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伝説の一族〜キャンピングカーで転移した先は母の故郷のようです〜  作者: 梅丸みかん


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8, 旅の始まり

 ベガの質問に対する私の答えはもう決まっている。


「もちろん、この世界でお母さんを捜すわ。最初からキャンピングカーで旅をしながらお母さんを探す予定だったんだもの。この世界にお母さんがいるなら探さない手は無いわ。幸いにして旅の準備も出来ていることだしね」


 私は迷うことなくベガの問いに答えた。


 不安が全くなかった訳じゃ無かったけど、この世界出身のベガが案内してくれるのだろうから何とかなるだろう。それに良く分からないけど、保護聖霊獣と言うことだしね。


 そう言えば、ベガはとても長生きな犬だなぁと以前から思っていた事を思い出した。よく考えたら、私が生まれたときからずっと変わらない姿で元気なベガは犬としては異常だ。


 今更ながらにベガが聖霊獣であることに妙に納得してしまった。


 これからベガに教えてもらうことが沢山ありそうだ。


『ああ、これだけは伝えておこう。五年前、クレハが謎の魔法陣に包まれこの地球を後にするときに、吾輩もクレハと共に行くつもりだった。だが、クレハは吾輩を召喚魔法陣の外に押し出して言ったのだ。『ベガ、あなたはここに残ってアマネを守って』と。それがクレハが放った地球での最後の言葉だったのだ』


 ああ……やっぱり、お母さんはちゃんと私の事を最後まで思っていてくれたんだ。


 ベガの言葉に思わず涙が滲んできた。


 信じていたけれど、母の失踪について真実を知った私は安堵の溜息を吐いた。




 この世界を旅することを心に決めた私はフロントガラスの向こうに広がる世界を改めて見つめた。


「ふぅ……」

 異世界転移と言えども小説で読んでいた異世界転移とは全く違う。ファンタジー要素が目の前の光景からはまったく伺えない。


 人の住んでいる気配さえ感じ取れず私の心に不安が広がった。


 それに気になることがある。母が地球に来た後のレーナ一族のことだ。特に私の従兄にあたる小さな銀緑の髪の少年のことが。


 でも、母がこの世界を去ってから二〇年も経っている。その時、幼かった少年……レイトと言ったわね……も今はいい大人になっているだろう。


 どうか、無事に生きています様に……レイトもそしてタクト伯父さんも……レーナ一族のみんなも……


 私はそう願わずにいられなかった。


 目の前の風景を再び眺め、頭の中を切り替える。


「取り敢えず外に出てみようかな……ねぇベガ、外に出ても大丈夫だよね。空気が薄いとか毒素が充満しているとかないわよね」

 私は以前見たSF映画を思い出し一応ベガに聞いてみた。


『当然大丈夫だ。空気も多分地球と殆ど変わらないし毒素が充満していることもない。まあ、地球よりマナ濃度がかなり高いくらいか?』

「多分? マナ濃度?」

 ベガの言葉に若干不安がよぎる。


『心配するな、アマネ。マナとはエネルギーの元になるものだ。この世界ではマナと言う目に見えないエネルギーが生物の動力源になっているのだ。この世界の者はマナを身体に多く取り込められる者ほど大きな魔法を使うことが出来る。地球にも僅かなマナは存在するが、魔法が使えるほど多くはなかったのだ』


 ベガの言葉を頭の中でかみ砕く。


 あれ? と言うことはもしかして……


「ねえ、ベガ、もしかして私もその魔法が使えるのかしら?」

『まあ、魔法というよりもレーナ一族に生まれつき備わっている特殊能力(ギフト)が使えるだろう。だが発現条件は人によって異なる。アマネが授かった特殊能力(ギフト)がどんなものか発現してみないと吾輩にも分からぬのだ』


特殊能力(ギフト)?」

『うーん、まあ、魔法のようなものだ』


 さらりと言い放つベガの答えに異世界に来てしまったという不安感よりもワクワク感が湧き上がった。「魔法の様なもの」というあやふやな言い回しが気になったものの、とにかく地球にはない力が私にも備わっているかも知れない。


「えー? 本当に?」

 それでも疑問形になってしまうのは仕方がないだろう。何せ地球での私は無能扱いされていたのだから。


『で? 外に出てみるのか? 不安なら吾輩が先に行くとしよう』

 私が夢見る乙女のように妄想を膨らませていると、痺れを切らしたベガが器用に前足で助手席の扉を開けて車内から消えた。


「あっ、ちょっと待って」

 私もすぐに運転席のドアを開けて外に飛び出した。外は肌寒く、シャツとGパン姿の私の身体に冷たい空気が伝わってくる。慌ててキャンピングカーに戻り、カーディガンを羽織った。


 初めて足を下ろした異世界の地は、乾ききった砂と小石が無造作に転がり、所々に枯れた草が力尽きたように倒れている。


 時折強く吹く風が、砂を巻き上げながら低く唸る音を立てて耳元で絶えず囁いているようだ。冷たさと鉄のような乾いた匂いが混じっている風は長期間この地が放置されていたことを示唆しているのかも知れない。


 遠くを見ると、微かに歪む地平線の上に黒ずんだ山陰が墨絵のように浮かんでいる。果てしなく広がる空は雲で覆われ、滲んだ太陽がかろうじてこの地を照らしていた。


 まるで時の流れに置き去りにされたようでとても無機質に感じる。


「この世界って、本当に人が住んでいるのかしら?」

 思わず口から零れた言葉が、初めて見た異世界に対する私の心情を表していた。


『アマネがそう思うのは仕方がない。こんな荒れ地を見てしまったら。吾輩も流石に驚きを隠せない。たった数十年でこんなに変わり果てているとは……以前はマナが十分に行きわたり、どの場所も緑と花々で溢れていたというのに……』


 ベガは遠い昔に思いを馳せる様に遠くを見つめた。


『あの山の向こうに行けば人の住んでいる場所に辿り付けるかも知れぬ。クラメイル帝国もあのっ山を過ぎてしばらく行った場所にあるだろう』


「山って、あの遠くに見えている黒い不気味な山?」

『ああ、マナが少ないせいとも思えぬがあの山には精霊の気配がしないようだ。吾輩がこの世界を離れているうちに何か遭ったのかも知れぬ。多くの木々が枯れてしまっているのもそのせいだろう。マナが薄いせいで吾輩の力も半分以上戻らぬし……ああ、そうか……だから……』


 ベガが納得したようにブツブツ言い始めたが私には何のことか分からない。


「ベガ?」

『クレハが強制的に召喚されたのは、もしかして緋霊山(ひれいざん)にある霊元石礦床れいげんせきこうしょうの解放のためか? でもなぜだ? それにしてはマナ濃度が薄い……』


 ベガはブツブツ言いながら考え込んだ。


「ねえ、ベガ? 一人で納得してないで分かるように教えて。緋霊山とか霊元石なんとかとかまったく分からないんだけど」


『アマネ、悪い。緋霊山っていうのは無限樹海の奥にあるその名の通り緋色の霊峰だ。レーナの郷はその場所を管理するのが目的であるかのように緋霊山の麓に位置する。そして、緋霊山から通じる場所には霊元石の礦床があるのだ。礦床はレーナの民達が逃げるときに侵害されないように封印されたのだ。封印したのはハナとタクト。その封印を解除するためには封印した時と同じ力が必要となる』


「もしかして私のお母さんはその封印を解除することができるってこと?」

『そう、アマネの言うとおりクレハもそのうちの一人だ。クレハはハナとタクトと同じくらいの力を持っている。だが、彼ら二人を合わせた力にはもちろん足りない。もしかしたら礦床の封印の解除が目的なら他の者も召喚しようとしているのかもしれぬな』


「でも、封印した時と同じ力が必要ならその力に匹敵できるだけの人数を集めればいいんじゃない? 何でわざわざお母さんが召喚される必要があったの?」


『そうなのだ。それは吾輩も疑問に思っていたところだ。礦床を解除するために必要な人数を集められなかったのかも知れぬな。それか、もしかしたら……クレハを召喚したのはそれだけじゃないのか……? いや、だとしても、もし敵に囚われ命の危険を感じたとしたらクレハは眠りについている可能性がある。なぜなら、レーナの民は誕生と同時に護りの結界魔法がかけられるのだから。万が一、命の危険に脅かされた場合、結界に守られるのだ』


「そんな……お母さんは殺されそうになったかも知れないってこと? さっきベガの話の中にあったクラメイル帝国の者がお母さんを召喚したかも知れないってこと?」


『ああ、そう考えると納得出来る』

「でも、いくら守りの結界があると言ってもお母さんが無事だなんて分からないじゃない?」

『吾輩には分かる。忘れたのか、天音。吾輩はクレハの守護聖霊獣でもあるのだ。クレハが命を失えば吾輩にも伝わる。今の所、クレハが命を失った感じはしないからクレハが無事なことは吾輩が保証する』

「そうなの? 本当にお母さんはちゃんと無事なのね?」

『ああ、間違いない。それにしてもアマネ、随分と頭の回転が速くなったようだな。やはり身体がマナを吸収したせいか? この世界のマナは大分少なくなったとは言え地球に比べればずっと多いからな』


 なんだか、ベガは地球に居た頃の私は……ついさっきまでのことだけど……随分と頭が悪かったような言い方ね。まあ、その通りだから何も言えないんだけど……


 母が無事だと聞いてホッとした反面、私はベガの言い方が面白くなくて口を尖らせて頬を膨らませた。


『アマネ、勘違いするな。アマネが頭が悪かったと言っている訳じゃない。アマネは本来なら頭が良いのだ。只、この世界の住人であるクレハの血を引いているからマナエネルギーが足りないだけだったのだ』


 ベガの言葉でハッとした。そう言えばこの世界に来てから頭の中がクリアになった気がする。地球にいるときは何をしても何を見ても何かが邪魔して中々頭に入らなかった。


 でも今は、ベガの言ったこともすんなりと理解できている。


 そうか、私は誰よりも劣っていて何もできないんだと思っていたけど本当はそうじゃなかったんだ。


 安堵と期待が心の中に広がる私だった。


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