首を掴み、握りつぶす。
「ぐぁっ!」
イヴァンは呻いた。ナイフが手からあっさりと落ちる。
「ボウヤの腕は確かに素敵だわ。……でも無駄」
リペニーが教えるように、優しい口調で言った。
「修羅場は多く潜ってきた動きだけど、アタシと比べ、あんたには経験が足りない」
腹にリペニーの拳がめり込む。
イヴァンは唾液を吐きながら、叫ぶ。
「あなたのような動きは、幾度と無く戦場で見てきたわ」
顔面に拳が一発。
「……でも、期待はできるわ。特別に殺さないで置いてあげる」
言い、イヴァンの首を掴み、奥に倒れているレイに投げた。
「シェリーちゃんも捕まえたしね、引き上げるわ」
待て!
イヴァンは倒れたまま、去り行くリペニーに向かってそう叫ぼうとするが、言葉に出来なかった。
しばらく後、セーフハウスのどこかで、バーンズが仕掛けたであろう、爆弾の爆発音が聞こえた。
※
「イヴァンとレイは、どこにいる!?」
アディソンが苛立ち混じりに叫ぶ。
アディソン、ボンズはセーフハウスからの脱出後、爆発、炎上する家を不安の混じった目でみていた。
「バーンズも脱出を確認できていない」
ボンズはそう言った。
「せっかく、スカッドを撃退できたというのに! クソ!」
その時だった。
「アディソン! 見ろ!」
ボンズがセーフハウスの入り口を指さした。
セーフハウスから両肩に二人を担いだ、バーンズのシルエットが浮かび上がっていた。
バーンズはその巨躯を活かして、二人を担ぎ、脱出したのだ。
「バーンズ……!」
アディソンはバーンズに駆け寄った。
バーンズはレイの方をアディソンに差し出す。アディソンはそれを受け取ると、ボンズの方へ向かった。
「よく、無事だったな」
ボンズがそう言って、顔を緩める。
「イヴァンもレイも命に別状はありません」
バーンズはそう言うと、炎上するセーフハウスを見つめた。
「家は失いましたけどね」
「……そんなの……どうにでもなる」
僅かに意識が残っていたイヴァンは、酸欠で咳をしつつそう言った。
「これからどうするんです? イヴィー」
バーンズがそう聞く。
「色々と整理したいことがある。とりあえず落ち着ける場所を探そう」
イヴァンはそう言って再び咳をした。
五人の隊員達は、セーフハウスだったモノをいつまでも見ていた。




