6話
6話
魔法の確認は出来たが時間はどんどん過ぎていく。
他のスキルを試したい所だがそろそろ夜のサバイバルに必要なことを考えよう。
よく聞くのは獣避けに火を絶やさないようにするってことだ。だけどモンスターの場合どうなんだろう?
火なんか怖がらないような気がするよな。
逆に火に近よって来るモンスターとかがいるかもしれない。
モンスターが火を怖がらないなら夜中に火を使うのは目立ちすぎる。
こんな気候だし夜に急激に冷え込むこともないと思う。
そう考えるとスキルの暗視があることだし夜でも火はいらないように思える。
でも、問題は暗視でどの程度まで暗闇を見通せるかだ。
気配感知と同じ位だとしたら30メートル前後だろう。
30メートルか。微妙だな。
だけどないよりは全然ましだ。
スキルがあっても経験のない俺が自分で警戒するのは難しいか?
夜の間もノワールに頼ることになってしまいそうだ。
そういえばノワールも気配感知と暗視が使えたよな。
とりあえずノワールのスキルについて聞いてみた方がいいな。
「ノワールは敵や獲物が、どのくらいの距離まで近付いてくれば気づくことができるの?」
「そうですねぇ。あの島くらいまでがわかる限界です」
ノワールは湖の方を向いてそう言った。
ノワールが見ている方をみると、正確にはわからないが岸から500メートル以上は離れた場所に島がある。
島を指差して聞く。
「えっ?あの島ってあそこにある島のこと?」
「はい」
マジか!俺のと性能が違い過ぎるじゃないか!
半径500メートル位の範囲の気配がわかるなら、敵が来てもかなり有利だと思う。
「えー!ノワールすごい。めちゃくちゃ頼りになるじゃん。ちなみに今その範囲にノワールより強い敵はいるかい?」
「おそらくいないでしょう。ただし強力な隠蔽スキルを持ったモンスターは感知できない可能性があります」
なるほど確かにそうだね。敵だってスキルを持っているかもしれないんだよな。
まあノワールが気づかないような敵を探すのは俺にはたぶん無理だな。
「俺はほとんど気配とかわかんないから、夜とか森の中とかどうしようかと思ってたんだ。ノワールがいてくれれば安心だ。ノワールがいてくれてよかったよ」
「御主人は私がお守りします。夜間も安心してお休みください」
「ありがとうノワール」
今はノワールの言葉に甘えるしかない。
ノワールは他に何ができるんだ?
「ノワールのスキルは他にどんなことができるんだい?」
「他には敵を威圧して怯ませたりするスキルや体を強化したり硬化したりするスキルが使えます。
威圧や咆哮を今の御主人に使うと最悪の場合はショック死するかもしれません。
威圧は相手を指定して使うことができますが、咆哮は周辺にいるものすべてに効果をおよぼします。
身体強化は身体能力を上げるスキルで身体硬化は指定部位を硬化させるスキルです」
咆哮と威圧が地味に怖い。たぶんレベルの差がありすぎるせいだな。
ノワールのスキルの中では身体硬化がよくわからないな。
「身体硬化ってどのくらい硬くなるの?」
「説明するより直接見た方がわかりやすいと思いますので使ってみます。ついて来てください」
そう言うとノワールは森の方に歩いて行く。
ノワールは森の外縁に着くと直径30センチほどの木に頭突きをした。すると簡単にその木が倒れる。
そして倒れた木に尻尾を叩きつけた。尻尾を持ち上げると木に無数の小さな穴が開いていた。
頭突きで木が倒れたよ。結構太い木だぞ。
穴が開いてるのも尻尾のせいだよな?
「頭と尻尾を硬化したの?」
「頭は硬化していません。尻尾の毛だけ硬化しました」
尻尾の毛だけなのか!毛の1本1本が硬くなるとかすごいな。
抜け毛はふわふわでやわらかかった。あんなやわらかい物を木に穴が開くくらいに硬くしたのか?
硬くなりすぎだろ。爪とか牙だとどのくらい硬くなることやら。
身体硬化は攻撃にも防御にも使えそうだ。
「どのスキルも優秀だけどスキルに欠点てあるのかな?」
「私の持っているスキルには特にありません」
俺の持ってるスキルもMP消費量が多いこと以外には欠点らしきものはなかった。
現時点ではマイナス要因はほとんどない。
でも咆哮ってスキルはフレンドリーファイアしちゃうんだろ?
かなり大きい欠点な気がするんだけど?
確かにフレンドリーに接してほしいとは思ったがそんな攻撃は望んでないです。
「欠点がないならそれはそれでいいんだけど、咆哮だけは近くで使わないでね」
「了解しました」
夜になってみないとわからない部分もあるが、スキルの内容からいって、警戒や戦闘はノワールに任せるのがいいと思う。
そうなると他に必要な事ってなんだろう?
炊事用の薪ぐらいは確保したいかな。
だけど砂浜には薪になりそうなものは落ちてないんだよな。
少しだけ森に入ってみるしかないかな?
まあノワールの能力があれば、森の中に入っても大丈夫そうだよな。
「少し森の中を散歩しようか?」
「行きましょう!すぐ行きましょう!」
すごくいい反応だ。おとなしくしてたけどやっぱり退屈だったんだな。
それにしてもどこから森に入っていこうか?
人の手が入っていない普通の森だから、当然道はない。
しかし木と木の間は意外に幅があり、見える範囲では巨体のノワールでも通れる所が多いと思う。
ノワールに先に行ってもらってついて行くのがいいか?
森への進入方法を考えていると、地面に伏せたノワールが言った。
「御主人は私の背中に乗ってください」
背中に乗る?あーなるほどそんな方法もあるよね。
ジョブの1つにライダーがあるしな。
とりあえず言われたとおりに乗ってみる。意外と乗り心地がいい。
「背中の毛を掴んでもいいかな?」
「問題ありません。荷物は大丈夫ですか?」
この場所に戻れない場合も考えていたので、最初から持っていた物とリュックに入る分だけはアイテムを入れてきていた。
ジャイアントシュリンプの甲殻と肉の一部は持ちきれなかったので置いて来た。
「大丈夫だよ」
「では行きましょう。しっかりつかまっていてください」
ゆっくりと立ち上がるノワール。
結構揺れているがそれほどバランスは崩れない。たぶんライディングの効果だろう。
「安全運転でよろしく」
「了解。移動中の会話は念話でお願いします」
そういえば念話とか地図もあったんだった。
ノワールさんはスキルを使いこなしてますねぇ。
まず地図と念じると視界の右側に地図が表示された。
大きさは50センチ四方で縮尺は10万分の1だ。
念話も試しに使ってみた。
『帰り道は指示するから好きに動いて良いよ』
『了解。頭上の枝などにご注意ください』
『あいよ』
念話面白いな。
ノワールにフォネティックコードを覚えさせて特殊部隊ごっこでもしたくなっちゃうよ。
ノワールが歩き出した。
前に進むたびに縦横に少し揺れる。走り出したら振り落とされないか少し不安だ。
でもそんなスリルがちょっと楽しい。
さっき木を倒した所から森に進入する。
森の中に入っても周りは意外と明るい。
森の深くに行くと、もっと暗くなるのかもしれない。
光が当たるせいなのか低木や草も結構生えている。
そのせいで障害物が多く足場も悪いが、ノワールはすいすいと早足で歩いて行く。
今のノワールは歩幅が広いので移動速度が速い。
正直ペースが速すぎて後ろからついて行くのは無理だったと思う。
移動中に地図が気になったのでいじっていたら、
地図の大きさや縮尺が変更できることと①~⑳までだが指定した地点をマーキングできることがわかった。
詳細には地図の大きさが変えられるとかマーキングのことなんて書いてなかった。
かくし要素なのかな?
マーキングできることが分かったので、最初の砂浜に戻れるように森の入口辺りに①のマーキングをした。
地図はある程度調べたので、そのあとはしばらく森の中を観察した。
ほとんどが見たことのない木だったので鑑定してみた。
名前 普通の木
ランク ―
普通の木?ランクはなし?
普通の木って名前なのか?
一応見た目の違う他の木も鑑定してみた。
名前 普通の木
ランク ―
どうやら見た目が違っても名前は同じらしい。
他の木も鑑定したが見た目は違う種類なのにすべて名前が普通の木だった。
ランク外はすべて普通の木なのか?それなら草はどうなんだ?
名前 雑草
ランク ―
名前が雑草とかひどくない?
他の草もいくつか調べるが雑草だった。
やっぱりランクが関係あるな。
今度は指定しないで鑑定と念じる。
名前 下級薬草
ランク E
名前 下級魔力草
ランク E
ランクはまちまちだが何本も薬草や魔力草が表示される。
雑草や普通の木は表示されない。
ランクなしは指定しないと鑑定できないってことなんだろう。
色々と考えているとノワールに念話で話しかけられた。
『御主人少しペースを上げていいですか?』
『慣れてきたから大丈夫だと思うから、自由に走っていいよ』
『御主人は姿勢を低くして、しっかりとつかまっていてくださいね』
『そうだね。落ちないように頑張るよ。あっ!そういえば薪になりそうなものがあったら教えてね。少し料理に使いたいんだ』
『了解です。では行きます』
俺はノワールに言われたように、姿勢を低くしてノワールの首にしがみついた。
さっきまでとはスピードも揺れも違いすぎる。ノワールは木々の間を縫う様に走っていく。
まさか森の中でこんなスピード出すとは思わなかった。時速5~60キロは軽くでてるんじゃないか?
正直ノワールのポテンシャルを舐めていた。
木のスレスレを通るせいか体感スピードがすごい。
もし木にぶつかっても、頭突きで木を倒すノワールには何でもないことかもしれない。
だけど俺はただでは済まないだろうな。
砂浜で走らせるんだったと後悔した。