24.恋とは
「ねぇ知ってる?噂って人を殺せるのよ」
「は?何言ってんだよ」
「無責任に面白半分で放った言葉がね、人の心を殺すの。だからあなたは殺人者予備軍だわ。じゃあ不敬罪なだけじゃ無くて殺人未遂も追加していいかな」
「そんなわけあるか!」
さて、どうしようかな。
「そういえばエンリケ様、前に話してた魔法成功しましたよ。毛のヤツです」
「お前、誰に掛けたんだ!?まさか王宮で罪を犯して逃げてきたんじゃ……」
「まさか!よくある浮気のお仕置きですよ。
ちゃんと本人の許可を得てから掛けたので問題ありません。
もうね、すっごく綺麗に抜けましたよ。瞬殺です。コツを掴んだので、たぶん、どの部位も問題なく出来ます。
ふふっ、……毛根死滅?」
チラリと兵士の顔を見る。悪いことをしてる自覚があるのね。何も言ってないのに怯えてる。
「……あ、ま、まさか俺の毛を抜くのか!?」
「大丈夫です。私の魔法は痛くないですよ?綺麗にパサッと落ちる感じです」
「……お前が道中、仕込み歯を痛み止め無しで引っこ抜いたと聞いたが?」
あら、もうバレたのですか。
「命を粗末にするのって良くないですよね」
「俺は金をもらっただけだ!」
あ、すごく簡単だった。弱いわ〜。
エンリケ様と目が合う。あとはお任せですね。
「ルシア、リカルド様に言うからな!!」
くそう、怒られた。
「お疲れ様、ルシア。今日も大立ち回りしたらしいね?
エンリケ殿がリカルドに詰め寄ってたよ。『今回は私怨が含まれてるからちゃんと叱ってください!』だってさ」
「……アルフォンソ様は情報が早いですね」
それにしても私怨だなんて酷いわ。
「よっぽど怒ってたんだろうね?捲し立てた後に私に気付いて、可哀想なくらい真っ青になってたよ。
彼、君を心配してるんだ。あまり無茶はしないようにね」
「……女だからですか?」
今まではそんなに気にならなかったのに、今日はどうしても腹が立つ。女だからってなぜ駄目なの。
「君が女性なのは変えれないよ。そして、男女が完璧に平等になることもない。だってまったく違う構造だからね。
君も分かってるだろう?上下ではない。区別は必要になる。
君はなぜそんなに頑なになってるんだ?」
「……違いがあることは理解してます。でも、見下されるのは腹が立ちます」
女でもちゃんと出来るのに。
「そうだね。下に見られて喜ぶものはいないな。
でもエンリケは見下したか?君が傷付かない様に守ろうとしただけだ。
君は私の愛妾だと言いふらされたいのか?こういう話題は女性が不利なのは仕方がない。
男は遊んでも身体的に傷は付かないが、女性はどうしても傷が付く。そんな傷物だと噂を流させたくなかったエンリケは君を馬鹿にしたことになるのかい?」
……私は馬鹿だ。エンリケ様の優しさを、女だから手を出すなと言われた気がしてムキになってしまった。
「……エンリケ様に謝罪しなくてはいけませんね」
「お礼の方がいいんじゃない?」
「……そうですね、そうします」
やっぱりアルフォンソ様は穏やかな方よね。偉ぶらないし。あの噂は何なのだろう。エンリケ様は昔からって言ってた。まさかリカルド様と友達になって変わった──なんてことはさすがに無いか。
「ずいぶん熱い視線だね。確かに恋で受けた傷は新しい恋で治すといいけど。残念ながら私は妻帯者なんだ」
「は!?ちょっ、恋ってなんですか!」
「違うの?そのやたらと女性が下だと気にするのは、眉無しの彼に何か言われたんだと思ったけど。違うならごめん」
それかっ!なんでこんなに腹が立つのかと思ったらセシリオのせいね!?
……そうよ、あいつが私の方が立場が上とか下とか順番がとかぐちゃぐちゃ言うから!
無意識に私までそんなこと気にしてたの?
く~~っ、格好悪い……
エンリケ様本当にごめんなさい。
「……ご指摘ありがとうございます。無意識ですが、彼に言われたことを気にしていた様です。お恥ずかしい限りですわ」
「気付けてよかったね。じゃあ、このまま新しい恋にも気付いたらどうかな?」
新しい恋……とは?まさかご自分のことではないわよね。愛妾なんてありえないし。
「まさか、ラファのプロポーズを本気でお勧めしていらっしゃるのですか?」
「そっちかあ。鈍いのか……いや、防衛本能かな。眉毛くんが後を引いてるなあ」
私は鈍くないわよ。でも、確かにセシリオのことがあったばかりで新しい恋なんて考えられないわね。
「とりあえず今はエンリケ様に謝って、あとは仕事を頑張ります!恋はまあ……まだいいです」
考える余裕ができたら、でいいかな。
「そうだね。恋は始めようと意識するものではないからね。案外すぐそばにあるのかもしれないし」
アルフォンソ様は暇なのね。人の恋の話が聞きたいなんて。まぁ殿下は恋なんてできないから仕方がないのかしら。
クラウディア様は今どうしてるんだろう。