レンのご乱心
レンside
お、俺は……今、何をしてしまったんだ?
アンナを愛しているのに……。
息を切らせ、俺に駆け寄ってくるアンナ。
でも、そこにいるのはいつもの可愛らしいアンナじゃなかった。
髪は逆立ち、泣きはらしたのか化粧は剥げ落ち、
泣き声を震わせる姿は見るに堪えないほど――。
「レン様、レン様、私を愛してらっしゃいますよね?」
カナ切り声で、ヒステリックに何度も確かめてくる。
「……っ……」
その必死な問いかけに、思わず立ちすくむ俺、返答が出てこない。
「もしや、姉を……姉を愛してるのですか?」
いや、違う!
俺が愛しているのは、アンナだけだ……
そうだ、先ほどまでアンナとの婚約を夢見ていたはずだ。
少し綺麗になったからって、心変わりするわけがない。
それに、あんなに好きだとまとわりつかれていたのに、呆気なく婚約者の座を放棄したジュリアンに気を取られただけ……
「それよりも、婚約者がジュリアンからアンナに変わり、やっと念願が叶った。
俺は心の底から安堵してる」
「本当でございますか?アンナも嬉しいです」
俺はアンナを強く抱き締める。
アンナだけを、アンナだけを愛そう……
そう思っても、頭の片隅には、あの時のジュリアンの強引な口付けが消えない。
アンナを抱き締めながらも、ジュリアンの影が残るなんて……。
◇ ◇ ◇
翌日、学園の廊下で見かけた。
ケイゴとジュリアンが仲良さげに歩いているのを……
ジュリアンはあの日以来、派手な化粧や香水は全て消え、まるで別人のように清楚で美しい姿になっていた。
……化粧で、ここまで変わるのか。女という生き物は、恐ろしい。
その笑顔――
ケイゴに向けられるその笑顔は、本来なら俺のものだったはずなのに。
「レン様、おはようございます!」
可愛らしい笑顔のアンナ。
先日まで彼女を見ているだけで幸せを感じていたはずなのに、
なぜか胸にぽっかり穴が開いたような虚しさを覚える……
「おはよう、俺のアンナ」
取り繕うように笑顔を返す。
すると、アンナはグイッと腕を胸に押し当て、いつもの可愛さとは違う……
少し大胆な誘惑を仕掛けてきた。
「少し、距離が近すぎる気がするが……」
「アンナは既にレン様の所有物ですので、私を好きに料理なさってもいいですわ」
……アンナ、俺を誘惑してるつもりか?
こんな姿を、俺は見たくなかったのに……
「申し訳ない。今日は仕事が山ほど残っている。
もう行かねばならない。また会おう、婚約者殿」
アンナに片膝をつき、片手に口付けを交わす。
しかし纏わりついてくるアンナ
「私もお手伝いいたします!側に……」
新しい護衛に合図を送ると、アンナを連れ出してくれた。
やっと、一息つける
これで少しは落ち着ける。
◇ ◇ ◇
窓越しに外を眺めると、ジュリアンがやってきた。
彼女はドレスをまくり上げ、両手両足を交互に動かしながら踊る――
パーティーのダンスではなく、独特のリズムでの動き。
さらに、嬉しそうに変な歌を口ずさみながら、体全体で表現している。
……目を奪われてしまう。
まさか――
俺がこうして、ジュリアンの異常なほどの自由さに魅入られる日が来るとは、思わなかった。




