エピローグ「旅立ち」
「それで、もう行っちゃうことにしたの?」
町の出入り口の南門、そこで武は荷物を背負って立っていた。
隣でその彼に話しかけているのはアン、こちらはいつもの様に神官の服に身を包んでいる。
「あぁ、今回は自分の経験不足が招いた結果だって事がわかったからさ。その隙間を少しでも埋めないと」
武には分かっていた、今回の敗因が自分にある事を。
ジュリアの魔法は完全にリアの意表を突いていてこれ以上ないという具合に仕上がっていた。それなのにそのチャンスを生かしきれなかった自分は今回邪魔でしかない。
「そっか。うん、なら止められないね」
アンはどこか寂しそうに笑った。
それにどう返して良いのかわからずに武は何も言うことが出来ない。
「それじゃ! 私はここで失礼させてもらうよ。余り邪魔をしすぎて馬に蹴られたくないからね」
そんな武を見てアンは可笑しくなったのか笑う、しかしそれは一瞬のことですぐに意地の悪そうな顔になると自分の後ろに視線をやりながらニヤニヤと笑う。
何事か分からないので武は後ろを確認しようとするがアンに邪魔をされていて見えない。
「それでは武君! 君の旅路が有意義である事を信じてもいない神に祈っているよ!」
それだけ言い残すとアンは駆け足でその場から去っていった。
信じてもいない神に祈っても意味など無いと思うのだが、そのツッコミを言う相手がもう見えなくなってしまったので武はため息をつくだけに済ませた。
「何、旅の始まりからため息なんてはいてるのよ」
「え? ジュリア?」
声のした方向を見るとそこに居たのはジュリアであった。
何時もと変わらない格好で呆れたような顔をしている、いや実際に呆れているのだろうが。
「旅に行くのね」
「あぁ」
「ピリオードが離れ離れなんて聞いたことも無いわ」
どこか拗ねたようにそっぽを向くジュリア。
しかしその表情はどこか寂しそうな感じがした。
「五年で戻ってくるさ。もしかしたらもっと早くなるかも」
「そう、あと五年ね」
騎士団入団試験は一回受験してからもう一度その資格が与えられるのに五年かかる、それまでは騎士団に入りたくても試験を受けることが出来ないのだ。
またもやジュリアの契約書を見ない癖が発動していた為にこのような事態になってしまった。
二人は無言で見詰めあい、その五年という長い月日の事を思い浮かべた。
「実践を経験して俺は強くなる」
「私は更なる魔法技術の飛躍を目指して研究に勤しむ」
二人の行く道はここから分かれていく、しかしその道の辿り着く場所はいつでも一つしかない。
「そして試験に」
「合格する」
武は自らの帰るという目標の為に教皇の存在しているアルディアを目指し、ジュリアはここに残り師匠の下で新たな技術を研究する、それが二人が決めた目標だった。
「また五年後に」
「えぇ五年後に」
武は踵を返すと門を潜り……
「タケル!」
「え?」
チュッ
という頬に感じる暖かく柔らかい感触。
「行ってらっしゃい!」
「……おう!」
こうして一人の普通の男の子の旅が始った。
空はどこまでも青く、太陽が燦々と輝くの八月の事であった。
ここでノーマルパーソン第一部終了です。
ここまでお付き合い下さいました読者の皆様ありがとうございました。