44、誰がキャンピングカーに乗る?
ちょうど、おにぎりが出来上がるとマナトさんとモエギちゃんがシャウラと共にやって来た。
「やっぱりここだったか。おっ、美味そうな匂いだな」
マナトさんの瞳が嬉しそうに輝く。
「これなあに?」
モエギちゃんが不思議そうに首を傾げた。
その姿が可愛い。
やはり、モエギちゃんにはフリフリのエプロンドレスが似合うと思う。
そんな私の妄想に気づかずササラさんがテーブルの上の食べ物の説明をする。
「ああ、それはね、おにぎりと言って米で出来た食べ物だ」
「おにぎり? 米?」
ササラさんの説明にモエギちゃんは首を傾げたままおにぎりをじっと見つめている。
「俺も初めて見たけど美味そうだよな」
カイトがおにぎりに期待の眼差しを向けた。
「おいらもおにぎりを食べるのは何十年ぶりだろうか? 本当に懐かしいなぁ」
しみじみ言うマナトさんの瞳が若干潤んでいる様に見える。
そこまで喜んでもらえるなんて私としてもとても嬉しい。お米を提供した甲斐があるというものだ。
「モエギちゃん、美味しいわよ。さあ、みんなでいただきましょう」
私は味噌汁をテーブルに並べ終わるとソファーに座った。
みんな一斉におにぎりにかぶりつく。
マナトさんとササラさんが味わう様におにぎりを噛み締めている。
モエギちゃんは小さな一口でおにぎりを口に含むと目を丸くしたあと、頬を緩ませた。
カイトはガツガツとすぐに一個のおにぎりを平らげて次のおにぎりに手を伸ばした。
レイトは「やっぱりおにぎりは美味しいや」と言って口一杯に頬張り、リスの様に頬を膨らませている。
……可愛い。そのぷっくり頬を突きたくなるのを何とか耐える。
聖霊獣たちは床に敷いておいたマットの上でうんうん唸りながらそれぞれの皿に載せたおにぎりを食べている。
「カイト、もっと味わって食べな」
そんな姿にほっこりしていると、ササラさんがカイトを嗜める声が聞こえた。
私は夢中で食べるみんなの顔を見て小さな幸せを感じた。
「なあ、アマネ様? この味噌汁に入っている野菜はどうしたんだい? ダストの町でもこんなに色々な種類の野菜は売ってなかったと思うが」
「本当だねぇ、特にこの緑色の葉野菜は珍しいねぇ」
マナトさんとササラさんが不思議そうに味噌汁を見入っている。
ササラさんが言う緑色の葉野菜……小松菜はこの世界に存在しないのだろうか?
「えっと、その野菜達は数日前に私が住んでいた世界……地球……私がいた国は日本って言うんですけど……に戻った時、山田の……えっと、隣の家の人からいただいたんです」
「地球って、ああアマネは異界越えしてきたんだっけ。そういやぁ、カイトとレイトもさっき日本がどうとか言っていたなぁ。そんなに何度も行ったり来たりできるのかい?」
「はい、霊元石のマナがあれば……あっ、でも地球とこの世界の時間の流れが違うのであまり長く行くのは……それに地球はここと違ってマナが少ないから霊元石のマナが復活するのにも時間がかかるんです」
私はこの世界と地球位は四倍の時間の流れの差があること、マナが少なくて霊元石の復活が遅いばかりか、本来の自分たちの力を発揮できないことなどをマナトさんとササラさんに説明した。
そのせいでお母さんは病弱だったんだからそこのところちゃんと言っておかないとね。
「ふーん、だとしたら異界越えするなら長くは向こうにいられないねぇ」
「そうだな。行くとしたら事前準備が必要だな」
私の説明に二人が考え込んんだ。
え? 二人とも行きたいの? と言うか、行くつもりなの?
私は、このメンバーで日本に行ったらかなり目立つだろうなぁと想像した。
赤い髪、深緑の髪、緑銀の髪、茶金の髪、私はおにぎり食べるみんなを見回し小さなため息を吐いた。そして、異世界感溢れる服装……
どう見てもコスプレグループにしか見えない……
うーん、でもこれからレーナの郷に行くのだし、今すぐ日本に転移することもないだろう。先走って考えても仕方がないよね。
「ああそうだ。昨日カイトと一緒に買い出しに行ってきたんけど、旅に出るならまだ足りないから、ダストの町に寄ってからレーナの郷に向かおう」
私が思考に耽っていると、ササラさんが思い出した様に言った。
「ダストの町?」
「ああ、ここから一番近い町がそこなんだ。まあ、近いと言っても馬車で半日はかかるけどね」
「おい、ササラ。ダストの町に行くのはいいが、このキャンピングカーだと少し目立つんじゃないか?」
「うん、だから私がキャンピングカーに同乗して幻惑をかければいいと思うんだ」
「あっ、母ちゃんずりぃー。ここは俺が同乗して隠形をかければいいじゃないか」
ササラさんとカイトの言い合いが始まった。
どうやら二人ともキャンピングカーに乗りたいらしい。
私としてはキャンピングカーは六人乗りなので全員乗ってもらって構わないのだが、みんなの荷物を持っていく必要があるので誰かは幌馬車の御者をしなければならないそうだ。
「だからぁ、俺が乗ってキャンピングカーを見えないようにすればいいじゃないか」
「何言ってるのさ、あんたは男なんだから御者をするんだよ」
「この際、男とか関係ないだろ?」
「このか弱い私に御者をしろと言うのかい?」
「母ちゃんのどこがか弱いんだよ」
「はい、はい、君たちそこまで! 御者はおいらがするからいいよ。それよりも君たちが勝手にキャンピングカーに乗ることを決めるわけにはいかないだろ? アマネ様に許可は取ったのかい?」
ササラさんとカイトの口論を止めたのはマナトさんだった。
「えっと、そうだよな。ごめんな、アマネ。でもやっぱりキャンピングカーは目立つから私かカイトの力を使ったほうがいいと思うんだ。私たちが一緒に乗ってもいいかな?」
「もちろん私は構いませんが、やっぱりキャンピングカーって目立ちますか?」
「うーん、目立つだろうな。特にダストの町はクラメイル帝国の外れで帝都パーセルよりかなり離れている。中央には貴族も多いし、魔導カーを所持している者もいるがこんな田舎では魔導カーさえも走っているのを見たこともないんだ」
マナトさんが腕を組んで眉間に皺を寄せながら答えた。
「ねぇ、アマネ。このキャンピングカーで日本に行った時みたいにレーナの郷まで転移することって出来ないのかなぁ?」
私たちはハッとしてお互いの顔を見合わせた。
「そうだな、レイト。お前賢いぞ。それで、どうなんだ? できるのか? アマネ」
ササラさんがレイトの頭を撫でながら、私の方を見た。
「えっとぉ、どうなの? ベガ?」
私はベガに問う。
『転移する目的の場所が明確に決まっていればできると思うぞ。ナビに地名を入れて設定すればいいのだ。クレハのことだからレーナ郷もちゃんとナビの中にあるだろう』
できるんだぁ。それならそうと早く言ってよ。
『ベガは相変わらずじゃな。肝心なことを言い忘れておる』
『最初から聞いてくれれば吾輩だって教えたのだ』
シルマのツッコミはもっともだと思うが、これから私は何か疑問に思ったらすぐにベガに聞こうと心に誓った。
結局、私たちは全員でキャンピングカーに乗ってレーナの郷に転移することに決めた。
でもその前にダストの町に寄って買い物することにした。
初めて訪れる異世界の町、ダスト……
楽しみだ。
万が一のため、ササラさん達の荷物も少しだけキャンピングカーに積み込みキャンピングカーに乗り込む。残りの荷物は、レーナの郷にある礦床の封印を解除すれば霊元石を必要なだけ手に入れることができるから、そうしたらまた取りに来ることにした。
朝食後、後片付けが終わるとみんなで一斉に準備を始める。
ナビに霊元石をセットすると、ナビの矢印の先に「バルド」という文字が浮かんでいた。瓦礫だらけのこの地を指し示す矢印だ。
「ああ、そうだ。嘗てここは辺境の町バルドと呼ばれていたんだった」
ササラさんは矢印の先に浮かんだ文字を目にして懐かしそうに呟いたのだった。
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