13.私の中の一番
カハールは淡々と説明をした。
そこまで話して大丈夫?と聞きたいくらいすべてを話した。髪がそんなに惜しかったのか。
「エルディアの事情は私にはどうでもいいわ。
でもウルタードは?王はセシリオにそこまで望んだの?本当に体を差し出せと?」
「いえ、そのようなことは聞いておりません。それならば一年という期間がおかしいでしょう。
ただ、彼を使った方が楽だと考えた者がいたのではないですか?私はウルタードの事情には関与していませんからそれ以上は分かりません」
……確かに。王女が泣き叫んで式が挙げられなかったりしたら大変だものね。セシリオは上手く利用されたの?
「でも、彼の体に制約魔法を刻んだのはエルディアの魔法士でしょう。ウルタードからそのような者は連れてきていないわ。嘘偽りがあればと言ったはずよ」
「違います!あれはクラウディア様がアルフォンソ様に直接頼まれたのです!私ではありません!」
クラウディア様め。最初からセシリオに手を出すつもりで連れてきたわね。手に入れる為ならなんでもするの?
そんなのにホイホイ捕まるなんて、セシリオの馬鹿阿呆間抜け根性無し!
「悪いけど、早く叩き起こして連れてきて。私は絶対に見たくないわ」
あれ?そういえば、カハールの役職は何?やたらと事情に詳しいし、さっきもクラウディア様のところに簡単に通したわよね。
「ねえ、あなたの仕事って何?」
「は!?お前は私を何だと思っていたんだ!」
「え?事務官とか?知らないわよ、興味無かったもの。偉そうで口うるさいなとだけ思ってたわ」
「……お前はこれからマナー教育を受けろ!よくそれで今までやってこれたな!」
「だって王宮なんかに用はないし。治癒院では貴族らしさを出すと逆にやりにくかったもの」
病などは弱みと考え、知られたがらない人も多い。それなのに、治療に当たっているものが貴族だと、どの家で派閥はどこかとか色々聞いてくる人がいて面倒な時がある。私達にはちゃんと守秘義務があるのに。
だから私の治癒院では皆家名は名乗らず、名前で呼び合っていたのだ。
まあ高位の貴族の方々は、治癒院に来るのではなく屋敷に呼ぶという方法だから、そういう配慮をして担当者を選んでいたけどね。
「私は宰相補佐官です。それではあなたの小間使いとしてクルス卿を呼んできますよ!」
あら、お使いを頼んでいい立場の方ではなかったみたいね。道理で色々知っていると思った。
しばらくすると彼が一人で戻ってきた。
「クラウディア様がお呼びだ」
「偉そうに言ってるけど、あなたはお使い1つまともに出来なかったのよ?反省して」
「……あれでも王太子妃だ。仕方がないだろう」
なんだ。彼女のこと嫌いなのね。よかった。
「さすがにさっきの部屋は嫌よ。あそこに行くなら急激な腹痛で倒れるから。胃に穴を開けてでも行かないわ」
「お前は脅さないと気がすまないのか?
応接室に案内する。クラウディア様もそれくらいの常識はあるだろう」
だって絶対に嫌だ。さっきの光景が頭から離れない。あの部屋に入ったら吐く自信があるわ。
もう帰りたい。ラファを抱っこしたい。リコに顔を埋めたい!
応接室で待つこと1時間。喧嘩を売られているらしい。美味しい紅茶が3回もいただけた。
「お待たせしてごめんなさいね、支度に時間がかかってしまって」
勝ち誇った様に美しい微笑みを浮かべ、クラウディア様がやって来た。一人で。
カハール、役に立たない男!
「女同士、ふたりきりでお話しがしたかったの。よろしいかしら?」
「最初にお尋ね致します。ここでは本音で話して良い、と解釈してよろしいですか?」
「ええ、もちろんよ。ここでの発言はすべて許すわ、安心してちょうだい」
「分かりました。ではこちらにサインを。今の内容での誓約書です。待ち時間に作っておきました」
少し不満げな顔をしながらもサインをする。あなたの言う事など信用する訳がない。
「それではどうぞ。クラウディア様からお話し下さい」
こんなに間近でお顔を見るのは初めてだけど、確かに綺麗だわ。中身も比例するとは限らないけれど。
「まずは謝罪するわ。彼を奪ってごめんなさい。でも、どうしようも無かったの。
私は彼がいないと生きていけないのよ。でも、あなたはそうじゃないでしょ?」
「……どういう意味でしょうか」
「だって、あなたの中で彼は一番ではないもの。
私は最初から彼を奪おうとしていたわけじゃないわ。だから、ちゃんと選択肢をあげていたはずよ?
あなたが同伴者として彼の側にいるなら私は諦めたわ。辛いだろうけど、あなたが彼の為に仕事を捨ててでも側にいるなら……
でも違った。あなたは医療魔法士であることを選んだ!
どうして?どうして彼を一番に考えないの!?あなたはどれだけ恵まれているか分かっていないのよ!
どうしてあなたみたいに好き勝手生きてる人が彼まで手に入れるの?セシリオを一番に考えられないなら離れて!
私は彼が一番なの。彼さえいればいい」




