第六話「地獄の訓練&ちょっと一休み ③」
マクベルン領
そこは国内でも有数の豊かなとちとして知られている。現領主は平民に理解があり、無理な搾取はせずに領民を保護するように努めている為に犯罪数も少なく、指示も厚い。ちょっと難点があるとすれば隣国と接している為に緊急時には最前線になってしまう事だが、マクベルンは文官だけでなく多くの魔術師や武官を輩出しているというエリート集団である為に国軍相手に戦争を起こせるとも言われているほどだ、そうそう危険になる事は無い。
さて、そんなとってもお凄い家の長女という超お嬢様なジュリア=マクベルンはというと……
「……(ズンズンズンズン)」
「……」
「私とても機嫌悪いです」という空気を撒き散らしながら街道を進んでいた。そしてそれを追いかけるようにして武は付いて行く。
一応言動などが少女としてあるまじき感じでヤバイジュリアも傍から見れば美少女という文字のど真ん中に胡坐をかいているような容姿をしている。そんな少女が歩いていれば時折すれ違う行商さんや傭兵として旅をしている兄ちゃんやらおじさんやらに目を付けられるのだがその殆どがその眼力だけで退散してしまっていた。
因みにそういう退散してしまった人々は武を見て羨ましそうにするやら、明らかに敵意を含んだ目を向けてくるやらしてくる、まぁジュリアが怖いので手は出してこないが。
徒歩3日ほどかけて到着したマクベルン第一の村によった時、ジュリアの元に一人の男が現れた。
話している間ずっとニコニコと笑っていたおじいさんで、年はだいたい50~60くらいのように見えた。平均寿命が大体47,8のこの時代にしてみれば長生きである。
さてそんなとても人の良さそうな老人の話をなぜこのタイミングで言うかというとそのおじいさんが一枚の手紙を持ってきた、それが問題だった。
おじいさんは何も言わずに手紙を帰りぎわにジュリアに私そそくさと去っていった。
ジュリアはそれを少し訝しそうに見ていたが渡された手紙を見れば分かるかも知れないと送り主の書いていない手紙を開けて読み始めた……と思ったら唐突にそれを再び読むことが出来ないくらいに破り捨てるとそれに向かって極小の火球を叩きつけ、灰にしてしまったのだ。
それを間近で見ていた武は何事かと聞いてみたところ。
「あの糞親父! いつの間にか私に婚約者を作ってやがった……!」
と、とても女性が言うとは思えないような言葉を使いながら拳を握り締めて憎悪に目を燃やしながらその燃え尽きた紙切れを未だに恨みがましそうに見詰めていた。
なんでもジュリアの父親はその特殊な性癖、及び趣味思考を憂いて彼女の為に婚約者を探すというのが趣味らしく、度々このように間者(と思われる人物。毎回毎回違う為に分からない)にこうして決まるたびに手紙を送り届けさせるのだ。
なんでも今回は神殿からこちらに来る事を事前に知らされていたらしく、村の村長であるさきほどの老人に手紙を預けていたらしい。老人曰く、領主のそういった行動とその後にジュリアがどのような風になるのかは風の噂で聞いておりそのため巻き込まれないようにさっさと帰ったらしい。
そんな事を知っているのであれば教えてくれればいいのに、と武はちょっと村長を恨んだりもした。
以上のことがあり、どうにかして婚約を破棄させようと考え今まさにマクベルン領主の住居である屋敷に向かって歩いているのだ。
このままではもしかしたらジュリアは騎士団に入ることが出来ずにリアと結ばれること無く一生を過ごすことになってしまうかもしれない、そんなことはジュリアには耐え切れないのだ。いや、結ばれないならまだ許せる、許容範囲内だ。もし男などという生き物と結婚などということになってしまったら……
「なんで薄汚い男の股間にある物体を私がくわえなくてはいけないのよ、それ以上にどんな地獄があるというのだろうか? 男と結ばれるのが女の幸せなどと考えないでくれる? 私はリア様と結ばれる為に生きているの、リア様に身を捧げる為に生まれてきたの。それなのにそんなどこの誰とも知らない男なんて路傍の石と同じよ、いえ、むしろ馬糞ね馬糞。本当に無くなってくれないかしら。あぁでも馬糞は農業に役立つからそれ以下ね。この世界に存在しているものには全てに意味があるというけど男というのはなんなのでしょうね、本当に。何故神は女同士で子供を作れるようにしてくれなかったのかしら、不思議でしょうがないわ」
ということらしい。
オブラートに包んでイロイロと脚色し、翻訳すると「そんな事になったら下切って死にます(相手の男が)」ということらしい。
この話を聞いてちょっと武が落ち込んだりもした結果が今のこの状況である。
男としてはそのような事を隣で、しかも美少女であり、将来的には確実に美女とも呼ばれるであろう人物から言われるというのは精神的にというか、ちょっとはあった少女との旅に対する憧れやら何やらが完膚なきまでに叩かれ、蹴られ、崩されてしまったようなものなのだ。
ようするにちょっとは恋愛に発展するでは?という淡い期待を持っていたのだった。
さてそのように進んでいくとマクベルン家の所有する館が見えてきた。
どこから見ても文句なしの豪邸、どれほどの資産をつぎ込んだかも分からないような整備された道、そして庭の木々、その庭の中央にはこれでもかとでかい噴水が取り付けられおり、その天辺では天使が壺を抱えて静かに佇んでいる。
シンメトリーな庭に噴水、日本人が想像している様な豪邸がそこに存在していた。
どこを見ても非の打ち所が見当たらない、武がそういった事に疎いということを差し引いてもこの豪邸はとても煌びやかだった。
その庭をまるで当然のことのように流すとジュリアはズンズンと突き進んでいく。途中で使用人が通りかかり挨拶をするとそれには笑顔で返していたが、それ以外の時には顔を般若のように歪めて闘志をその体から湯気のように立ち上らせていた。
それを見ながら周りから向けられる奇異の目に小さくなりながらも着いていく武、目の前にいる般若の恐怖、背後から向けられる奇異の目。その二つによって武は段々と精神的に追い詰められていった。
「お父様、入ります」
そうやって様々な視線を集めながら進んで行くと、ジュリアは一つの扉の前で止まりそれを二回ノックした。すると中から「入れ」というとても深く渋い声が聞こえるとジュリアは静かに、それでいて荒々しくという神業を披露しながら扉を開いた。
中に居たのは先ほどの声の主であろう髭を生やしたダンディーな男性と、それの娘と思われる一人の女性。おそらくこのダンディーな男性はジュリアの父親なのだろうと武は考えながらポケーっとその隣に立つ女性を見た。
前方から見る、美人である。
ちょっと斜めから見る、美人である。
上半身、完璧。
下半身、パーフェクト。
胸は大きすぎず小さすぎず、おそらくC判定、もしくはD判定といったところだろう(紳士の目による測定)。
年齢、おそらく20代前半(少し大人びている雰囲気をかもし出しているためもっと若いと判断できるが、ここは保留)。
どことなくジュリアと同じような顔立ちに微笑を浮かべながらもビシッと立ってこちらを見ている様はまるで天使のようだと武は思った。
とか勝手に失礼な思考を巡らせているとジュリアの父親と思われる男性がこちらに厳しい目を向けているのに気が付き、思考を停止させる。心なしかジュリアの視線も若干冷たくなっている気がするが気のせいだろう。
ゴホンという男性が咳払いをすると厳かにそのダンディーな髭のある口を開いた。
「久しぶりだな、ジュリアよ。お前が家を飛び出してちょうど3ヶ月か?」
「4ヶ月ですよ、あなた」
父親の間違いに隣から静かに訂正を入れる女性。こういった静かなフォローが世の男性の心を掴んでしまう要因であることに世界の違いは関係無いだろう。結婚しているのがとてももったいない。
(……あなた?)
武はそのどうしようもない現実を突きつけられ白い灰になってその場に立ち尽くした。
その耳には何も聞こえてこないし、彼は物音一つ立てる事は出来ない。唯一できることはといえばその生気を失った目でどうみてもロリコンの判定を下さなくてはならないであろう目の前のダンディーなペド野郎を見詰めることだった。
ジュリアの視線がさらに冷たいものになっているがその事には彼は気付かなかった。
「ただ今帰りました、お父様。用事がすんだらすぐに出て行きますのでご安心下さい」
「そう言うなジュリア。サーラが寂しくしているぞ?」
「ご安心を、サーラに会いに来るのとこの家に寄るのとでは意味が違いますので」
実はサーラに会うために夜中に進入していたりするジュリアであった。無論その事に父親は気が付いていないし、使用人や軽微のものも見つけたとしても見逃していたりする。
因みに母親は知っている、母は偉大なり。
「……そうか。それで用事とはなんだ?」
「これについてでございます」
そういうとジュリアは懐から一枚の紙(燃えカス)を取り出すと父親にそれを突きつけた、と言うよりも灰を父親に向かって投げつけた。
もちろんそれは婚約者発生の報告書(だった物)である。
父親は灰を被りながらも一言。
「これじゃ何だかわからんぞ」
全く持ってその通りである。
「なぜ勝手に婚約者などという名のカスを作ったのかと聞いているのでございますよ糞親父様」
言葉の節々からその見に篭った怨念を滲ませながら女性とは思えない言葉をつむぐジュリア、普通ならばそれを注意する役目であるはずの母親は「アラアラ」と言いながら微笑み見詰めている。
それを父親は冷静に受け止めて顔に張り付いた灰を払い落としながらジュリアを見詰め、大人らしく冷静に言葉を選びながら
「そんなもの決まってるだろう。もう結婚してもいい年であるのに未だに幼い夢を追い続け、騎士団に入ろうなどという妄言を吐いている小娘を更正させようとなぁ!」
は無理であり。イキナリ灰を投げつけられるという攻めに対してぶちぎれて言葉の節々というか最後は感情に任せて叫んでしまうという似たもの親子である。
「うるさい!男と結婚するくらいなら自殺してやるんだからね!」
「やってみろ!どうせそんな勇気も無いくせになぁ!」
「言ったわねこの糞親父!今日という今日はその汚らしい首を討ち取ってやろうじゃないの!」
「あぁ、いいぞ。やってみろ小娘!騎士団にはいるなんぞ夢のまた夢だって事をその身に教え込んでやる!」
「この薄汚いブタめ!もう生きていることをこの世界に謝りなさい!」
「黙れ小娘!お前はそんなんだから一度たりとも恋文を貰ったことがないんだ!」
「「やってやる!表にでろやぁ!」」
最後には一文字も違わない言葉をお互いにぶつけ合うと言うとても息の合った親子愛を見せ付けて、館をその声量だけで震わせたが、いつもの事のようで見回りの兵士やメイドなどはそのようなことには頓着せず、仕事を続けるのであった。
妹は異世界に行くことになりましたとさ。
その世界はどこが良いですか?アンケート2
1.同じ世界
2.違う世界(既存の作品)
3.違う世界(オリジナル作品)
因みに2の場合には作品名もよろしく
無い場合には勝手に……とかね!
気軽に回答くださいなー
メッセージとかでも活動報告とかでも大丈夫ですよん