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飛行機を降りた陽は、喫煙所で一服した後ゲートに向かった。
認証スキャナー付きのゲートをくぐると、ブーと言うエラー音が出る。
「……あれ?」
陽は眉をひそめた。
ゲートの前の警備員が二名、こちらに向かって歩いてくる。
「人間兵器の存在を感知しました。ケルベロス、起動します」
ゲートの脇に控えていた大型犬型の無人兵器が、伏せの体勢から起き上がり陽に向かって歩み寄ってきた。
陽の後ろの列は騒然としていた。
「ナノのチェックをお願いします。よろしいでしょうか?」
警備員は陽に聞く。
「は、はい……」
陽は渋々頷いた。
そんなはずはない。ナノの定期接種は二週間も前に済ませたはずだ。ゲートの誤作動か何かであろう。そうでも考えないと、あまりにも理不尽だ。
警備員は手持ちのハンディ探知機で陽の体を探知した。
「認証中……」
陽が固唾を呑む。
「エラー。対象の体内からナノは検出されませんでした」
ハンディ探知機のアナウンスは残酷にもそう告げた。
「そ、そんなバカな!」
陽が驚愕の声を上げる。
「人間兵器だ! 動くな!」
警備員はホルスターからグロック拳銃を取り出し、陽に向けた。
ケルベロスがグゥゥと唸り、陽に迫ってくる。
陽の後ろの列は、大混乱が起こっていた。
「ちょっと待ってくださいよ! 僕は一週間前、羽田空港のゲートを潜ったんですよ! ナノの接種も二週間前に受けたはずだし!」
陽は手を挙げつつ必死に否を唱えた。
抵抗する気か? と警備員は迫ってくる。
陽はそれでも何かを言おうとすると、ケルベロスの尻尾の先端に付いている細長い針が陽の肩に刺さっていた。
瞬く間に、陽の体内に高圧電流が流し込まれ、気絶していた。
※
一体どうしてこうなってしまったのだろう。陽は運転中の護送車のボックスで膝を抱きつつ思惟を巡らせた。
確かにナノの定期接種は受けた。ナノの有効期限は接種日から二年弱で、期限が切れることもありえない。福岡空港のゲートを潜った時も、ちゃんとナノは機能していた。
だったら、飛行機に乗っている時に何らかの誤作動が起きたか、もしくはナノが無効化されていたか。
そう考えて陽は気がついた。もしかして、自分がロックフォード社のデータベースにアクセスしていた事が、ロックフォードの上層部にバレてそれで東京から追放するためにナノが無効化されたのだろうか。
陽はポケットを弄った。携帯電話も煙草もライターも取り上げられていた。
「万事休す……だな」
陽はため息をついた。
「なにか言ったかしら?」
運転席から声が聞こえ、運転席側の小窓が開きロックフォード社の私兵部隊の白人の男がこちらを睨み返した。
男の声なのに、女のような口ぶりで言う男だった。
いわゆるオカマというやつだろうか。
「い、いえ……」
陽はそう言うと、気がついたように次の言葉を足した。
「あ、あの、僕をこれからどこに連れて行くつもりなんです?」
「んー、そうねぇ……。ロックフォード社に連れて行ってそれから……うふん、何をされるかは……、お、た、の、し、み?」
陽は蒼白となった。以前ロックフォード社のデータベースにアクセスをした際、こういう情報が目に入った。
東京でロックフォード社の無人機の探知に引っかかったものはロックフォード社に回され、人体実験の素材に使われるという話だ。
もし、それが本当なら……。
「うふーん! いいわねぇ! その物怖じした顔! アタシこういうのたまんないわぁ!」
オカマは何事か言っていたが、陽はその言葉すらも耳に入っていなかった。
人体実験……。その四文字が陽の頭を巡っていた。
その時だった。
大きな衝撃が車内を揺るがし、陽の体は護送車の中で転がった。
横転したのか、陽はそう思った。
「ちょっとォ! どこ見て運転してんのよ!」
オカマが怒鳴りつけているが、
「消えな」
と外からくぐもった声が聞こえた。
護送車の後部ドアが乱暴に開けられ、外からMP5を片手にガスマスクを被った女が出てくる。
「宇佐美陽か?」
マスクの女が言う。
「あ、あぁ……」
陽が返事をすると、
「逃げろ、宇佐美」
と一言だけ言った。
「逃げるったって……」
陽が反論しようとすると、外から銃声が聞こえた。
「行け!」
女のその言葉に陽は電流が走ったかのようにビクンとさせた後、ああ、と返事をし、車内から這い出た。
陽は自分のアパートの方向へと走った。
雪が降り積もる夜、街には悲鳴と銃声の音が響いていた。




