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レンの憂鬱

レン side


――はぁ、面倒くさい。


 なんで俺が、あの傲慢な女の見舞いなんて行かなきゃならないんだ。

俺を見る、あの媚び媚びの視線。思い出すだけで胃がムカムカしてくる。


正直、吐きそうだ。


あんな女が将来の妻?

冗談じゃない。


 それに比べて、妹のアンナは天使そのものだ。

同じ姉妹なのに、どうしてこうも違うんだ?


……結婚相手は、どう考えてもアンナの方が良かっただろ。


   ◇ ◇ ◇


 久しぶりに顔を合わせたが、やはり無理だ。

一目見ただけで、好感度はマイナスを更新する。


 キッチリと作り込まれたド派手な化粧。

鼻につく、きつい薔薇の香り。

相変わらず健在な、ドリルみたいな縦巻きロール。


そして何より――

目元を黒く縁取ったその化粧が、完全に魔女。


……グロい。


「お久し振りでございます、レン様。

この度は私のお見舞いに来て頂き、ありがとうございます。

病み上がりゆえ、掠れた声で失礼いたしますわ」


 病み上がり、ね。

その掠れ声も相まって、ますます魔女感が増してるんだが。


正直、悪夢だ。


「何を言う。婚約者を見舞うのは当然だろう」


 あまりに白々しい台詞に、内心で自分を嘲笑してしまう。


そんな俺を、ジュリアンはじっと観察するように見つめ…


「ふーん。

ちゃんと“婚約者”って自覚はあるのね?」


……は?


 今、何か聞き捨てならないことを言われた気がする。


空耳か?

いや、確実に挑発された気がするんだが。


まあいい。

さっさと婚約者としての義務を果たして、帰ろう。


「ところで、具合はどうだ?」


「問題ありませんわ。

来週からは学園にも通いますし、レン様もお気になさらず」


……なんだ?


さっきから、妙な違和感がある。

俺を拒絶している――そんな距離感。


 いつもなら、

「レン様♡レン様♡」

って鬱陶しいほど張り付いてくるくせに。


今日は、一定以上近づいてこない。


「今日のジュリアンは、いつもと違うな。

まだ体調が悪いのか?」


 俺の言葉に、彼女は口元を隠して――

勝ち誇ったように、クスッと笑った。


……なんだこの敗北感!?

意味がわからない。

気分が悪い。


「な、何が可笑しい!

さっきから、なぜ笑っている!」


「いえ……申し訳ございません。

特に意味はございませんわ」


――あるだろ!!

絶対あるだろその態度!!


 苛立ちが募ったその時、

突然、ジュリアンが俺の両手を握った。


そして、潤んだ瞳で上目遣い。


「レン様。

本当に、お見舞いに来てくださって嬉しいですわ」


……っ!!


近い!!

怖い!!


黒縁取りの目が、至近距離で俺を見つめてくる。


無理。

これは無理。


もはや狂気の域だろ!!


「や、やめろ!!

顔を近づけるな!!

怖すぎるだろ!!」


 強く言いすぎたのか、ジュリアンはしゅんと離れた。


……少し、言い過ぎたか?


恐る恐る彼女の顔を見ると、

泣いているのか、笑っているのか分からない表情。


だが、やはり――

あの顔のインパクトは強すぎる。


あれが、俺の妻?

いずれ、俺の子を身籠る?


……想像しただけで、気が滅入る。


 どうしてアンナじゃないんだ。

同じ姉妹なら、どう考えてもアンナの方がいいだろう。


重苦しい空気を切り裂いたのは、幼馴染であり、俺の護衛剣士のケイゴだった。


「ジュリアン嬢。

そろそろ、私どもは失礼いたします」


おお……!

さすがケイゴ!


神か?


 心の中で盛大に頷いていると、ジュリアンはあっさりと…


「はい。

本日は遅くまで引き留めてしまい、申し訳ございませんでした。

どうぞ道中、お気をつけて」


……え?


引き留めない?


いつもなら、何かしら理由をつけて

俺を引き止めようとするはずなのに。


「はい。

ジュリアン嬢も、どうかお大事に」


 ケイゴの挨拶と共に、完全に突き放される形で退出。


馬車に乗り込んでから、俺は思わず口を開いた。


「なぁ、ケイゴ。

今日のジュリアン……どこかおかしくなかったか?」


「そうですね。

いつものような、殿下への執着は見られませんでした」


……やはり、そうか。


「殿下は、ジュリアン嬢に執着してほしいのですか?」


「ばっ、馬鹿なことを言うな!!」


 俺は顔を背け、頬を膨らませて睨みつける。


「そんなわけがあるか!」


「殿下は、本当にジュリアン嬢とご結婚なさるおつもりですか?」

 

「……順調にいけば、そうなるだろうな。

だが、正直想像がつかない。

あの魔女と“そういうこと”をする自信もない。

……何とか回避できないものか」


 腕を組んで考え込んだケイゴは、小さく溜め息をついた。


「殿下が、ジュリアン嬢を好きになれば解決するのでは?」


――ブッ!!


思わず吹き出してしまった。


は?

俺が?

あの魔女に?


そんな未来、あるわけないだろ。


 俺があいつに恋い焦がれる日なんて、

天地がひっくり返っても来ない。


……絶対に。


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