表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/88

4.人生の選択

「まさか初日からあのような問題を起こすとは思いませんでした。協会での研修は先方から断られましたよ」


あら、ちょっとやり過ぎたかしら。

あれからまた王宮に送り返され、また嫌味な男に文句を言われています。


「あなたの今後の選択肢は3つです。

1つ、ウルタード国に戻る。

2つ、クルス卿の同伴者として暮らす。

3つ、辺境伯の元で医療魔法士として働く。

以上です。さあ、どうなさいますか?」


すごい三択が来たわ。でも、過剰防衛で処罰されなかったことを喜ぶべきか。


「クルス卿と話をさせて下さい」

「彼の同伴者になるのですか?」

「話がしたいと言っているのです」

「今、王宮は婚礼の準備に追われています。このような些事で警備体制を崩すわけにはいきません」


本当に腹が立つわ。どうしてこの男に決定権があるのよ。私はエルディア人ではないのに!

どうせ文句を言っても、初めにこちらの規定に従うと約束しましたよね?とか嫌味っぽく言うのよ。こんな扱いだと分かっていたら署名なんてしなかったわ。


「では質問します。なぜ医療魔法士として働くのが辺境になるのですか?」

「かの地は今グラセスとの問題で医療魔法士を必要としています。男女問わず受け入れているのは我が国ではバレリアノだけですよ」


……グラセスは本当に攻めてくるの?

戦地になるかもしれない場所。でも、もし戦になれば医療魔法士は絶対に必要だわ。


「何人くらい人員を送る予定なのですか?」

「今は婚礼を控えております。それらの決定は無事挙式が終わってからになるでしょう」


そんな!そんなものを相手が待つわけがない。エルディアはウルタードとの婚姻で力を示したいのかもしれないけど、どうなるかは分からないわ。

どうしよう。どうしたらいい?セシリオに会いたい。

でも……これからも困るたびに彼を頼るの?私の人生を、彼に決めてもらうの?


「分かりました。バレリアノで働きます。馬車をお借りすることはできますか?」


あ、驚いてる。よし、この情けない顔を見たら少し気分が落ち着いたわ。


「……そうですか。では、任命書と馬車の準備をしておきます。1時間後には出発できるように致しましょう。バレリアノには伝達鳥を飛ばしておきます。ご安心を」


前言撤回!1時間って!絶対に私をセシリオに会わせないつもりね。なんなのこの男は。セシリオのファンなの!?


「ごめんなさい、今頃ですがお名前をお聞きしても?」

「…カハールと申します」

「そう、カハール。ずいぶんお疲れのようね」

「いえ、そのようなことは」

「まあ、隠さなくても大丈夫よ。だってほら、髪の毛が抜けてるわ」


彼の肩をポンッと払ってニッコリ。


「ストレスはダメよ?あ、また抜けたわ」

「あ、あなたまさか!」


何も答えずクスッと微笑む。


「お大事にね」


ふん、何もしてないわよ。でも不安でしょう?しばらくは枕に付いた抜け毛の本数でも数えていればいいわ。





「ボロッ」


カハールめ。馬車のランクを下げたわね。髪への魔法は掛けていないのに!

でもこれくらいの方が襲われなくてすむかも。

仕方なく回復魔法を掛けていく。

辺境ではくだらない差別などありませんように。そう祈りながら。






「着いた……」


体はもうボロボロだ。ウルタードからエルディアまで移動し、到着した日の夕方には辺境に旅立ったのだ。一体何日馬車に揺られたの……

いくら治癒魔法を掛けても疲労が続けば限界を迎える。

もう1日たりとも馬車には乗りたくない。よろよろと馬車から降りようとすると、スッと手を出された。

誰?そう思いつつも疲労感が勝り、思わずその手に掴まる。


「ありがとうございます。助かりました」

「いや、医療魔法士と聞いていたが、あなたの方が治療が必要なのでは?」


だったら同じくらい馬車に揺られ続けてみなさいよ。ちょっとカチンときて声の主を見る。

あら、ずいぶん男前。立派な体躯に精悍な顔立ち。黒髪に金眼。もしかして──


「バレリアノ辺境伯閣下でしょうか」

「ああ、バレリアノにようこそ」


爽やかな笑顔が疲れた目には少し眩しい。


「わざわざお出迎え下さり感謝申し上げます。私はウルタード国、医療魔法士のルシア・オルティスと申します」

「本当にウルタードから来たのか。それは疲れただろう。からかって悪かったな。だがなぜあなたがここに?」


なんだ。嫌味な男ではないみたい。


「エルディアでは女性の医療魔法士はいないそうですね。こちら以外では働く場がないと言われました」

「協会には?あちらならば受け入れてくれたのでは?」

「……少々手違いにより揉めてしまいまして。お断りされました」


そっと目をそらす。私は悪くないもん。


「分かりました。その楽しそうな話は後で聞くとしよう。食事と入浴と睡眠。どれがいい?」


「お言葉に甘えて全部お願いします」


嬉しすぎる。辺境伯が優しい人でよかった!

あ、そうだ。


「あの!また王宮に戻りますよね。この手紙をウルタードの人に渡してほしいのですがお願いできますか?」


慌てて馬車の御者に声をかけた。本当はセシリオに渡して欲しいがきっと無理だろう。誰でもいい。ウルタード国の人に渡してくれたらきっとセシリオに伝えてくれるはず。


セシリオごめんね、こんなことになって。


あなたは今どうしているだろう。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ