23.噂話
朝からラファの告白に胸を撃ち抜かれて悶えまくったけど、ちゃんと仕事はしないとね。
「ルシア・オルティス戻りました」
「おう、お疲れ様」
「おつかれ~、大変だったな」
やたらと皆が労ってくれる。なぜ?
「何かありましたか?私はグラセス戦の報告にはあまり関わってないですよ」
「いや、王太子殿下とずっと同じ馬車なんて絶対に大変だっただろう」
それか!そうよね確かに。リカルド様やラファが普通に友達として接してたから感覚がおかしくなっていた。
「お前達を出迎えに行ったら王太子殿下が降りてくるんだぞ。驚くに決まってるだろう!」
医局長はわざわざ出迎えに来てくれたのよね。それはさぞ驚いたことでしょう。
だから医局の皆は王太子殿下が来てることを知ってるのか。まあ、殿下の治療などは早めに対応が必要ですものね。使用していい魔法や薬など、細かな規定がある。急に来られると医局の対応も困るのだ。
他の部署も大変だろう。慌てず騒がず大至急!情報を漏らしても駄目だから、王族が突然来ると結構迷惑なのだ。
「でも、気さくな方ですよ?」
「お前の心臓は鋼か」
失礼な。普通の心臓です。
今日は報告書を提出し、空き時間で薬の調合をする。無心で術式を編んでいると、兵士達が治療の為に訪れたらしく、少し騒がしい。
「昨日、王太子殿下が来たらしいぞ」
「え!すごいな!もしかして慰問に?」
ん?どうして……情報が早くない?
「ワガママ悪魔王子だろ?辺境が呪われるぞ。
グラセス戦で援軍が無かっただろ?殿下のせいじゃないかって噂があったんだぞ」
「ああ、あれか。でも、いくらなんでも援軍を無くしたりはしないだろ」
「いや、分からんぞ」
なんだそれ。こんな馬鹿な話をしてるのは誰!?
思わず立ち上がろうとすると、隣で作業をしていたエンリケ様に止められた。
「伝えていなくて悪い。残念ながら、殿下には昔から悪い噂がある。あいつらが言うように、わがままとか呪われてるとかな」
……どういうこと?自国の王子なのに。
「もちろん俺達は信じていないさ。リカルド様が主と認めているお方だ。
でもなあ、一般兵なんかは王族と出会う機会など無いからな。噂を聞けばそういう方かと信じてしまう者もいる。
もちろん許しはしない。リカルド様にはきちんと報告するよ。なんせ不敬罪だ。それなりの処罰が下るだろう。
ただ、女性のお前が口を出すと変な意味に取られかねない。だから、やめておけ。俺達が対応するから」
出た。女だから。この国は本当に女性を下に見てるわね。
女が口を出したら?殿下に惚れてるとかなんとか言うのでしょうね。くだらない。
「エンリケ様、ちょっと残念です。女だからって言われるの嫌いなんですよね。それに気になる事がありますので失礼します」
「え、おい!」
薬剤室を出て騎士達の前に立つ。
「はじめまして。私は医療魔法士ルシア・オルティスと申します。少しよろしいですか?」
「は?女が医療魔法士だと?」
「ウルタード出身なので」
「……何の用だよ」
「あなたを不敬罪で突き出す事ができますが、どうしますか?」
「は!?」
馬鹿ね。そんなことも考えずに喋ってたの?
「王族に向けていい言葉かどうかも分からない?それも、こんな誰が聞いているかも分からない場所で」
「なんだよ。噂通り王太子殿下の愛妾か!
馬車の中でずっといちゃついていたんだろ!」
ああ、やっぱり。
「ねえ、誰に頼まれたの?」
「……何を言って」
「私が殿下と一緒に戻って来たのは昨日の夜よ。馬車は全部で3台。カーテンも引いてたし、暗くて馬車内なんてほとんど見えない。誰が同じ馬車に乗ってたかなんて少し見かけただけでは分からないわ。出迎えてくれたのも本当に限られた人達よ。みんな、あなたのような下級兵士にくだらない噂を流すはずがない人達なの。
それともすごく目が良くて女性が見えた?けどね、旅の同行者で女性は私以外にもいたの。
それなのに、なぜあなたは私を殿下の愛妾だと思ったの?」
それは誰かがそう教えたのでしょう?
ウルタードの医療魔法士が殿下の愛人だって。
「違う!ただ……そう!誰かが話してるのをたまたま聞いたんだよ!」
まだ言うの?裁かれるのが怖くないのかしら。……それとも、裁かれたいのか。
「ああ、もしかして殿下の噂をばら撒くだけじゃなくて、不敬罪で掴まるところまでが頼まれたこと?バレリアノを貶めたかったの?」
この恩知らずめ。バレリアノの兵のくせに!
「あなたの言う殿下の噂なんて知らないわ。
私はウルタード人ですもの。
私が道中に見た殿下は、グラセス戦で援軍を送れなかったことを謝罪し、自分だけでも慰問に行きたいと急いでここまで来て下さった。
道中、賊に襲われた時も、護衛任せでは無くご自分も戦われたわ。
噂なんて参考程度のものでしょ。私は自分が見たものを信じる」
さて、この馬鹿は単なる小物か、意外な大物を引き当てるか。どっちかしら?




