魔女の素顔
ケイゴ side
太い枝にまたがって、仰向けに寝転がる。
見上げる空は青く、風もいい。
最近はここで昼寝するのが日課だ。
女避けにもなるし、レンの護衛から一時的に逃げられる。
一石二鳥ってやつだな。
……と思っていたら。
「な、何なのよこれは!?
マジでダルいんだけど……!
このままじゃ悪役令嬢として断罪されて追放じゃん!!」
――――ガンッ!!
俺が寝ている枝の根元、幹を思い切り蹴りやがった。
おいおい。
衝撃で普通に落ちかけたんだが?
だが、声の主に心当たりがあって、俺は枝にしがみついたまま様子を見ることにした。
……面白そうだ。
「あー、炭酸飲みたい!!
スカッと喉を潤したい!!
マジでコーラープリーズ!!」
……は?
意味不明な言葉を絶叫してる変な女。
いや、待て。
――あれ、ジュリアンじゃねぇか!?
あの傲慢で高飛車で、
「レン様♡レン様♡」って四六時中まとわりついてた、あのジュリアン?
すると、不意にジュリアンがガバッと顔を上げた。
……目が合ってしまった。
驚愕した顔で固まるジュリアン。
真っ赤になって、完全フリーズ。
……ぶはっ。
我慢できず、吹き出してしまった。
「クックック……マジかよ。
お前、あのジュリアンか?
別人すぎるだろ」
「う、うるさいわね!!
なんであんたがここにいるのよ!?
レンの護衛もしないでサボってる分際で、私に文句言うんじゃないわよ!!」
早口、完全にテンパってる。
……何だこれ。
面白すぎる。
「おいおい、ちょっと落ち着けって」
「ちょっと!?聞いてるの!?」
「なぁ、
“タンサン”って何だ?
“コーラー”って飲み物か?」
一瞬で、言葉に詰まるジュリアン。
そして、チッと舌打ち。
……ああ、確信した。
こいつ、いつものジュリアンじゃねぇ。
確かに我儘で口は悪い。
だが、あの貴族特有の「計算された振る舞い」や背筋の通った“意地悪い令嬢オーラ”が、微塵もない。
「はぁ!?
な、何の事よ!
私が……し、知ってるわけないじゃない!」
挙動不審、言い訳も雑。
……やべぇ、楽しい。
まるで、中身だけ入れ替わったみたいだ。
「なぁ」
声を低くして言うと、
ジュリアンの肩がピクッと跳ねた。
「お前、本当にジュリアンか?」
「……どうして?」
「俺の知ってるジュリアンと、
あんたはかけ離れすぎてるからだ」
一瞬、黙る…視線が泳ぐ。
「……意味が分からないんだけど……
ねぇ、貴方から見て“ジュリアン”ってどんな人物?」
逆に質問してきた…ますます怪しい。
「そうだな」
俺は顎に手を当て、正直に答える。
「馬鹿みたいにレンに恋い焦がれてる婚約者。
四六時中レンのことしか考えてなくて、周りが見えてねぇ女」
はっきり言うと、ジュリアンは目を見開き、俺の顔色を窺った。
「でもな」
少し間を置く。
「今のあんたからは、
レンに対する恋心が、まったく見えない」
沈黙。
そのあと、ジュリアンがぼそっと呟いた。
「……やっぱり中身がおばちゃんだから、
おばちゃん臭さが抜けないのかな……
プリーズ、ヤング……」
……は?
一瞬、思考が停止した。
「……何言ってんだ、お前」
「な、なんでもない!!」
完全に挙動不審、もう隠す気もないだろ。
「なぁ」
俺は枝から飛び降り、
ジュリアンと同じ目線に立つ。
「やっぱり、あんたはジュリアンじゃないだろ?」
一瞬、迷ったような顔をしたが――
すぐに、あの“貴族の仮面”を被る。
「……私がジュリアンでなければ、誰だとお思いで?
ぜひ、教えて頂けますこと?」
……はは。
やっぱり一筋縄じゃいかねぇ。
だが確信した。
この女は、
レンが知っている魔女ジュリアン”じゃない。
そして――
多分、面倒で、厄介で、
めちゃくちゃ面白い存在だ。
さて。
この秘密、
どこまで突っ込んでいいものか……




