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6.辺境にて

───しまった、寝過ぎたわ。


窓の外を見るともうだいぶ日が高い。

昨日は美味しい食事に気持ちのいいお風呂、ふかふかのベッドを与えられ、幸せいっぱいで休んでしまった。


働きもせず、何様なのよ~!


急いで着替えて部屋を出る。と、


「おねえさんだあれ?」


まだ5歳くらいの男の子がいる。栗色の髪に金眼。辺境伯閣下は結婚されていたの?


「こんにちは。私はルシアというの。あなたのお名前を聞いてもいいかな?」

「ぼくらふぁなの」

「ラファ?ん~、ラファエルかな?」

「そう!えっとね、るーちゃんあそぼ?なにする?おさんぽ?」

「まあ!私と遊んでくれるの?嬉しいわ。でもまだ閣下にご挨拶をしていないの」

「かっか?りぃのこと?」


リィ?誰?しまったわ。閣下の名前を知らないのよね。


「髪が真っ黒で眼がラファと同じ金色。体の大きな方よ。合ってるかな」

「りぃだ!こっちよこっち!」


あら、愛称で呼ぶということは親子ではないのね。よかった。奥様に挨拶もせずに泊めていただいてたら大変なことになるところだった。


「ラファ、走ると転んじゃうわよ!」


元気いっぱいのラファに案内してもらい歩いていると、前からちょうど閣下がやってきた。


「りぃ、るーちゃんおはよーって!」

「ラファはもうルシア嬢と仲良くなったのか?」

「うん!なかよし!」


く~!可愛いっ!悶えたいのを耐えて挨拶をする。


「おはようございます、閣下。この様に遅くまで休んでしまい申し訳ありません」

「いや、長旅で疲れただろう。今日1日のんびりするといい。食事は食べられそうか?」

「ありがとうございます。ですが、何もせずお世話になり申し訳ありません。もしよろしければ今日からでも働けますが」


ぐっすり寝たおかげでずいぶん回復した。これなら通常業務くらいは可能だ。


「ルシア嬢は働き者だな。だがほら」

「え?」


彼の視線を追うとラファがしょんぼりしている。


「るーちゃんおしごと?」


うるうるの目で聞いてくる。これは!絶対に逆らえないやつ!


「すまない、できれば今日はラファと遊んでやってくれ。ラファエルは兄の子なんだ。ここは他に子供がいないからな」


いや、私は大人ですよ?


「ラファ、ルシア嬢はまだ食事をしていないんだ。彼女が食べている間にリコの散歩を頼んでもいいかな」

「わかった!」

「ラウル、こちらはいいからラファを頼む」

「かしこまりました。ではぼっちゃま行きましょう」

「るーちゃん、まってるね、おそときてね!」


可愛いなぁ。ところでリコって?


「リコとは犬の名前だ。犬は怖くないか?まあまだ仔犬だけど」

「平気ですよ。というか好きですね」


なんて素敵な職場だろう。可愛い子供に可愛い犬までいるなんて!カハールに感謝する日が来るとは思わなかった。


「ラファがいるとあまり話ができないので、食べながら聞いてもらってもいいかい?

まず、ルシア嬢──ああ申し訳ない。勝手に名前で呼んで。ラファがるーちゃんと呼んでいたのでつい」


閣下の口からるーちゃん!なんだか恥ずかしいわ。


「いえ、どうぞ呼び捨てでいいですよ。ウルタードの治癒院では皆そんな感じでしたから」

「そうか?では私の事もリカルドでもリィでも好きに呼んでくれていい」

「ではリカルド様と呼ばせていただきます」


辺境伯は思ったよりも気さくな方だわ。


「ああ。ではルシア。あなたには明日から警備隊の医局に勤務してもらう。女性用の寮はないので、今の部屋をそのまま使ってくれ。ただ現在はそこまで患者数は多くないんだ。だから、暇な時はラファの相手をしてくれると助かるのだがどうだろう」

「私は構いません。ですが私でいいのですか?」

「ラファは先程も言ったが兄夫婦の子だ。兄達は1年前に流行り病で亡くなってね。今は私が辺境伯を名乗ってはいるが中継ぎなんだ。あの子が大きくなったら爵位を返す予定だから。

だけど、阿呆が多くてね。あの子を利用しようとする者がいるんだよ。だから今は信用の置けるものだけに絞っているから少々人手不足なんだ。

グラセスの問題もあるのにいい迷惑だよ」


まだあんなにも幼いのに、ご両親を亡くされているのね。


「私を信用していいのですか?」

「協会事務官をぶん殴るスパイはまずいないだろう。彼、もう少しで男性として再起不能になるところだったようだ。ギリギリの力加減が素晴らしい」


やだ、もうバレてる。


「もしかして伝達鳥ですか?」

「ああ、あなたが無事に着いたことは連絡済だから安心してくれ。もし、あなた宛に連絡がきたらまた伝えよう」

「ありがとうございます!」


昨日、御者に手紙を託したのを見られたからよね。そこまで気遣っていただけてありがたいけれど少し恥ずかしい。


「差し支えなければ相手の方の名前を聞いても?」

「あ、はい。セシリオ・クルス。王女殿下の専属護衛騎士です。こちらに来ることを伝えられなかったので」

「恋人か?だがなぜ伝えられなかったのだ?」

「何故でしょう。なんだか私を追い出したかったみたいです。仕事をする女性ってそんなに(うと)まれるのでしょうか」


そう。謎なのよ。早く追い出したいみたいなのに、仕事を諦めて彼の同伴者になるのはよかったのよね?まったく意味が分からないわ。


「いや、確かに医療魔法士に女性はいないが……

また何かあったらすぐに知らせよう」

「ありがとうございます」


本当にいい上司でよかったわ。


セシリオも頑張ってる?私はなんとかなりそうだよ。

でもやっぱり寂しいね。会いたいよ。








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こっちはしごでき上司でよかった
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