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伝説の一族〜キャンピングカーで転移した先は母の故郷のようです〜  作者: 梅丸みかん


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9, 荒野の中を駆け抜ける

『では、アマネ。出発しようか。アマネはすぐにでもクレハを探しに行きたいだろうけど、先ずはクレハと吾輩がいない間にこの世界がどうなったか知る必要がある。どこか人の住む場所で情報収集だ。でなければ迂闊に動けない。とりあえずあの黒山を目指そう』


「分かったわ。じゃあ、早く車に乗りましょう。ベガ、道案内よろしくね」

 荒野を駆け抜ける冷たい風が全身を掠めるように通りすぎると、私は身体をぶるりと震わせベガを車に促した。


『了解した。まかせるがよい。このキャンピングカーの機能もクレハから説明を受けているから徐々に其方に伝授するから心配ない』

「そうなの? 一応、自動車学校で一般の車に付いている機能は教えられたけど、何か別の機能が付いているのかしら?」


『吾輩には一般の車の機能がどういうものか知らぬが、このキャンピングカーについてアマネが疑問に思うことなら答えられると思うぞ』


 ベガの言葉にもしかしたらこのキャンピングカーにしか付いていない機能がついているのかも知れないと少しワクワクした。


 それにしてもお母さんがキャンピングカーを改造できる程の力を持っていたなんて……

 お母さんってば、この世界ではすごい魔術師だったのかしら?


 私はますます母への尊敬の念が高まった。


 再びキャンピングカーに乗り込み先ずは遠くに見える黒山を目指す。


 私は運転席に座りハンドルに手を置くと、その奥にある色を失った霊元石に気付いた。


「あら? さっきの緑色の玉が白っぽくなっているわ」

『ああ、霊元石の中に内包されていたマナを使ったばかりだから空になったんだ。普通だったら一晩もすれば、再びマナを吸収して元の色に戻るけどこのマナの薄さでは二、三日はかかるかも知れないな』


 私はさっきベガが言った「霊元石がマナを吸収すれば地球に戻れる」と言った言葉を思い出した。つまり、霊元石の色が戻ればまた同じようにマナの力で転移できるということなのだろう。


『アマネ、クレハは他にも霊元石を持っていた筈だ。ああ、確かそのソファーの下が収納になっているのだった。そこに緑色の木箱があったと思うのだが』


 私はベガの言葉を受けて、ソファーの下の扉を開けた。


 そこには確かに両手の平に乗せられる程の大きさの緑色の木箱が収まっていた。木箱を取り出して蓋を開けると中には大小様々な大きさの石が五個ほど、転がるように入っていた。


 ビーズ程に小さい石が三つ、小指の先ほどの石が一つ、それよりも少し大きいのが一つである。大きさは違えど全て綺麗なまんまるである。小さい石は緑が濃いが大きめの石は少し薄い色をしていた。


『ふむ、ずいぶん少なくなってしまったようだ。地球に来たときにはこの箱いっぱいに霊元石が入っていたのだが。クレハは霊元石のマナを使いながら何とか地球で過ごしていたからだな』


 私はベガの話を聞いて、母のすぐに疲れてしまう体質を思い出していた。あの頃は、タダ単に身体が弱いせいだと思っていたがきっとマナが少ないためにエネルギー不足になったのだろう。


 それでも母はいつも私を励まし、父亡き後も気丈に振る舞っていた。


 そんな母を思い出すと涙が出そうになった。


 ベガの話によると、霊元石の石が濃い緑色にならないとマナを取り出すことができないらしい。しかも何回もマナを取り出すと石は砂のように崩れて消えてしまうのだとか。


 だから、箱いっぱいに詰まっていた霊元石がこんなに少なくなったのかと納得がいった。今使える霊元石は、ビーズほどの大きさのこの三つだけのようだ。


 手のひらの上に乗せて自分の中にあるマナを霊元石に送ると霊元石に蓄積されたマナが反応して放出するらしい。



 ハンドル脇のスタートボタンを押すと低く唸るエンジン音が車内に響き渡り、初めての運転に緊張感が高まった。


 では、出発しよう……


 遠くに見える黒山に向かって車をスタートさせる。


 チラリとダッシュボードの方を見ると一応カーナビが起動していた。

 この世界でもカーナビは使えるのかしら? うーんでもフロントガラスの向こうには道らしきものは見当たらない。ナビ画面も一面茶色だ。目的地も分からないのに設定することはできない。



 とりあえず目的地の黒山は目で確認できる……ならばナビが使えなくても問題ない……だろう。


『そうだな、このまま真っ直ぐ行けばあの山に辿り着けるだろう』

 言葉に出さなくても、私の心の中の答えにベガが後押ししてくれた。


 思っただけで分かってくれるなんて便利。


 ハンドルを握り慎重にアクセルを踏んで車を動かす。


 と、ここで私の中に他の疑問が浮上する。


 あれ? ずっと走りつづければ燃料……ガソリンが減っていくわよね。この世界にガソリンスタンドなんてあるのかしら? そもそもこの世界に車なんてあるのかしら?


『ガソリンスタンドはないけど問題ない。霊元石がこの車の機能をこの世界仕様にしてくれている。マナを燃料として動くようになっているのだ。それと、地球の車とは違うけど魔導自動車ならこの世界にある。まぁ、所持しているのは貴族や金持ちだけだがな』


 ベガがまた私の心の中を読んで疑問に答えてくれた。これからは疑問がある時は心の中で質問しよう。うん、そうしよう。


 それにしても貴族ってこの世界に存在するんだぁ。これもファンタジー物語の定番よね。


 どうでも良い事を考えながらキャンピングカーのアクセルを踏む。


 周辺に何もないせいか事故を起こす心配がないのは初心者にとってはありがたい。舗装された道路ではないのでガタガタと車内が揺れるのは気になるけど次第に緊張感も和らいでくる。


 数時間ほど車を走らせるとお腹の音が鳴った。


「そろそろお昼ご飯にしようか?」

『ああ、それがいい』

 キャンピングカーの速度を落とし、車を止める。ベガもお腹が空いたのだろう。嬉しそうな顔をしている。


 聖霊獣と言えども犬顔だから側から見るとあまり変化がわからないけど……一応そういうことにしておく。


 フロントガラスの先を見ても一向に正面の山が近づいて来ているようには見えない。


 どれだけ遠いのか……


 まあ、道が整備されていないせいであまりスピードが出せないこともあるのだろうが……


 私は溜息をつきもう既に飽きてしまった全く変化がしない景色を見回す。


『明日の夜までは山の麓までいけるだろう』

 ベガが私を慰めるように言ったが全然慰めになっていない。


 運転初心者の私が、明日の夜まで運転し続けなければならないなんてかなりきつい。例え、周りに他の車がなくても変わり映えしない景色の中を走る続けることにうんざりしてきた。


 溜息を吐くと更に疑問が過ぎる。


「ねえ、いくら何でもこのキャンピングカーじゃ山は登れないよね。途中まで舗装された道路があるとは思えないし。よく考えたらあの山を越えることなんてできるのかしら?」


『かなり遠回りになるが、迂回する道を行くしかないだろうな。下手をすると人が住むエリアまで思ったよりも時間がかかるかも知れぬ』


 ベガの返事にまた溜息が溢れる。


 初めてのキャンピングカーの運転で疲れてしまったので昼食は簡単なもので済ませよう。朝も簡単なものだったけど気にしてはいけない。


 私はバターロールに野菜とハムを挟み、一〇〇パーセントオレンジジュースのパックを冷蔵庫から取りだした。デザートはバナナでいいだろう。


 ベガにも同じものを用意して二人で仲良く食べた。車内から見える果てしなく続く荒野を眺めながら。


 お腹がふくれたら次第に眠気が襲ってきた。


 少し仮眠でもとろうか? でもこんな荒野の真ん中にキャンピングカーを止めて大丈夫……だよね。そもそも人どころか動物さえもまだ見ていない。


 本当にこの世界、人が住んでいるんでしょうね?


 ソファーに寝転んで外の景色に目をやると不安な気持ちが心に広がってきた。


 薄い雲に滲む太陽の位置がさっきよりも高く感じる。


 異世界にもちゃんと太陽があるのね。


 心の不安を払拭するために他のことを考える。


 と、


「あら? あれは何かしら? 鳥? え? 本当に鳥?」

 ソファーから身体を起こすとその上に膝立ちになり窓から再度空を見上げた。


「ベガ! 鳥よ! 初めてこの世界で生き物を見たわ! 良かった! ちゃんと生物が生息していたのね」

『いや、あれは……ふむ……鳥じゃないな』

 嬉しさのあまりついつい興奮してベガに訴えたのに彼の返事は歯切れが悪い。


 それよりもベガの言ったことが気になった。


 うん? 鳥じゃない? この世界に鳥以外に空飛ぶ生物が存在するのだろうか?


 私はもう一度窓の外に目を向けた。


 さっきよりも姿が大きく見えると言うことは段々こちらに近づいているということだろう。


 やがてその全貌が明らかになって来た。


 僅かな光が緑がかった銀色の肢体に反射し、キラキラとが美しく輝いていた。


 驚きに言葉を発することができない。


 私は胸の鼓動が早くなるのを感じながらそこから目を離せず一点だけを見つめ続けた。


 空を舞うその美しい生き物はこの世界がまさしく異世界だということを示し、私は再度夢の中に舞い込んだ感覚に囚われたのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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