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第二話「騎士試験」

 拝啓お母様

 トコトンまで普通、どうにか苦労して進学校に入学しても勉強に付いて行けず順位はいつも下から数えた方が早い不出来の息子です。この度普通ならば体験できない事を満喫中な身ではありますがこちらでは理解できないことが連発していまして、ただ今大変混乱しているところなのですが……この度さらに厄介な事になってしまうようでございます。どうか私の代わりに生きてそちらに帰れる事をお祈りしていてください。今の私は生きることと理解する事で精一杯です


 光が収まった時ジュリアは武の顔を見て呆然としていた

 武はなぜその手が光り輝いたのか分からずに手を眺めて触ったりしている


「なんで?」


「んあ?」


 ポソリと呟いたその言葉は近くに立っていた武にやっと届くほどであった


「なんでアンタみたいなパッとしない三下っぽい弱そうな男が私のピリオードなのよ!?」


「知るか!っていうか弱そうとか言うなよ!全くもってその通りだが現実を突きつけられると辛いもんがあるんだよ!あとピリオードってなんだ?」


 しかしジュリアはその問いに答える事は無く膝を抱えて座り込むと地面になにやら文字を書き始めた

 武はそれを覗き込むがその文字は当然日本語ではないため読むことは出来ない、思い返してみるとなぜジュリアと言葉が通じるのかが分からない

 実は頭の中にバイリンガル機能が備わっていたりとかもするのかも知れない


「いや、そりゃないな。英語苦手だし」


 というよりは武は勉強というものが全体的に苦手だった

 どれくらいかというと特に酷い数学や古典や英語では赤点ギリギリを取れればラッキーぐらいの成績だ

 それに武に聞こえているのは流暢な日本語で、そのようなものを通して聞いているようなものではなかった


「なぁ、これからどうするんだ?というかここはどこなんだよ?俺のいたところにはあんな生物は存在してなかったぞ?」


「知らないわよ、もう。アンタの好きにしなさいよ、なんでアンタなんかと一緒に行動しなくちゃいけないのよ。これじゃ私の完璧な人生計画が完全に崩壊しちゃうじゃない」


 自称深窓の令嬢の完璧な人生計画と言うのはR-18が付くようなドロドロの生活のようだ


「あぁこのままじゃ私のリア様の従者になると言う素晴らしい計画がぁぁぁぁ……」


「……」


 勝手に盛り上がったと思ったら再び自分の世界にのめり込んでいくジュリア、確かにどこから見ても令嬢だとか美少女だとか言われる外見ではあるがこの場面を見ているとどうにもそういう風に見えない

 これを見てなおこれに惚れる人物がいるとしたらよほどの物好きか外見しか見ていない嫌な男かのどちらかだろう

 流石にこのままずっと放置したままだと景観に問題が出てくると思われるので武はしょうがなく嫌々ながらジュリアを元の世界に戻す事にした


「おーい、本当にどうするんだー?このままじゃもしかしたらまた何かが現れるかもしれないんじゃないのか?」


「はっ!そうよ!さっきの魔法で私はもう使い物にならないんだからアンタが私を守りなさいよ?」


「一発で!?というか魔法ってなんだ!?」


 そう言うとジュリアは怪訝そうな顔をすると武を見た


「魔法を知らないの?どこの蛮族よ?やっぱりコイツは外れだわ」


「人のことを外れとかいうな」


「魔法って言うのは魔力を使って奇跡を起こすもので、神にどこまで近づけるかとうい研究の事よ。だから一発でも使えるってのは凄い事なんだからね?そんな事をいったら魔法使い達が馬鹿にされたって怒り狂って襲い掛かってくるんだからね?魔力って言うのは個人が体内にもている魔法を起こすのに必要なものの事で、地方によっては気とか言われていたりする物よ」


「おぉ、気とかいうのなら分かるぞ?あの遠くの木の板を割ったり、指先一つで逆立ちするやつだろう?」


「多分そうね。使っているものは一緒だけど使い方がことなるからその効果は変わってくるわ。気というのは身体能力強化によく使われるらしいけど、魔法は遠くの敵を攻撃するのに使う。そしてもう一つ種類があって、それは神術と呼ばれるもの、これは聖職者が使うんだけれども、俗に言う神の奇跡って奴ね」


「魔法とは違うのか?」


「根本的に違うわ。魔法は神に追いつくための方法、神術は神の力を地上に降ろすためのもの。神に反抗する力と神を崇める力、これだけ言えば分かると思うけど魔法使いと聖職者はとことんまで仲が悪いわ!というかあの坊主どもは働かないくせに信者から金を巻き上げるとか本当ふざけてるわよね!?」


「いや、知らんがな。というかそういうことを堂々と言って良いのか?」


「良いのよ!今の王は今のところ中立の立場の人間がなってるから!今まで教会がでっかい顔をしてたけどこれで終わりよ!次は魔法使い側の王が立つようにしてやるんだから!」


 どうやら中世ヨーロッパのように魔女と言うだけで処刑されるような時代ではないらしい。武は自身がちょっと間違えば異端扱いされてもしょうがないだけにそういった事が受け入れられるならば自分も大丈夫な気がするので安堵した


「あぁ、寝て目が覚めたら事態が好転してないかしら」


「それは俺もそう思うが……あぁそうかこれは全部夢なんだな」


「そうよ、そうに決まってるじゃない。これは夢なのよ、だから夢から覚めれば全てが元通りよ」


「そうだな、そうなんだな」


 段々とジュリアのテンションに引っ張られていく武、なんとも言えない空気がその場を支配していく


「って、現実逃避はこれくらいするか!さてこれからどうする?」


「いや、それは俺が聞きたいんだって」


「あぁそっか蛮族なんだっけ」


「蛮族言うな」


 武は呆れながらもそう返した

 ジュリアという人間は物事をあまり深く考えない人らしく、現実を軽く受け止めて今後の行動方針を考え始めた


「うーん。ピリオードが出来たってことは教会行かなくちゃならないんだよねー、やだなー。でもそこから発展して騎士試験受けられるんだっけ?それなら良い拾い物したかも?でも本人は全く力のない一般人だしー」


 武にとっては欠片も理解できなかった


「ちょい質問いいか?」


 しょうがないので片手を挙げて武は思考の海に飲まれかけているジュリアを戻ってこさせる


「何?……えーっと」


「あぁすまん、藤村武って言うんだ。こちら風に言うとタケル・フジムラってなると思う」


「へー、タケルね?それで?何か質問があるんだって?」


「あぁ、とりあえずピリオードってなんだ?あとここはどこなんだ?」


「なるほど、そんな事まで知らないのね蛮族は」


「蛮族言うな」


「ピリオード。永遠の二人組とよばれるそれは一組の男女を結びつけるシステムの事で、神様によりピッタリの相性を持った者同士を結びつけるものよ。神託とも呼ばれるわ。これにより選ばれた二人は一回教会に赴いて教会に認めてもらうと色々なサービスを受けられるのよ、その中に騎士団への推薦ってのが入ってるのよ!教会に認められなくちゃならないっていうのは凄く、もの凄くむかつくけど騎士になるためなら教会にだって尻尾を振ってやろうじゃない!そしてここはジルヴァートよ」


 ジルヴァートと言われてもまったく分からないのだが、ここでもし怪しい発言をした場合、教会に異端扱いされるとか魔法的に調べられたりするだとか様々な懸念事項があるのでここでは武は無視する事にした

 もしかしたら話の進行でそちらの話題に持って行けるかもしれないからだ


「えぇっとじゃあ騎士団ってのは?」


「騎士団っていうのは王家直属の軍のことで今のところ人数は5人」


「5人!?たったそれだけなのか?」


「えぇ、初めて聞いた人にとってはたった5人かもしれないけど、実はこの人数は史上最大なのよ?」


「それなのに騎士"団"?」


「まぁ一人で一個軍隊を止められるような方々だからそう呼ばれてもしょうがないのよ」


 どこのインペリアルナイツだとかロイヤルガードだとかいうツッコミはしてはいけない


「ということはなるのにはかなり厳しい試験が必要なんじゃ?」


「そうねぇ、でもドラゴン倒せたんだしどうにかなるんじゃない?」


「たまたまだからな?勘違いするなよ?実力じゃないからな?」


 武にしてみればもしかしたらジュリアの合格のために再びドラゴン並みのやつらの前に放り出されるかもしれないのだ、それだけはなんとしても止めてもらいたい。どうせ無理なのだろうが


「で?じゃあまずその教会とやらに行くんだろ?どこに向かえば良いんだ?」


「そうね。まずは一番近い町からドンドン経由して行って、なるべく危なくない道を選んでいきましょう」


「なんだ、そこはまともなんだな。もっと戦って自分を強くするんだー!とか言いそうなのに」


「私はそこまでお子様じゃないわよ」


 苦笑を浮かべるジュリア

 その事にちょっとだけ安堵する武、どうやら少しは自重という言葉を知っていたようだ


「ドラゴンを倒せる私にはそんなモノは必要ないわ!」


「自重しろ」


 どうやら自信過剰なだけだったようだ

 そのまま軽い足取りで近場の町に向かって歩き出したジュリアをジト目で見ながら武はそのあとを追いかけるのだった


「では試験の試験をしましょう」


 その言葉から全ては始まった、いや始まってしまった


「な、なんでですか!?」


 ようやく首都についてから協会に行きピリオードとして認めてもらう

 ここまでは比較的簡単に終わらせることができた、道中で読み書きを教えてもらっていたので書類も滞りなく進めることができたことも関係しているだろう。やはり重要なのは日々の積み重ねである

 さてそれから最初の言葉に戻るわけだ


「当たり前です、教会としましてもそこらへんにいる雑多な冒険者を騎士に推薦したとあってはただの面汚しです。あなた方がある一定以上の実力まで達しているかどうか判断するまでは推薦する事はできません」


「そ、そんなー……」


 聞けば聞くほど正論なので反論する事が出来ず項垂れるジュリア、武としては首都までの十数日一緒に過ごした仲だけあって、どうにか援護してあげたいのだがどうにもする事はできない

 なので項垂れていてもう何も言おうとしないジュリアに代わってしょうがないので武が聞くことにした


「あぁー、それでその試験の内容って言うのはどうなってるんだ?」


「内容は簡単です、ドラゴン退治です」


 その言葉を聞いた途端ジュリアの顔が急に輝きだした

 その自信は一体どこからわいてくるのだろうか?

 とりあえず余計な事は言わないようにジュリアの口を武は塞いでおく事にした

 武はジュリアに睨まれながらも係りの人に先を促した


「ドラゴンと言いましてもその亜種、ワイヴァーンを数匹を同時に相手してもらいます。どのような形でも構わないのでそれを倒してください。今すぐには出来ません、もし受けるのであればこれからそのワイヴァーン捕獲作戦を開始するので数日間の猶予を出します、その間にそちらも準備をしてください」


「……数匹って?」


「数匹です。正確な数字は時によって違います。だって一匹捕まえるだけでも大変なんですから」


 どうやらワイヴァーンというのはとても強いらしい、亜種といっても一応はドラゴンと同じような分類なのだ、それが弱いはずがないのである

 その事に少しどころじゃなく頭が痛い武は一応ジュリアに聞いてみた、答えは確定しているだろうが


「もちろんよ!やってやろうじゃないの!」


 そう言ってジュリアは書類にかかれている注意事項を読まずにサインをしてしまった

 そしてその時武は気が付いた、係りの女性の目が商売人の目になり輝いていた事を


「まっ!」

「これでこの依頼は受理されました」


 武が待ったをかけようとしたその瞬間、その書類はジュリアの手を離れて係りの人の手の中にあった

 そしてジュリアの前にその書類を広げると


「ではこちらの内容で間違いはございませんね?」


「いやちょっとまっ」

「構わないわ!」


「では正式に受理します」


 そうやってジュリアは簡単にそれを了承してしまった、武は先ほどから嫌な予感がしてたまらない

 係りの女性はほくそ笑むと声高々に


「騎士推薦試験受験者獲得!」


 と教会内に響き渡るとてもいい声で周囲の人物に伝えたのだった

 すると周りからは歓声があがり、周囲から「頑張れよ!」だとか「応援してるからな!」といった明らかに応援していると言うよりは契約を取れたことが嬉しくてたまらないといった声が聞こえてきた

 そして耳を澄ますと周りの一般人から「うわぁやっちゃったね」「久々の被害者があんな子供か」といったちょっと聞くのが怖いものが聞こえてきた

 武がそうやって怖がっている中ジュリアは周りの肯定的な意見しか聞こえていないようで応援の言葉に素敵な笑顔で手を振って応えている、絶対将来悪徳商法に引っかかりそうな人物である


「では詳しい日程などの説明をしますのでこちらの部屋にどうぞ。あぁ従者の方はそちらでお待ちください」


 武はこれ以上こちらに不利益なことにしてたまるかと意気込んで付いていこうとしたのだが、その事に気が付いている職員が部屋の外にある椅子を指差してそんな事を言ってのけた

 従者じゃなくてピリオードなのだが今はそんな事は関係ない、教会としても久々の金づ……ではなく試験者なのだ、何かミスがあってはいけないのである。聖職者だってパンがなければ死ぬだけなのだ

 バタンと閉じられる扉を前に立ったまま呆然とする武、その耳にガチャリと鍵をかける音が聞こえてきた

 どうする事もできずに座って項垂れていると上から声を掛けられた


「ふふ、やっちゃったね彼女」


「えっと、君はさっきの」


「そ、受け付け係だよ」


 先ほど元気良く「騎士推薦試験受験者獲得!」と周りに言っていた係りのひとである

 そしてこの事態の元凶でもある

 ちょっと恨みがあるので睨んでいると彼女は苦笑した


「ごめんごめん、でもあれは完全に普通の契約だから。これも神の思し召し、私が担当の時間にあたったのが運のつきだね」


「それを聖職者が言いますか」


「私は一般の職員だから聖職者ってわけじゃないよ?本気で神様を信仰しているのは上の人たちだけだよ」


「それを言っちゃだめだろう」


「気にしない気にしない、私は気にしてないんだからいいじゃない?」


 ニシシと笑う彼女を見ながら武は呆れていた

 どうやら本当にこの世界での宗教と言うものはそこまで人々の心に入り込んでいないようだ

 元の世界では魔女狩りだの聖戦だの血生臭い数々の事柄を聞いた事があったのでこちらではそうでなくて良かったと武は心から安堵した

 そして彼女は隣に座ると


「それにしてもあんな子まだいたんだねぇ?こんなに騙されやすい子なんかと結婚したら将来損するよ?」


「付き合ってないから」


「あんなに仲が良さそうなのに?」


「仲が良すぎてそういう風に見えないってあるだろう?」


「ふぅん…」


 そう言うと彼女は武のことをジロジロと見始めた


「なら私が貰っちゃおうかなー?」


 そしてそんな風に呟くのだった

 しかしそれはとても小さな声で隣に座っている武の耳にも届かないほどであった


「そういえばアンタ名前はなんていうんだ?」


「私?私はアンだよ、アン・リッツァ。気軽にアンって呼んで?」


「あぁ分かった。じゃあアン、今回のあの試験ってどれくらい難しいんだ?」


「ん?そうだなぁ、そこまで危険じゃないよ?もしもの時には職員が助けてくれるし、周囲には神術使いが配備されるし。だから安心してくれて大丈夫だと思う」


 問題はその後だけど、という言葉をアンは飲み込んだ

 それを言ってしまえばこの二人は絶対に走って逃げていく事になるだろう

 そうなってしまえばこの責任は私がとらなくてはならなくなってしまう、それだけはどうしても避けなくてはならない


「そうなのか、なら今までで合格者とかいたのか?」


「いたよ?でも最近じゃ受ける人がいなかったから私はそこまで内容は知らない、だからアドバイスとかはあげられないかな、ただ……」


「ただ?」


 アドバイスが無い事にちょっと残念に思いながら武はアンの言葉に耳を傾けた


「合格率は2%位って聞いたよ」


「おい」


 試験の試験の癖にどれだけ合格率が低いのだろうか?

 たったそれだけなのかと落ち込むべきなのだろうか?

 それとも良くワイヴァーン相手に2%もいたなと褒めるべきなのだろうか?


「今の騎士の方々は軍からのたたき上げだからほとんどが実戦の中で勝ち上がってきた人ばかり、それに比べて教会から騎士になった人は……」


 そこでアンは一呼吸おいてから


「いまだに合格者なし、踏破不可能な道なのよ」


 それを聞いた時、武は身震いした

 それは思い浮かべた親しい少女の顔が悔しそうに歪むのが見えたのか、それとも別のものなのか……





次回予告


「ここであの子の夢はかなえられない」


「ここまで来たんだ、付き合えるところまで付き合うさ」


「大丈夫、私ならやれる。なんてったってここまでこれたんだから!」


 少年と少女が挑むのはどこまでも高い壁

 その壁を登ることはできるのか?


 ノーマルパーソン第三話

  「決意の朝に」


 普通の人間の異世界譚


「騎士推薦試験、開始!」

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