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推薦されない


支部ギルドの面接室は、思ったより狭かった。


机が一つ。

椅子が三つ。

壁に貼られた規定文書。


威圧するための部屋ではない。

だが、居心地は良くない。


リナは、入口近くに立っていた。

座るようには言われていない。


申請書は、すでに机の上に置かれている。

あの厚めの紙だ。


書いた文字は、もう消せない。


「……では」

面接官の一人が、口を開いた。


「上位職申請について、確認します」


声は事務的。

感情は乗っていない。


「希望上位職は――」

紙をめくる音。


「メイス盾」


その瞬間、

部屋の空気が、ほんの少しだけ変わった。


誰も驚かない。

だが、誰も肯定しない。


「理由を」


短い言葉だった。


リナは、息を吸った。


「後ろでは、間に合わないからです」


一拍。


「……具体的には?」


「前が崩れたとき、

 回復を投げる距離では、

 人は倒れます」


「だから?」


「間に合う場所に立ちます」


説明は、それだけだった。


面接官の一人が、視線を落とす。


「あなたは、ケアラーです」


事実の確認。


「はい」


「盾職ではありません」


「はい」


「前に出る訓練も、

 正式には受けていない」


「はい」


一つ一つ、

逃げ場を塞ぐような確認。


「危険だと思いませんか」


リナは、すぐには答えなかった。


危険だ。

それは、事実だ。


だが――


「危険です」


そう言った。


面接官が、少しだけ眉を動かす。


「それでも?」


「倒れるよりは」


声は低かった。

だが、揺れなかった。


「……あなたの行動は、

 再現性に乏しい」


別の面接官が言う。


「特定の個人能力に依存している」


「他者に推奨できない」


「ギルドは、

 “真似できない成功”を、

 成功とは扱わない」


その言葉は、

リナにとって新しいものではなかった。


何度も、

違う言い方で聞いてきた言葉だ。


「……以上を踏まえ」


書記役が、淡々と読み上げる。


「現時点での推薦は、

 見送ります」


否定ではない。


拒絶でもない。


ただ、

進ませないという判断。


「申請は却下ではありません」


「だが、推薦は出せない」


「以上です」


それで、終わりだった。


誰も怒らなかった。

誰も責めなかった。


だからこそ、

その場に残るものが、

はっきりしていた。


――ここでは、認められない。


廊下に出る。


歩幅が、少しだけ乱れた。


息を整えようとして、

胸に手を当てる。


鼓動は、早い。

だが、乱れてはいない。


泣きそうには、ならなかった。


それが、少しだけ意外だった。


訓練士が、廊下の奥に立っていた。


目が合う。


「……駄目だったか」


リナは、頷いた。


「当然だな」


その言葉に、

慰めは含まれていない。


だが、突き放してもいない。


「制度は、そうできてる」


「前に立つ支援職は、

 失敗したときの責任が重すぎる」


「だから、

 最初から通さない」


リナは、黙って聞いた。


「……でも」


訓練士は、声を落とす。


「生き残ってるのは、事実だ」


その言葉に、

リナの指先が、わずかに動いた。


「非公式の実地試験なら、

 用意できる」


リナは、顔を上げる。


「推薦じゃない」


「だから、記録も最小限」


「失敗しても、

 誰も責任は取らない」


それは、

条件ではなく、

覚悟の確認だった。


リナは、少しだけ考えた。


怖さは、ある。


だが――


「……はい」


声は、自然に出た。


訓練士は、小さく笑った。


「やっぱりな」


「……魔王城の盾に、

 似てる」


リナは、その言葉を聞き返さなかった。


ただ、胸の奥で、

何かが、静かに動いた。


夜。

宿の部屋。


リナは、壁に立てかけた盾を見た。


まだ、何も変わっていない。


だが、

制度から拒まれた今、

選べる道は一つしかなかった。


前に立つか。

立たずに、

誰かが倒れるのを見るか。


リナは、盾に手を伸ばす。


触れた瞬間、

冷たさが、掌に残った。


「……大丈夫」


誰に向けた言葉でもない。


推薦は、されなかった。


だが、

生き残るための道は、

まだ閉じていない。


それだけで、

今は十分だった。

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