婚約者との対面
「たとえお嬢様が誰であっても、私の息子の命の恩人に変わりはありません。
今後は、お嬢様の為にこの身を捧げる所存です」
……重い。
いや重すぎるでしょ、それ。
ソラの覚悟に、私は思わず背筋を伸ばしてしまった。
だって“身を捧げる”って、最悪の場合、命ごと差し出す覚悟ってことでしょ?
そんなの、ちょっとどころじゃなく困るんだけど。
「ソラ、命は大事にして頂戴!
私なんかの為に身を捧げなくてもいいから!
ただ、いつでも私の味方でいてくれればいいわ。
それで十分……いえ、それ以上よ。貴方は私の友達一号なんだから」
その瞬間、ソラの顔に刻まれた皺が、さらに深くなった。
感極まったようなその表情を見て、私は内心ほっとする。
……どうやら、本気で仲間になってくれたみたいね。
さて。
問題はここからだ。
これから私は、何をすべきなのか。
「ソラ、とりあえず確認させてちょうだい。
私は今、何歳? 学園には通ってる?
それと……婚約者は、やっぱり第二王子のレン様かしら?」
乙女ゲームの世界。
その時点で、私の未来には“断罪イベント”が用意されている可能性が高い。
もちろん、回避できるならそれが一番いい。
でも、物語の抑制力とかいう理不尽な力で、強制的に断罪→追放ルートに入る可能性も否定できない。
最悪の未来を想定して、今から動いておかないと。
「お嬢様は現在十四歳。半年後に十五歳になられます。
学園には昨年から通われております。
現在は長期休暇中で、来週から新学期が始まります。
レン様とは、お嬢様が七歳の頃から婚約されております」
……なるほど。
断罪イベントから逆算すると、今はまだ約一年と少し前。
猶予はある。けど、余裕はない。
レンとは、今のところ表面上は円満。
でも――問題は妹のアンナだ。
アンナが学園に通い始めた途端、レンはあっさり骨抜きにされる。
そういう展開だったはず。
そして、その妹が学園に来るのが……来週。
つまり、残された時間は一年程度ってわけね。
どうにかして、私に非がない形で婚約破棄してもらわないと。
……というか、そもそも原因はレンの浮気でしょうが!
それなのに、なんで私が断罪されなきゃいけないのよ。
乙女ゲーム、理不尽すぎない?
「ソラ。
レンって、貴方から見てどんな男かしら?」
え?
と、ソラが思いきり間の抜けた顔でこちらを見る。
「……お嬢様を、政略結婚の相手として見ていらっしゃるように感じます。
ただ……お嬢様は昔からレン様を深くお慕いでしたので。
見ていて、お二人の気持ちに温度差を感じておりました」
……だよね。
嫌われてはいない。
でも、特別でもない。
私はレンが好きで。
その想いが報われないから、嫉妬して、拗れていく。
まさにテンプレ乙女ゲー悪役令嬢ムーブ。
「……そう。教えてくれてありがとう」
私が視線を上げると、ソラはどこか悲しそうな顔でこちらを見ていた。
「これからお嬢様は、どうなさるおつもりですか?」
「決まってるじゃない。
レンとの婚約破棄よ」
ソラは口をぱかっと開けたまま、完全にフリーズしていた。
数秒後、ようやく我に返ったのか、ゆっくりと口を閉じる。
「……お嬢様は、レン様をお慕いですよね?」
「それは……色々あるのよ。
これ以上の詮索は、し・な・い・で・頂戴!」
「あ、そういえば……
レン様からお見舞いのお手紙が届いておりました。
机の上に置いてあります」
「ありがとう」
机の上の手紙を手に取り、ざっと目を通す。
そして、盛大に溜め息。
快方見舞いの言葉と一緒に、こう書いてあった。
――明日、見舞いに伺う。
……は?
こっちの都合、完全無視なんだけど?
これだから王族ってやつは……横暴にも程があるわ。
「ソラ。
レン、明日来るって書いてあるんだけど?」
「左様でございますか。
では、すぐに準備を整えます」
こうして私は、
避けられない“レンとの面会イベント”を迎えることになったのだった。




