ジュリアンの逆襲⑤
不意にお母様が私をギュッと抱き締めた。
変な話、母に抱き締められた記憶なんて一度もない。
幼い頃のジュリアンの思い出が、脳裏を走馬灯のように駆け巡る。
そして母は、泣きながら何度も謝った。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……!」
「お、お母様……!?」
私の声に気づくこともなく、謝罪は続く。
このままでは永遠に謝り続けそうだったので、思わず私も母を強く抱き締め返す。
ふと我に返った母は、まだ私から離れようとしない。
その様子を呆然と見つめる父。
「セ、セイラ、アンナは……誰の子なのだ!」
父の絶叫が、部屋中に木霊する。
「ゆきずりの旅芸人と私の子よ……」
固まる父。思わず私は変な汗をかいてしまった。
ドラマみたいな展開すぎる…!
その後、父は私と母を無理やり引き剥がし、母の肩を強引に揺らしながら問い詰める。
「う、嘘だよな!?ジュリアンが娘でアンナが娘じゃないなんて信じないぞ!!」
それに対して、母は馬鹿にするように父を嘲笑していた。
その姿に、私は初めて恐怖を覚えた。
父は勢いを失い、項垂れてしまう。
そして母が私の手を取り、静かに告げる。
「アンナは完全な貴族の血筋じゃないの。だからレン様の婚約者としては不適格なのよ。
これから私は懺悔のため王宮へ行き、真実を話してくるわ。
きっと不敬罪で咎められるかもしれないけれど……ポーツ家はジュリアン、貴方が家督を継ぎなさい。
だから、好きな道を選びなさい。
お母様は駄目な母でごめんなさい……」
その直後、馬車が到着する。
母は父を伴い、王宮へと向かった。
最後まで母は泣きながら謝り続けていた。
——ジュリアン、貴方はきっと許せないと思うでしょうね…
でも、前世の記憶を持つ私は母親の気持ちが少なからず分かるような気がする。
愛されないと心は枯れてしまう。
ちゃんと水を与えなきゃ、生き続けられないのだ。
◇ ◇ ◇
「ランディー様、この度はお力添えありがとうございました」
「いやいや、婚約を破談にするつもりが大事になってしまった。逆に申し訳ないね」
あれからアンナとレンの婚約は正式に破棄され、両親は離縁。
母は不敬罪に問われることはなかったが、身分を奪われ平民に。
今は静かな田舎町の教会で暮らしている。
父も領地の不正が発覚し平民に落ち、愛人の元へ転がり込んだらしい。
しかし金の切れ目が縁の切れ目とも言うくらい立場が入れ替わり、愛人から罵倒される日々を過ごしてるれしい。
最早、自業自得だね……
アンナは罪に問われることなく、今も私と屋敷で暮らしている。
――アンナとはどうなったかって?




