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三題噺もどき4

作者: 狐彪

三題噺もどき―ろっぴゃくさんじゅうに。

 



 橙の空が広がる。

 太陽が通った後を彩る、花道のような空の色。

 その景色は、水彩画のように柔く、暖かい。

 その中に滲む、煙草の煙は溶け込むように消えていく。

「……」

 風少し冷たいが、陽の温かさを感じられるようになってきた。

 ようやく春が訪れる。

 待ちに待ったと言うわけではないが、此度の冬の寒さを耐えたものにとってはご褒美だろう。あぁでもどうだろう。大雪が降った場所は危ないのか。

「……」

 何かタイミングがあれば、スキーとやらにも行ってみたいと思わなくもないのだが。ゲーム感覚で行くところではないから、覚悟がいる。どうにも冬の寒さはまぁ、好きではないし。この町にいても、大変だと思うのに、雪国になんて行ったらどうなる事やら……。あちら側に住んでいる人からしたら、ここらの冬の空気は大したことなかったりするんだろうか。

 まぁ、それは、そこに住んでみればわかると言うやつだろう。分かりたくもないが。寒いところには住めないな。

「……」

 ぼうっと眺める視線の先では、帰路につく人々がいる。

 急ぐ人、歩く人、別れる人、出会う人。

 彼らには帰る家があり、彼らには心安らぐ親があり、何よりも安寧を得られる場所がある。

 ……それは家ばかりではないが。

「……」

 室外機の上に置いてあった灰皿を手に取り、煙草を押し付ける。

 もう少し眺めていたいが、今日は仕事が多めにあるのでここらで切り上げよう。

 さっさと風呂に入って、とりあえずは朝食を摂らなくてはいけない。

「……」

 今日は珍しく、しめられていなかったベランダの窓を開け、部屋に入る。鍵が噛むことなくすんなり空いたので少し驚いていたりする。

 いつも鍵を閉めてくるアイツは、なにやらせわしなくキッチンで動いている。

 朝食を作っているのだろうけど、何をそんなに急いでいるのだろう。

「……あ、お風呂どうぞ」

「あぁ、入ってくる」

 ベランダから戻ったこちらに気づき、そうとだけ言ってくる。

 それの準備はしたのか。シャワーを浴びるだけだが。

 ……鍵を閉めるのを忘れていたみたいな、しまったと言う顔を一瞬したのは見なかったことにしておこう。コイツは何に命を懸けているつもりなんだ。

「……」

 キッチンを通り過ぎ、風呂場へと向かった。

 脱衣所には、洗濯機が置かれているのだが……その上に着替えとタオルがなんともまぁ雑に置かれていた。何も言わないが、何やら忙しそうにしていると言うのはこれを見ても分かる……。何をあんなに。

 本人が何も言うつもりはないようなので、問い詰めはしないが。

「……」

 とにかく、さっさと風呂に入って朝食を摂ろう。

 そのあと、私も仕事をしないといけないからな。

 きっと、その間にでも出かけるつもりなのだろう。

「……」

 少し私も急いで上がろうか。



「……」

 風呂から上がり、頭を拭きながらリビングに戻ると、すでに朝食の準備は整えられていた。

 後は私が席に座り、手を合わせるだけという感じだ。

 いつもならご飯やみそ汁は各自でよそうのに。

「……何をそんなに急いでいるんだ」

 問い詰めるつもりはなかったが、ついそんな風に聞いてしまった。

「大したことじゃないので、気にしないでください」

 本人がそういうのなら気にしないでおくが。

 気にするなということだろうが……。

「どこかに出かけるのなら、気をつけろよ」

「えぇ、はい。もちろん」

 手を合わせ、朝食を食べ進めていく。

 所作はいつもと変わらず丁寧だが、どこか忙しなく落ち着かない。

 食事くらいゆっくりしたらいいのに。何をそんなに。

「……なんですか?」

「……なにも」

 まぁ。気にしないようにしておこう。私も今日は仕事が忙しい。




「ごちそうさまでした」

「……早いな」

「食器は自分で洗っておいてくださいね」

「……あぁ」

「では、行ってきます」

「……行ってらっしゃい」










 お題:水彩・ゲーム・噛む

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