断罪イベント365-第16回 断罪イベントにコンサルが入った日
断罪イベントで365編の短編が書けるか、実験中。
婚約破棄・ざまぁの王道テンプレから始まり、
断罪の先にどこまで広げられるか挑戦しています。
「――本日この場をもって、
婚約者リリス・ハーヴェイを断罪する!」
いつものように高らかに宣言する王子の横で、
一人の男が静かに手を上げた。
「殿下、失礼いたします。少々、演出の調整を」
会場がざわつく。
壇上に現れたのは、銀縁メガネに黒のスーツ
髪を七三分けにした男。
手に資料の入った革のフォルダを携え、きっちり90度の礼をする。
「はじめまして。断罪イベント・運営改善担当
コンサルタント、ラトゥールと申します」
観衆(……誰!?)
観衆(ついに断罪にも外部のプロが!?)
王子が戸惑いながらも頷くと、
ラトゥールはすかさずスライドを展開。
いつの間にか壇上には、
魔道具式のホログラム映写機まで設置されていた。
「こちらが前回の断罪イベントの評価チャートです」
――<観衆満足度:48%>
――<共感指数:39>
――<感情誘導率:22.5>
「浮気理論回(第15回)での“文学と愛情の関係性”について、
非常にわかりづらいという意見が多く、
特にZ世代観衆へのリーチが弱かった点が課題です」
王子「Z世代って、なんだ」
「殿下、今後の断罪は“エモ重視・対話型”が鍵となります。
ですので今回は――こちらの“愛憎2.0”モデルをご提案します」
ホログラムに映し出されたのは謎のチャート図。
横軸に「涙量」、縦軸に「裏切り率」。
その中央に、なぜかハートのマーク。
観衆(……意味がわからん)
観衆(なにこの断罪理論のDX化)
ラトゥールは続けた。
「断罪の冒頭では“感情の伏線”を張り、
中盤では“対立構造”を可視化、
終盤で“感情カタルシス”を最大値で放出することで――」
「もういいッ!」
静かに、しかし鋭く王妃が立ち上がった。
「なぜ“断罪”に、感情曲線などという
得体の知れない線引きをするのです?」
ラトゥール「わ、王妃陛下、これはあくまで視覚的に――」
「わたくしは、“誠実な人間の痛み”に、
グラフなど要らぬと思っております」
観衆、拍手喝采である!
観衆「さすが王妃!」
観衆「グラフより重みのある言葉!」
その間にも王子は困惑しきっていた。
「で、では……断罪は……」
婚約者リリスが一歩前に出て、静かに告げた。
「殿下。私の感情は、
貴方のスライドのどの位置にあるのでしょうか?」
「えっ……?」
「“真実”という点が抜けていますよ。
わたくしは、愛していました。愚かでなければ、最後まで」
観衆
観衆
ラトゥール、ファイルを閉じる。
「……勉強になりました」
この日をもって、コンサルタントはプロジェクトを離れた。
後日、断罪イベントの反省会で彼はこう語ったという。
「今後の課題は、どうやったら真実をグラフにできるか。
その点を考えていきたいと思います。」←まだやろうとしてる。
断罪イベントコンサル登場!
「断罪にはグラフより真実を」の名言が一時ブームに
しかし、王妃の名言には勝てなかった。
読んで頂き、ありがとうございますm(_ _)m