婚約パーティー③
アンナside
「レン様、本当に素敵ですわ!」
今日の主役は――
そう、私。
ようやく、ここまで辿り着いた。長かった、本当に長かった……!
淡いピンクのAラインドレスは、この日のために誂えた特別な一着。
裾はひらひらと舞い、レン様と踊れば否が応でも注目を集めるはず。
(さあ、見なさい。
群衆ども――この私を)
胸を張って会場へ足を踏み入れる。
当然のように視線が集まる……はずだった。
――なのに。
「……?」
何かがおかしい。
人々の視線が、私たち“だけ”に向けられていない。
その先を辿ると、金髪の美男子が目に入った。
(……ケイゴ様?)
レン様に匹敵する容姿、学園でも名の知れた人物。
でも、あんな柔らかい表情の彼を見るのは初めてだ。
――そして。
(……隣の女、誰よ)
主役は私のはずなのに。
まるであちらが物語の中心みたいじゃない。
苛立ちを覚えながら、そっとレン様を見上げる。
――その瞬間、胸がざわりと波立った。
(……何、その顔)
レン様の視線は、私ではなく…
ケイゴ様と、あの女に釘付けになっていた。
慌てて、彼の視界を遮るように一歩前に出る。
「レン様、今日のドレスはいかがですか?」
(お願い……他の女なんて見ないで)
「……うん、綺麗だ」
……違う。
その言葉、心がこもっていない。
不安が胸に広がる中、突如、会場の照明が私たちを照らした。
――そうよ。
今日の主役は、私。
「レン様、アンナ様、ご婚約おめでとうございます!」
祝福の声が飛び交う。
称賛、羨望、憧憬――。
(ああ……これよ。
これが欲しかったの)
満たされるはずだった。
…なのに。
(……何か、足りない)
気づいてしまった。
この場に――姉がいないことを。
「お、お姉さまはどちらに?」
その一言で、空気がざわめく。
「魔女のような姉上のことなど、忘れた方がよろしい!」
「ジュリアン嬢に、何か嫌がらせでも?」
取り巻きたちの声に、心の中で笑う。
(そうよ。姉は悪魔、私は天使)
――その時。
人の流れを割るように、二人がこちらへ歩み寄ってきた。
金髪の青年と、その隣の女性。
「レン様、アンナ様。ご婚約、おめでとうございます」
ケイゴ様が片膝をつき、優雅に礼を取る。
続いて、隣の女性も同じように頭を下げた。
「レン様、アンナ。
姉として、元婚約者として、心からお祝い申し上げます」
……え?
(……姉?元婚約者?)
視線を上げた瞬間、心臓が跳ねた。
――誰?
目の前の女性は、私を見てくすりと微笑む。
(……嘘)
確かに、ジュリアンは“魔女”だった。
派手な化粧、きつい香水、傲慢な態度。
――なのに。
そこにいるのは、
まるで聖女のような佇まいの女性。
会場がざわめき出す。
「……あの方が、ジュリアン嬢?」
「別人みたい……」
(違う……
こんなの、私の知ってる姉じゃない)
胸の奥で、何かが音を立てて崩れ落ちていった。




