20.王家の秘密
「醜態を晒してしまい申し訳ありません」
恥ずかしい。悲劇病に罹患したのか私。
皆の前であんなに泣くなんて!
あの後ラファまでつられて泣き出してしまい大惨事だった。彼は泣き疲れてお昼寝中だ。本当にごめん。
「いや、我慢は良く無い。泣けるなら泣いてしまったほうがスッキリするさ。もう大丈夫か?」
う~~、リカルド様の優しさが染みる!
「はい、ありがとうございます」
「ルシア、もう一度謝罪する。本当に申し訳なかった」
殿下は頭を下げないで〜〜っ!
「いえ、たぶん殿下のおっしゃった通り、いつかは起きたことだと今なら思います。
……共に生きるとは難しいですね」
ただのお付き合いと結婚の差なのかな。
「……先程、なぜ襲撃があることに気付いたか不思議だっただろう?」
そうだ。すっかり忘れていた。殿下はあの時誰より早く襲撃に気が付いていたわ。
「あれは私の能力というのか、まあ勘だよ。
エルディア王家には私の様な危機を察知する能力が高い者が稀に産まれる。かなり大雑把だけどね。
未来予知とは違うから何となく危険?くらいの勘なのだけど。
クラウディアを見た時、絶対に彼女をエルディアに迎えてはいけない、そう感じたんだ」
「!」
「だからなんとか結婚の延期を求めていたんだが認められなくてね。それであんな強引な手を使った。
悪かったと思っているよ。でもあの時、絶対に君を辺境に送らなければとも感じたんだ。何より、王宮から離したかった」
「はい、私も辺境に行けてよかったと思っています」
それだけは殿下の勘は当たっていると思う。
「そうだな、お前のやったことが正しいとは思わんし許せないが、ルシアがいなければグラセスの魔法に気づけず大変な事になっていただろう」
確かに。あれは知っている人があまりにも少ない、今はもう存在しない魔法だから。
「でもクラウディア様の事は国王陛下にはお話になっていないのですか?辺境への応援も無かったですし」
「……王は私がこの力を持って生まれた事が気に入らないのさ。殺したいくらいにね。さっきの奴等もどうせ父上が送った者だろう」
まさか……実の息子をそんなことで殺そうとするの!?
「でも、殿下はたった一人の王子ではないですか!」
「あの人には今がすべてなんだ。自分が王であること。それだけだ。
そして貴族達も甘い汁を吸ってるからね。私を煙たがるものも多い。
王子はいないが王女なら2人程いるし、自分の息子を王配にと狙う貴族も多いよ。腐った国で嫌になる。
リカルドは馬鹿みたいに私の味方をするから損ばかりしているし。……本当に情けない王子だ」
信じられない。国の為に動こうとする王子を殺そうとするなんて。そして、王子の味方だからと援軍を送らなかったというのか。
「素敵な友人がいてよかったですね」
「……そうだな。早く王になってこの国を変えたい。そうして辺境にも恩を返したいが……なかなか危機感が消えない。クラウディアも追い出せていないし」
「え、クラウディア様はまだ問題ですか」
「あんなにただの馬鹿姫なのにな。なぜか嫌な感じが消えない。これ以上初夜を引き延ばせないから逃げてみたが……」
待って待って。その情報はマズイのでは?
「お前、こんな所で言うなよ!……でもまだだったのか?結婚して結構日にちが経っただろう」
「ルシアには悪いがセシリオが役に立っていたんだ。無理強いは出来ないから待つって言ってある」
うわ~、じゃあ悲劇姫は王子にヤラれてないのにシクシク泣いて縋ってたの?
腹立つわ!セシリオもなんで気が付かないのかしら。
「それは周知の事ですか?」
「破瓜の血は提出してない。侍女たちにもクラウディアの気持ちを待つとは伝えてある。セシリオも最後まではしてないだろ?」
「……そう言ってましたが」
いや、私に聞かないでよ。
でもなんだろう。殿下じゃないけど嫌な感じ。
「私も手持ちの札が少なくてな。ずっと殺されないように頑張ってきたが、なんせ味方が少ない。
こんな王子だけど見捨てないでね、ルシア」
「仕方がないですね。一年は味方です」
「残念。雰囲気に流されてずっとお供します!って言ってくれるのを期待したのにな。
でも、1年でもありがたい。辺境では名前で呼んでよ。友達も少ないんだ、私は」
「はいはい、アルフォンソ様」
「ルシア、アルを甘やかさないでいい。ラファの子分くらいの扱いでいいからな」
「はは!了解です、リカルド様」
でも、実の父親に命を狙われるなんてどんな気持ちだったのだろう。
リカルド様がいてよかった。辺境という心休まる場所があってよかった。
そう思うことしか出来なかった。




