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レンの奇行

私を、探してた?


 え、なにそれ。

もしかして助け船、出してくれるつもり?


 ……まあ、ありがとうなんて素直に言わないけど。

ここは一旦、ケイゴに乗っかってみるとしましょうか。


「ケイゴ様、奇遇ですわ。

実は私も探しておりましたの」


 そう言って、私は一歩近づき…


「ここでは少々、立ち話もなんですし……

私のサロンにいらして頂けませんか?」


 そして、軽くウィンク。


完璧。


……の、はずだった。


「クックックックッ……!

なんだそれ、面白すぎるだろ!」


 突然、ケイゴが腹を抱えて笑い出した。


「ジュリアン嬢、その目をパチパチさせるの、どういう意味なんだ?」


……え?


 ちょ、ちょっと待って。

まさかのウィンク、直撃ヒット!?


「えっ……?

ウィンク、ですけれど……?」


 自分でも分かる。

今、場の空気が完全に事故ってる。


笑い続けるケイゴと呆然とする私。


……お願い、誰かこの空気どうにかして。


その時だった。


「ケイゴ。今は――俺と話をしている」


強引に、また腕を掴まれる。


「邪魔をするな!」


……は?


一気に空気が張り詰める。


 ちょっと待って。

これ、一触即発じゃない?


 っていうか……

なんで急にラブストーリーの修羅場みたいになってるの?


私、悪役令嬢よね???


そこへ。


「――――レン様」


 ウルウルの瞳、守ってあげたくなる小鹿系スマイル。


……はい、出ましたヒロイン。


 アンナの登場と同時に、掴まれていた腕の力がふっと緩む。


「――――アンナ」


 レンの声が、明らかに揺れた。


……そのキョドり方、浮気がバレた男そのものじゃない。


 笑いそうになるのを必死に堪えていると――


「レン様、喜んでくださいませ!」


アンナが一歩前に出る。


「今まで政略結婚で愛のなかった、お姉さまとの婚約は破棄になりましたわ」


……うんうん。


「新たに、わたくしがレン様の婚約者になりましたの!

嬉しくて、嬉しくて……!」


 レンは呆然としたまま、その言葉を受け止め――

やがて、納得したように小さく頷いた。


……よし。


やっと解放ね。


 私は隣のケイゴに、もう一度だけウィンクを送る。


……ダメだった。


「ははははっ!

やっぱりそれ、最高に面白い!」


 腹を抱えて笑うケイゴにつられて、私も吹き出してしまう。


すると。


「……何がおかしい」


低い声。


 気づけばレンが、アンナを完全に放置したまま、私たちの前に仁王立ちしていた。


「二人して、何を笑っている!」


「はぁ?」


ケイゴが肩をすくめる。


「俺とジュリアン嬢の内緒話だ。レンに関係あるか?」


「あるだろう!」


レンが声を荒げる。


「俺は――

まだ婚約破棄した覚えはない!」


……は?


「ジュリアンは、まだ俺の婚約者だ!」


――血の気が引いた。


 いやいやいやいや。

何言ってんの、この馬鹿面。


 アンナが婚約者って、今、本人が言ってたでしょ!

チェンジしたの!

チェンジ!!


 喉まで出かかった叫びを、必死で飲み込む。


「……ケイゴ様」


私は一歩前に出た。


「お気遣い、ありがとうございます。

ですが少し……レン様とお話をして参りますわ」


 そう言うと、またしても強引に腕を引かれる。


 アンナを完全に置き去りにしたまま、私はその場から連れ出された。


……怒りで理性を失った人間の背中。


嫌な予感しかしない。


そして――

壁に、追い詰められる。


「……なぁ」


 レンが、真剣な目で私を見つめる。


「お前は、俺が好きだったんだろう?」


……は?


「やせ我慢するな。

俺が好きだったよな?」


距離が近い。


「……それとも、ケイゴに気持ちが移ったのか?」


……これ、嫉妬じゃない?


 清楚バージョン、そんなに効いてるの?


(……まあ、確かに。

今の私、アンナより綺麗だけど)


「……私は」


静かに、言い切る。


「誰も好きじゃありません」


レンの目が揺れた。


「そして――

貴方を、もう好きになることはありませんわ」


次の瞬間。


唇を、塞がれた。


――理解するより先に。


 今まで、指一本触れようともしなかった人が。

私を見ようともしなかった人が……


……どうして。


涙が、溢れた。


 嬉しかった?違う…


 これは――

私の中にいた“ジュリアン”が、泣いてる。


 ハッとしたように、レンが離れる。


「……す、すまない。俺は……何を……」


もう、無理。


私はその場から走り出した。


 背後で、名前を呼ばれても、振り返らなかった。


……怒りで奪われた口付けなんて、トラウマ以外の何ものでもない。


どれくらい歩いたか、分からない。


涙で視界が滲む中――


「……ジュリアン」


聞き慣れた声。


 顔を上げると、ケイゴが立っていた。


 私の顔を見た瞬間、何も言わずに、そっと抱き寄せられる。


……ずるい。


優しく頭を撫でる、その手。


 今は、その優しさに――

胸が、きゅっと締めつけられてしまう。


 私は、ケイゴの腕の中で、

声を殺して泣いた。


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