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私はあなたの何番目ですか?  作者: ましろ


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39.優しい抱擁

すべてを話す。そう言った王妃様は一冊の本を持って来た。厚みのある少し古びたそれは、手書きの魔法書だった。


「これは王妃様が書かれたものですか?」

「ええ、忘れてしまわないように書き記したものよ。私はあの人に───」


王妃様は途中から口を開いても言葉が出なくなってしまった。何度か繰り返してからそっと口を閉じ、薄く微笑む。


「縛りの魔法をかけられているのですね」


王妃が長年沈黙を守った理由はこれか!


「ルシア、この魔法を解くことは?」

「申し訳ありません。これは生体魔法ではありません。ガランさんに任せるしかないですね」


特定の言葉を封じているのか、いえ、あの国王のことだもの。もっと複雑なものかもしれない。


「そうか。母上、この部屋から出る事は可能ですか?」

「たぶん大丈夫よ。今までは警備が厳重で出る事は叶わなかったけれど、あなた達がここまで来れたということは、今は警備が手薄になっているのでしょう。

少し待っていて。動きやすい服に着替えます」


そこからの王妃様の行動は早かった。いつかこんな日が来ることを期待して準備していたのだろう。王妃のものとは思えない質素な服に着替え、髪も一つに束ねるだけ。手にした鞄にはいくつかの魔石が入れられていた。


「それは?」

「私がこの20年間魔力を注ぎ続けた魔石よ。魔力が少なくても対抗できるようにね」


やはり、ただ閉じ込められていただけじゃない。この()()()の為に20年もの間準備をしてきたのね。

たった一人、誰にも相談もできず。どれだけ孤独で辛い戦いだったのだろう。


「王妃様、先程の発言をお詫び致します。

あなたはただ閉じ込められていたのではなく、ここで戦い続けてきたのですね」

「そう言ってくれてありがとう。でもあなたの発言は間違っていないわ。だって私はまだ何も出来ていないのだから。

ただ一つだけお願いをしてもいいかしら。

私はもう王妃でいたくはないの。だから名前で呼んでくれると嬉しいわ。あの人の妻では無く王妃でも無く、ただのオフェリアになりたい」


その言葉がこの20年間の全てなのだろう。


「……分かりました。オフェリア様と呼ばせていただきますね」


そう言うと、少しホッとされ、今までで一番嬉しそうな顔をされた。


「私も母上ではなくオフェリア様とお呼びしたほうがいいですか?」


その発言に驚いて振り向くと、アルフォンソ様が特に傷付いているわけでもなく、ただ淡々と確認しているのだというように質問していた。


「あの、違うのよ。私は……」


オフェリア様は蒼白になり、自分の失言に気付いた様だ。

ただのオフェリアに──それは母であることも拒絶しているのだとアルフォンソ様は感じてしまったのだろう。

ここに来る前に言っていた通り、彼は本当に期待していないのだ。オフェリア様に息子として愛されることを。


「アルフォンソ様、決めつけたら駄目ですよ!見てください、オフェリア様が泣きそうです。

決め付けずにちゃんと聞いてあげてください。

オフェリア様はアルフォンソ様が大切ですか?」


そう質問すると、なぜかアルフォンソ様が辛そうな表情になる。愛されていないと思っていても、本人の口からは聞きたくないのだろう。

でも違うはず。だって、この部屋に来てからオフェリア様からは好意しか感じなかったわ。

私が彼の友人だと言ったときの嬉しそうな顔を見たでしょう?憎い子供ならその友人が来て嬉しいわけないもの。


「……大切に決まっているわ。あなたがいるからこの20年もの間、頑張って生きてきたのよ。せめて、あなただけは救いたくて、そのためだけに生きてきたの!

こんな愚かな女が母親だなんて申し訳ないとは思うけれど、あなたは私のたった一つの宝物よ。

ずっとずっと、声すらも掛けられなかったけれど。……愛しているわ、アルフォンソ」


たとえ触れ合うことはできなくても愛は確かにあるのよ。


「……本当に?」

「あの人を愛したことを死ぬ程後悔したわ。でも、そんな愚かな私がいなければ、あなたを授かることは出来なかった。

あの男のことは殺したいほど憎いけど、あなたの為ならあの糞男に感謝してしまうくらい、あなたがいてくれることが私の唯一の喜びよ。


──アルフォンソ、抱きしめてもいい?」



今、糞って言いましたか!?ツッコミたいけどここは我慢よ。


「アルフォンソ様、いいですよね?」


固まって動けなくなっているアルフォンソ様の背中をそっと押す。思わず一歩踏み出した彼をオフェリア様が優しく抱きしめた。


「いままで何もできなくてごめんなさい。それでも本当に愛しているわ。ここまで来てくれてありがとう」

「……ずっと、嫌われていると……」

「あの人に私の感情を見せることができなかったの」

「そう……ですか……」


ぎこちない抱擁が微笑ましい。


「よかったですね、アルフォンソ様。ね?幸せになれるって言ったでしょう?」

「そうだね。本当だ……こんな幸せなことが起きるとは思わなかった。

母上、ありがとうございます。私も……あなたに愛されたいとずっと思っていました。だから今とても嬉しいです」


よかった。本当によかったわね。アルフォンソ様。

まだ何も解決はしていないけれど、とても心強い味方ができた。自分の妻に魔法を掛けるような糞国王からバレリアノを守れるはず。


まずはオフェリア様の魔法を解かないと。


でも、あと少しだけ。

母子の幸せな時間をあと少しだけ見守らせて。







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