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7.崖崩れ

辺境に来て1週間。ここでの生活にもだいぶ慣れた。でも、セシリオからの連絡はまだ無い。

なぜ?もうすぐ結婚式だから?でも、連絡ひとつ取れないなんておかしい。

本当は戻って確認したい。でも、正式に任命書が発行されているから戻ることも出来ない。

バレリアノでの1年間の実地研修と研究。双方の国の医療発展の為にこの地で研鑽を積むようにという一文まである。このまま戻れば職務放棄と取られる危険がある。

あの時の判断が間違ってた?でも、私は医療魔法士なのだ。1年もの間、仕事をしないなんてありえない。

それに私をセシリオから遠ざけたい理由は何?

考えられるのは──



「ルシア!やばい、崖崩れだ!巻き込まれた人間がいる!行けるか?」

「はい!行けます!人数は!?」

「馬車が巻き込まれた。少なくてふたり、多くて5人、かな」

「分かったわ、急いで準備する!」


雨なんて降ってないのに崖崩れ?


「リカルド様に警戒するよう連絡よろしく!」

「わかった、道が狭くなってる。馬で行くぞ」


急いで現場まで向かう。すでに土魔法が使える警備隊員達が救助に動いていた。


「二次被害に気をつけろ!あと、周囲の警戒も怠るな!」


やはり、皆怪しんでいる。


暫くして馬車が掘り出された。御者は……だめ、もう亡くなっている。首の骨が折れてる。蘇生不可能。


「車内に生体反応が……2名よ。

開けるわよ、3、2、1!」


女性と子供?親子……似てないわ。

女性は──吐血?でも、目立った外傷は無し。

子供は12歳くらいかな。こちらも外傷無し。

こんな事故なのに……どれだけ強力な守護術が掛かっていたのかしら。でも、御者は死亡、ね。


「女性は吐血しています。そっと運んで、気道確保。どちらも外傷無しよ。

エンリケ卿、拘束術の許可を」

「怪しいか?」

「黒よりのグレーかな」

「頼む」

「ありがとうございます。では視覚遮断、四肢感覚遮断を行います」

「え!?」

「え?」


あれ?拘束していいか聞いたわよね?


「いや、ルシアがリカルド様並に容赦なくてちょっと驚いた」


え?だってすぐにも亡くなりそうな重病患者を利用してるのよ?挙句に子供?12歳くらいなんて私より筋肉あるじゃない。暗殺者の可能性大です。


よし、終了!


「拘束完了しました。口腔内毒物チェックも完了。魔力は無さそうですが、念の為魔法無効の枷もお願いします。

女性は応急処置はしましたが、これ以上の治療はここでは難しいです。治療費が払えず放置していた可能性が高いですね。ここまで病状が進行していると……回復は難しいです」


魔法は万能ではない。すべてを治せるわけではないのだ。


馬車や持ち物からは身元の分かるものなどは見つかってないみたいね。もし、本当にグラセスの手の者だったら……

このまま戦が始まるの?王太子殿下と王女殿下の婚礼まであと3日。今日の動きは関係があるのかどうか。

でも、私にできるのは治療だけ。戻り次第出来るだけの準備をしなくちゃ。


セシリオ……やっぱり少し怖いね。









「ルシア、少し話せるか」

「はい、リカルド様。何かありましたか?」


あれ、リコの散歩中?リカルト様が抱っこしてるとリコがすごく小さく見える。部屋まで来るなんて珍しい。


「まずはお疲れ様。エンリケが褒めてたよ。冷静に対処出来てるし的確な判断だって。でも、あなたが拘束魔法が使えるとは驚いたよ」

「拘束魔法は治療に役立ちますから。痛みに暴れる方とか、注射を見た途端大騒ぎして治療の妨害をする方とか色々いますからね」


痛みは仕方がないとして、注射ごときであそこまで騒ぐ意味が分からない。騎士ならば、剣で切られる方がよっぽど痛いし怖いだろうに。


「……まさか注射嫌いに使うとは」

「視界を少しぼやかしたりするくらいですよ?注射器を見なければ怖くないのに、そういう人に限ってしっかり見て大騒ぎするんです。不思議ですよね」


「ああ、でも分かる気がするな。自分の体に何をされるのか、確認しないと怖いだろう?」

「なるほど?」


そういうものなのかしら。


「しまった。話が逸れたな。先程事故にあった少年が目を覚ました。まさかあそこまで拘束されるとは思っていなかったのだろう。動揺していたよ。お陰様で黒だと分かった。感謝する」


そうよね。目が覚めたのに見えない。手足の感覚が無いって怖いと思う。やったのは私だけど。


「どこの者か分かったのですか?」

「いや、それはまだだ。あの拘束魔法はどれくらい持つんだ?」

「そうですね、通常でしたら2日くらいです。ただ彼がそういったモノに耐性を付けているかどうかで変わりますので、必要であれば毎日掛け直したほうがいいかもしれません。慣れさせないように種類を変えていくことも可能です」

「……あなたは拷問担当官か?いや、兵士より医者の方が怖いと初めて学んだよ」


まあ、失礼な。でも、医者は人体について詳しく学んでいるのだもの。使い方によっては案外強いんですよ。


「我が家は生体魔法が代々得意なんです。ですから資料が色々保管されていまして。子供の頃から楽しくて読みふけっていました」

「拘束魔法を読みふける子供……怖いな」

「違います。治癒魔法を読んでいてたま~に変な物も混ざっていただけです!」


きちんとした資料ではなく、手記だったりすると、雑多に書き散らしてあったりして面白いのだ。


「悪い、冗談だ。では、また明日頼むかもしれない。その時は事前に連絡させるよ。

今日は怖い思いをさせて悪かったな。よければリコと寝るといい。落ち着くぞ。じゃあな」

「……ありがとうございます?」


私が怖がってると思って、わざわざリコを連れてきてくれたの?なにそれ。

う~~、リコがあったかい。癒される。くそう、怖がってるのがバレてたなんて恥ずかしい。


「リコ。今日は私と一緒に寝てくれる?」


でも、ありがとうございます。おかげでちゃんと眠れそうだわ。






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