10.命の重さ
──きつい
こんなに長時間バイタル管理をすることなどない。それも正常な状態ではない、ほぼ仮死状態。いや、冬眠かな。
あー、なんで他国でこんなに頑張ってるの。
でも、ラファ可愛いしリコ可愛いしリカルド様いい人だし。くそう、辺境いいひとばっかり!頑張るしかないじゃない!
セシリオの馬鹿、こんなに大変なのになんで側にいていてくれないの。私があの阿呆を殴って蹴ったからだよ本当にもう!
カハール、次に会ったら覚えてろ絶対に毛根死滅魔法を今度こそ掛けてやる!
ねぇセシリオ、セシリオは王女とどういう関係なの私を追い出して何してるの
駄目だ、思考がおかしい、ツライ
「ルシア!」
やだな、リカルド様どうしてそんな顔してるの。大丈夫、まだ頑張れる。
「やめるんだ、ルシア!これ以上は君が危ない!ここは結界で覆った。もう、諦めるんだ」
「……駄目です。命って本当に重いんですよ。どうなるか、分かりません。それに、彼女を兵器にしたくない!」
生命を捧げるなんて許せない。絶対に脅されたとかでしょ。会ったことも無い馬鹿な王様。こんなくだらない作戦、やりたきゃ自分で試しなさいよ。胸糞悪いっ!
「私は人を救いたくて医療魔法士になったんです!命を諦めたりしませんから!」
負けてたまるか、私は堂々とセシリオの元に帰るんだから。がんばれっ!
「待たせたな、ルシア!解除できるぞ!」
「!!」
いけない、気を抜くな。まだよ!
「お願いします!リカルド様、離れて!」
「部下にここまで頑張らせて逃げるわけ無いだろう。ガラン、始めろ」
どこぞの馬鹿王と違っていい上司だ。
解除が始まる。あと少し!あ、
「きゃあ!」
反動で吹き飛ばされる!
「ルシア! 」
リカルド様が助けてくれようとした瞬間、
「……守護魔法?」
あ、セシリオのピアスだ……
「すまん!そんなに反動が行くとは思わなかった!でも成功だぞ、ルシア!」
ガランさん、そんなに揺すらないで。
「やったあ、でもつかれました。もうむり」
「お疲れ様、次は俺の番だ。安心して寝てろ」
はい、リカルド様──
私はそのまま気を失い、目が覚めたときにはすべてが終わっていた。
バレリアノの圧勝だった。らしい。
◇◇◇
「るーちゃん、あーん」
「……あーん」
目が覚めるとラファが号泣した。まさか5日間も寝ていたとは思わなかった。ご両親が亡くなった時のことを思い出させてしまったようで、べったり離れなくなってしまった。ごめんね。
そして、ただいま絶賛お世話され中。セシリオにもされたことのない「あーん」を実行されて恥ずかし過ぎる。
でも、口を開けないと目をウルウルさせるのだ。
「おや、ラファは楽しそうだね」
「うん!」
「リカルド様~」
助けて!ラファは可愛いけど恥ずかしいんです!
必死に目で訴えてると、なぜかリカルド様がラファからフォークを受け取った。そして、
「はい、あーん?」
「え!」
違いますよ!?助けて欲しかったのに、なぜあなたまで参戦してくるんですか!
「ルシア?」
「~~、あーん!」
意地悪!やけくそでりんごを食べる。
そう。ラファは甘えっ子になり、リカルド様は少し怒っている。命令無視したからね。
でも、まさかこんな罰を受けるとは思いませんでした。
「本当に困った子だよね。医療魔法士のくせに俺の心臓を止めようとするんだから」
「……してませんよ?」
「るーちゃん、めよ!」
2対1は卑怯だと思うの。
「怒っているんじゃない。心配してるんだ。
人を救おうとがんばることは素晴らしいことだよ。でも、君が死んだら駄目だろう。まずは自分の命を守ること。自分すら救えない者が誰を救えると言うんだ?」
「……すみません」
自分の命を守る。駄目だな、あのときは夢中過ぎて全然考えていなかった。
死ぬつもりはなかった。でも、死んでも守る、とは思っていたかもしれない。
「それに君に何かがあったら俺達はずっと後悔するよ。お願いだ。自分を大切にしてくれ」
「……はい」
叱られているんだと思ってた。でも、本当に心配してくれていたのね。なんだかくすぐったい。
上司のくせに甘いなぁ。ここは本当に優しい人が多過ぎて困ってしまうわ。




