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第7.5話「静かな決意」

 運命の日と言うのは体感的にみて早く来るものだ。それは嫌なものほど早くなる。

 自分の中で何倍にも膨れ上がった期待や不安という感情に思考の殆どを持っていかれ、他の物事を考える事が殆ど無く気がつけばその時が来ている。彼の天才物理学者に言わせればそれこそが相対性理論なのだとか。

 それは得なのだろうか? それとも損なのだろうか?


「損よ。どう考えても損に決まってるじゃない」


「即断だな」


 武とジュリアの泊まっている宿の一室にて翌日に開かれる予定の大会に対する対策会議として二人は頭を突き合わせていた。

 二人は今日だけでなく二週間ほど前から事前トレーニングを抑え、こうしてどうやってリアを倒すかと言う会議を続けていたのだ、しかし絶対的な武の持ち主であるリアに対して二人はこれと言った打開策を練りだせないでいた。

 二対一というこちらに有利な状況の中でさえも勝機を見出せないほどの実力を持つ騎士団という存在。その彼らの実力は全て実践の中で外的のみならず内部の人間にすら恐怖を与える。


「あれこれ考える時間って言うのはどれだけあっても足りないのよ」


 武にはこの世界の住人ほどの怖さは騎士団に対して持ち合わせていない。彼らの実力を見たことは無く、全て人づてに聞いた噂ばかり、しかもその噂はどれも現実離れしているためにどこか自分とは関係のない神話や伝承などの中の物として受け入れてしまうのだ。

 緊張しないという一点においては良いのかもしれないが、無知というのは総じて油断を生むものである。


「こっちにとっての切り札で完成したのは結局アレだけ。タケルの剣術がどれほどのレベルなのかは知らないけどリア様に対抗できるレベルじゃない」


「その完成した切り札って言うのは教えてくれないのな」


「当たり前よ、相手が相手なんだからこちらの情報はなるべく人に話さないほうが良い。相方である貴方なら良いかも知れないけど、言ったとしても理解できないでしょう?」


 魔法が全く存在しない世界から来た武にとっては全くの未知数なので武は肩を竦めて苦笑を浮かべるだけでそれ以上を聞くことは出来なかった。しかしどうしても気にはなるので期待を込めた眼差しをジュリアに向けてみる。


「気持ち悪い、鬱陶しい」


 本当に気持ち悪そうに顔をしかめながら言われたので武はその眼差しを止めた。

 あの遺跡から戻ってきてからと言うものどこかジュリアから遠慮と言う言葉がさらに無くなって来ているのだ、これ以上していてはどんな罵倒が飛んでくるのかわかったものではない。


「戦闘方針はこれまでと変わらないわ。貴方が前方で相手を引き付けて私が魔法で狙い打つ。貴方は今回は相手を倒すことではなくて耐えることを考えなさい、どんなに惨めでも良いから」


「というかそれは何時ものことでは?」


「それもそうね。ならいつも通りに惨めったらしく生き残りなさい」


「ひどっ」


 武は今まで攻撃と言えるような攻撃をした事が無い。それは今まで相手にしてきたモノが人外のモンスターであったり、人外の人であったりしたためである。どれだけの実力を持っていようとも攻勢に出ようものなら一瞬にして首と胴体が鳴いて別れてしまうような化け物とばかり戦っていたのだ。

 その才能を遺憾無く発揮して今まで生き残ってきたのだが、最後には後ろで守っているはずの少女によって自分が苦労していた敵が倒される、それがどうも最近気になる武であった。


「ここ二週間考えた結果が何もなし、かぁ。本格的にヤバイわね」


 ジュリアはため息をはくとそのままベットに転がる。

 そのまま天井を見上げるともう一回大きなため息をついた。


「しょうがないさ、相手が相手だし考えることは考えた、やれることはもうやった。後悔っていうのは先には絶対来ないものだよ」


「……良い事いったつもりでしょうけど全然慰めになってないからね」


 ジュリアは武の顔を見ると呆れたように呟くが武は「あれ? そう? おかしいなぁ」と何事も無いかのようにおどけて見せた。


「まぁいいわ。どうやってもこれ以上の事は出来ないんだし今日はもう寝ましょう。いつかみたいに寝坊なんてしたら許さないんだから」


「それは怖い、だったら今日はさっさと寝てしまうとしようか」


 武はベットの中に急いで潜り込むと近くにおいてあるランプに手を伸ばしてその日を消した。


「勝ちましょう」


「あぁ、もちろんだ」


 二人の静かな決意は夜の静けさの中に吸い込まれるようにして消えていった。

ちょっとした繋ぎの話です。


アンケート未だに集計中

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