22.格好いい男
しまった、寝過ぎた!
く~っ、前回もだけど今回も寝すぎよ私っ!
慌てて身支度を始めて、ふと気付く。
あれ?昨日はリカルド様と一緒にお酒を飲みながらお話しして……それからどうしたんだっけ?
まったく覚えてない。けど、部屋で寝てたということはちゃんと戻って来れたのよね。
階段とかで寝てなくてよかった。恥ずかしいところだったわ。
なんだか楽しくて飲み過ぎたのよね。次からは気を付けよう。
「おはようございます!すみません、寝坊しました!」
「おはよう。もっと寝てても大丈夫だったのに。アルもラファもまだ休んでるぞ。頭痛とかはないか?」
食堂ではリカルド様が一人でのんびりとコーヒーを飲んでいた。
みんな今日はゆっくりなのね。
「はい、大丈夫です。二日酔いにはなったことがないんですよ。
あの、私、昨日失礼な事をしませんでしたか?気が付いたら朝だったんですよね。久々に飲み過ぎちゃいました」
「……覚えてない……いや、よかったのか?」
「え!?何かしましたか!?」
なに?酔ってウザ絡みしたとか?
「大丈夫。昨日はバレリアノに残りたいって言ってくれただけだ。気持ちに変わりはないか?」
「はい、その辺りまではなんとなく覚えてます。でも、本当にいいんですか?私が残っても」
「もちろんだ。ラファも喜ぶ」
よかった。あれは酒の席での冗談だと言われたら、ちょっと泣くところだったわ。こっちに住むこと、とりあえず手紙を出そうかな。
「家に手紙を送りたいのですが」
「ああ、書いたらラウルに渡せばいい。だが、ご両親は大丈夫か?いきなり他国に住みたいだなんて」
「どうですかね?失恋したって言えば許してくれそうな気も……でも、頭ごなしに叱る人達ではないですから。ちゃんと話し合いをしに一度は戻ります」
「そうだな、そうした方がいい」
やっぱり優しいよね。あ、バレリアノに住むってことは、さすがに家を見つけなきゃだわ。いつまでもここに住むわけにもいかないもの。
「あの、家を借りるにはどうしたらいいですか?実はひとり暮らしは初めてで。
手続きとか分からないので、教えていただけるとありがたいです」
「え!?」
「え?」
駄目だったかな?優しいからって甘えてばかりいたら困るかぁ。失敗した。
「すみません、やっぱり大丈夫です」
「いや、まったく大丈夫じゃない。なぜ家を探すんだ?ずっとここに住めばいいじゃないか」
さすがに、ずっとはちょっと。リカルド様だっていつかは結婚するだろうし。
あ、まさかラファが大きくなるまで結婚しないつもりなのかな。そういえば婚約者とかもいないらしいし。
「ルシア、俺に猶予をくれ。あの、これからもっと頑張るから」
「はい?」
頑張る?何を?そんな真剣な目で見つめられても分かりませんが。
「えっと、頑張ってください?」
「ありがとう」
まったく分からないけど、とりあえず応援したら満足そうだからこれでいい、のかな?
困ったわ。出来る上司の求めるものが言われなくても理解できてこそ、出来る部下なのか。
私もまだまだね。
「よし、私ももっと頑張りますね!」
やる気を出した私に、リカルド様はなんともいえない表情で「……うん、頑張って」と言った。
なぜそんな顔なの。でも、前にも見た気がする?かも?
そんなやり取りをしていると、私の天使ラファが起きてきた。
「ラファ、おはよう」
「るーちゃんおはよ!」
うん、朝からキラキラ笑顔で可愛いなあ。リコを抱っこしている姿は更に可愛いい。
「るーちゃん、あのね?けっこんやめた?ちかい、ないないの?ずっとらふぁといる?」
「こら、ラファ」
「いえ、リカルド様いいですよ。そうだよ、ラファ。結婚しないことになったの。だから誓いもなくなったわ」
まさか、幼児に恋人と別れた報告をすることになるとは思わなかった。くそう、セシリオめ!
「んとね、らふぁちかうよ!るーちゃん、まもる!だからずっとずっといっしょよ?
るーちゃん、だーいすき!」
わ~~、なにこれ!胸にきゅんっときたっ!
こんなにときめいたの初めてかも……
は!でも未来の辺境伯の告白なんて駄目では?
そろりとリカルド様を見ると驚愕で固まってる。ですよね、真剣さが伝わるもの。将来を考えると困るよね。
「おはよ。朝からすごいもの見ちゃったよ。
ラファは勇気があるね。愛の告白ができるなんて驚いたよ。格好いいな」
「ある、おはよー。ねぇね、らふぁかっこいい?すっごい?」
「ああ、すっごい格好いい。ね、ルシア」
「そうね、ドキドキしちゃったわ」
「やった!」
本当にもう。セシリオの100倍は格好いい。いや、比べるなんてラファに失礼だわ!
「アルフォンソ様、おはようございます」
「うん、おはよ。未来の辺境伯夫人。やっぱりバレリアノは平和でいいね」
なんてこと言うの!
リカルド様はまだ固まったままだった。




