アンナと私
人間って、衝撃的な事実に気持ちが追いつかないと、心が壊れてしまうものなのね。
アンナも、あまりに衝撃的すぎて、受け止めきれなかったみたい。
そのせいで、心が子どもに戻ってしまったのだ。
「お姉ちゃま!おやつができまちた!一緒に食べましょう!」
「まあ、アンナ、美味しそうなクッキーね。今日はお天気がいいから、外のテラスでお茶にしましょうか」
テラスに可愛いテーブルクロスを掛け、紅茶とクッキーを並べる。
「アンナ、美味しい?」
「はい!お姉ちゃま」
ニコッと笑うその顔は、今まで私に向けたことのなかった笑顔だった。
こんな光景を見ると、今の平穏な暮らしも悪くない
そう、アンナは退行してしまったのだ。
衝撃的すぎる事実に、思考が子どもに戻ってしまったのだ。
◇ ◇ ◇
「えっ!?お父様もお母様も、何を言っているの!?レンとの婚約を破棄したなんて!!」
アンナは暴れ、屋敷の者たちが何人かで取り押さえる。
いつものように父を頼ろうとするが、父の視線は冷たく、まるで氷のようだ。
「私は騙されていた!お前は私の娘ではなかった!」
「えっ……お父様、何を……?」
取り繕うこともなく睨む父に、アンナはポカーンと固まる。
「えっ?きっとお姉さまが……」
その瞬間、父の平手が飛ぶ。
「えっ!?お父様、な、何を……?」
頬を打たれるアンナ。
「お父様だと!?お前ごときに、その名を呼ばれたくもない!」
可愛く泣き真似しても、父の態度は変わらない。
仕方なく、アンナは開き直って不貞腐れた声で言う。
「っていうか意味が分かんないんだけど!」
すると母が近づき、謝罪を始める。
「アンナ、ごめんなさい。あなたの父親はお父様じゃないの。
私は自分の復讐のために、ゆきずりの旅芸人を誘惑してあなたを宿したのよ」
アンナは信じられない顔で固まる。
「貴方の父親は、貴族でも何でもなく、ただの平民なのよ!」
頭が追いつかないアンナ。
「う、嘘よ……私はお父様の娘で、アンナ・ポーツよ!ねぇ、そうでしょ、お父様!」
絶叫するアンナの横で、父は笑い出す。
「クックックッ、馬鹿馬鹿しい勘違いだな。お前の父親は卑しい旅芸人だ!
そんなドレスを着る価値も、レン様と結婚する価値もない!」
吐き捨てる父の言葉に、アンナは突然笑い出す。
「クックックッ、はぁ?意味が分かんない!
そんな卑しい身分だっていうなら、お姉さまの方が対象でしょ!」
勝ち誇った顔だが、時折肩が震えている。
「何を言ってるんだ、ジュリアンが正真正銘の私の娘だ!」
父の言葉に、アンナはその場に崩れ落ちる。
「う、嘘よ!お姉さまが父の子だなんて……違う、違うわ!」
血走った目で叫ぶアンナを拒絶し、私に向かって両手を広げて抱きしめてこようとする
「ジュリアン、我が愛しの娘……私が間違っていた!」
私は思わず怒りをぶつける。
「ふざけないでよ!誰があんたなんて父親と認めるの!?
生物学的に親でも、今さらじゃない!
私への仕打ちを忘れたの?」
両手を下ろした父は、脱力して肩を落とす。
絶叫と同時にアンナが倒れ込み、白目を剥いて意識を失った。
慌てて医者を呼ぶと、医師は落ち着いた声で説明した。
「所謂、退行ですね。真実を受け止めきれず、精神が子どもに戻ってしまう状態です。
時々正気に戻ることもありますが、そのまま子ども時代のまま成長が止まる場合もあります」
私は絶句した。




