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第六話「地獄の訓練&ちょっと一休み ④」

ちょっと短め

 武が目を覚ます(現実逃避から戻ってくるとも言う)と最初に目に映ったのは見覚えのある部屋の中で正座をしながら二人仲良く並んで座っている親と娘の姿であった。

 二人とも一様に疲れきっているようで顔をげっそりとさせながら俯いている。

 その近くには最初に見たときと変わらずニコニコと笑っている女性が二人を前に立っている。

 部屋はところどころ焦げており、さらに高そうなものがそこら中に転がり、机が上下逆に置かれている、ジュリアとその父親は着ているものが崩れていたり焦げていたりするのだが母親は全く傷ついていない。

 一言でこの場を表すならば『カオス』だ。


「あら? そこの方は起きたのかしら」


 そうやって再びこのカオスな現実から逃亡する準備を進めていると前に居た女性から話しかけられた。一瞬こちらを向いたときに見えた手に持った鞭らしきものはきっと武が疲れていることによって見えた幻覚に違いない。もしくはこの余りなカオスな状況が作り出した幻想に違いない。


「はい、えーっと」


「はじめまして、私はジュリアの母のマリアと申します。今後ともよろしくお願いしますわ」


「あ、はいこちらこそ」


 この混沌カオスとした空間の中にあって一際輝いた存在の女性、マリアは変わらぬ微笑をたたえたまま武に挨拶をする。その輝きに少し気後れしながらも武はどうにか挨拶を返すことが出来た。

 因みに視線は顔から少々横にずれていている。

 その挨拶に満足したのかマリアは自分の夫と娘に対して「もう良いですよ」と声をかける、すると二人は足を崩してその痺れ具合に「ぬぅぅぅおぉぉぉぉ」と気品さの欠片も無い声をあげながら自身の足の痺れと戦いはじめた。


「それで貴方はどなた?」


「あ、はい。私は藤村武、こちら風に言うとタケル・フジムラと言います、よろしくお願いします」


「そう、タケルというのね。この辺りでは余り聞かない名前ね」


 武の名前を聞くとその名前を何度も口の中で呟きながら「フフフ」と笑う。

 何が面白いのか分からないが武はどうやら自分に悪いイメージを抱いていないようなので少しほっとした。美人だからと言って初対面の人物にジッと見詰められたのだ、悪いイメージを持つのは当たり前だ。

 しかしそんな武の安堵など関係無しにマリアは続ける。


「それでジュリアとの馴れ初めを聞いても良いかしら」


 馴れ初め? 武は首を傾げる。ジュリアは顔を赤く染めて「なっ」と口を大きく開けて固まっている。父親はまるでこの世の終わりを目の前にしたかのような顔をして固まっている、これこそが『叫び』だろう。


「お母様! そいつとはそういう関係ではありません!というかそれを男と思ったこともありません!」


「まぁ」


「それはそれで酷いだろう」


 ちょっと悲しくなった武だった。


 必死になって反論するジュリアを見てマリアは「アラアラまぁまぁ」と言いながら笑う、分かっているのかそれともさらに誤解を深めているのか。そして後者に受け止めた人物が一人。


「あぁ、セバスチャン。警備兵達に集まるように言ってくれ。先ほどジュリアと一緒に入って来た男を何が何でも外にだすな。良いか、絶対にだぞ、アイツの首に100Gかけると全員に伝えろ。神官? はっ! 神の下になんぞ逝かせるか、奴は必ずや地獄に落とす」


 部屋の隅っこでなにやら壁に話しかけている、どこからどうみても不振人物である。というかどうみてもこれが宗教人間のようには見えない、確実にどこぞの「や」の付く人である。


「それじゃあどういう関係なのかしら」


 さらに混沌カオスとし始めた空間を戻す為にマリアは今度はジュリアに聞いてみた。

 ジュリアはどうにか冷静さを取り戻すが顔は赤いままだ。


「……仲間、いいえ、戦友。共に危険を迎え撃つ剣よ」


 ジュリアはそう言い切った、ちょっと顔が赤いのでごまかしているようにも見えないでもないが、その目にははっきりとした意思が込められていた。

 その目を見て反論できるものなどこの部屋の中には居ない。冷静さを失っていた父親でさえもその目を見て水をかけられたように静かになった。


「全く、家の長女はどうやら君に似ているらしいな。何度も何度も無茶をやらかす君の若いころにそっくりだよ」


 昼間に久々に帰ってきていた自分の娘の事を思い出しながら男は言った。

 今となっては散らかった部屋もところどころ焦げていた服も無くなり、もうどこに出しても恥ずかしくないような貴族の部屋が出来上がっている。


「あら、私はそんなことしてましたか?」


「あぁ、私はいつでもそれに振り回されてたさ」


 男は昔の事を思い出していた。

 自分はそんなに外に出て走り回るような人物ではなく、部屋の中に閉じこもっていつでも机にかじりついて本を読んでいた。周りから本の虫と良く言われていたが自分でもそうだったと思う。何せ本を読まないときは殆どなく、外出する時は神殿にお祈りしに行く時、本を話すのは食事時と風呂の時だけだ。


 そんな男をいつも外に連れ出したのは近くの町に住んでいた少女だった、当時は屋敷に働きに来ていた少女はいつしか休み時間になると男の下を訪れて外に連れ出すようになっていった。最初は「なんだこの娘は」とちょっとどころじゃなく引いていたが、いつしか惹かれるようになっていた。


 そんな思い出があるからこそ……


「あの男は許せない」


「あなた……」


 自らの妻が呆れたような声色で自分の事を呼ぶがそんな事はどうだって良い、自分の大切な娘がどこの誰とも知れない男と二人きりで旅に出ているのだ、これがどれだけ心配なことか!


「あなただって婚約者を見つけようとしているじゃない、自分で見つけたならそれ以上のことはないわ」


「それとこれとは話は別なんだよマリア」


 あの男の事を思い出す。

 昼間、警備兵に襲われて慌てて屋敷から出て行ったのを思い出す。自分が警備兵に伝えていたことを忘れていたのは少しだけ悪かったように思う、ほんの少しだけ思う。

 しかし彼の動きは常人のそれではなかった、数人に囲まれて無傷で逃げ切れる者など殆ど居ない。限りなく低い可能性かもしれないがもしかしたら……


「もしかしたらジュリアが彼に惚れるかもしれないじゃないか」


 男はあのジュリアの過剰な反応を思い出してそう呟いた。

 マリアはそれを見ながら自分の娘を思い浮かべ想像する、もしかしたらの可能性を。


「ぶわっくしょん!!!」


 盛大にくしゃみをするとジュリアは「風邪ひいたかしら」ズズズと鼻をすすった。これを見て惚れられる人物はなかなか居ないと思われる。それを見ながら武は苦笑する。


 屋敷を出てから二人は近くにある町に来た。そろそろ日が暮れるということもあり、宿をとるためである。この時間帯であればジュリアは「あぁー、宿探すの面倒ね。ちゃっちゃと野宿しましょ野宿」と言いながら勝手に馬屋に忍び込み藁をベットに寝ようとしてしまうのだが、今回はそんなことを使用ともせずに普通に宿を見つけ部屋をとった。

 良い事では有るのだが武にとってはちょっと何時もと違うジュリアに疑問を抱いたりもした。


「さてついに明日には試験会場である遺跡っぽいものに突撃することになるけど覚悟は良い?」


「もちろん、いつだって大丈夫だ」


 武は少しワクワクしていた。

 何と言ってもこれから入るのはダンジョンである、いつもゲームの中だけで入っていたものとは違い自分の命を懸けたダンジョンだ。まぁ命の危険はないとアンからも言われているのでもっと観光気分が高まってくる。

 ファンタジーなこの世界ではどのようなダンジョンが待ち構えているのか楽しみでならないのだ。


 その武の様子にジュリアは気が付いたのか苦笑を浮かべる。


「ほどほどにしなさいよ? 寝不足なんかになったら承知しないんだからね」


「りょーかい」


 しかしそうは言われても中々ドキドキは収まらない、ベットに入っても武は中々寝られない夜を過ごす事になるのだった。

 そして翌日思いっきり寝過ごしてジュリアにどやされながらたたき起こされたのは言うまでも無いことだろう。





次回予告



「何これ! 何これ! 何これー!!!」


「もうちょっとでごーるぅぅぅぅぅぅ!?」


 参加者のレベルに合わせて変化する内装、及びモンスター

 過去最高難易度となってしまったダンジョンに二人はどう対応するのか


  ノーブルパーソン第7話

「煌めけ! ダンジョンの奥地で!」


 普通の少年の異世界譚


「おや?久しぶりのお客さんだ」

アンケート継続中

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