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伝説の一族〜キャンピングカーで転移した先は母の故郷のようです〜  作者: 梅丸みかん


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39、規格外の乗り物

 マナトさんに呼ばれて最初に来た部屋に行くと、ふわりと漂う温かな香りが鼻をくすぐった。香りの元を辿ると、ソファーのテーブルの上にスープとパン……クリーム色の四角い塊……多分チーズ? が目に入った。モエギちゃんがカトラリーを並べている。


「アマネ、少しは休めたかい? こんなものしかないけどお腹空いただろう? ご飯にしようじゃないか」

 ササラさんが振り返りながら微笑んだ。


 私は夕飯の手伝いが何もできなかったことに申し訳なく思った。


「ごめんなさい、ササラさん。夕飯の用意までしていただいて……」

「気にするな。私たちもお腹が空いてしまったからね。よかったら一緒に食べようじゃないか」

 部屋にはいつの間にか人数分の木の椅子も置かれている。ソファーテーブルは低くて、どう見ても木の椅子とバランスが合わない。


「悪いな、アマネ様。テーブルがこれしか無いんだ。食べづらいだろうけど我慢してくれよ」

「全然構いません。それより、私たちの分まで用意していただいてありがとうございます」

 私が二人にお礼の言葉を述べるとマナトさんに促されるまま、レイトと並んでソファーの方に腰をかけた。


「あっ、ベガとシルマのはそっちに準備しているよ。シャウラとギエナと一緒に食べてね」

 モエギちゃんが指し示した場所を見ると、木でできた台の上に私たちと同じ料理が四つづつ用意されていた。


 小さな銀柴と緑銀龍は、嬉しそうに台の前で食事を待つ銀鼠と黒いカラスの元に近づいて行った。


「ああ〜腹減ったぁ〜。母ちゃん、今日買って来た肉、ちゃんとスープに入れたか?」

 カチャリとドアが開く音の方に目を向けると、カイトが怠そうな声を発しながら部屋に入って来た。


「もちろんだよ。久々の肉なんだ味わってたべるんだよ。さあ、あんたはそっちに座りな。モエギはそこだよ」


 ササラさんの指示でカイトとモエギちゃんが木の椅子に座ると「いただきます!」の声が室内に響き、それぞれが食事を始めた。


「やっぱり、スープに肉が入っていると美味いな」

 カイトがすごい速さでスープを口に運ぶ。


「やっぱりチーズは美味しいね」

 モエギちゃんはどうやらチーズが好きみたいだ。真っ先にチーズを口にした彼女の瞳は星の輝きの様に煌めきを放ち、顔をふわりと綻ばせて幸せそうに笑みをこぼした。


「チーズ?」

 モエギちゃんの言葉にレイトは首を傾げた。


 もしかして、レイトはチーズを食べたことがないのだろうか? 自分の皿の上にあるチーズを手に取ってじっと見つめている。


 まあ、そもそも私としてもこの異世界にチーズがあったことに驚きなんだが。見た目はチーズだが、食べてみないとこの世界のチーズが地球に存在したチーズと同じものか分からないけど……


「うん、チーズだよ。美味しいから食べてみなよ」

 モエギちゃんがまるで姉の様にレイトに声をかけた。


「おや、レイト様はチーズは食べたことがなかったのかな? レーナの郷にはなかったが、クラメイル帝国では昔からの食材みたいだよ。ああ、そうか、もしかしたら、チーズはお貴族様向けの食べ物ではないかも知れないな。なんせ、安価で手に入るからな」


 へぇ、レーナの郷にはチーズはなかったんだ。そう言えば、レイトの様子ではレーナの郷の食べ物は、昔ながらの日本食と似ていたみたいだったわね。


「え? レーナの郷にはチーズがないの? 明日、レーナの郷に行ったらもう食べられないの?」

「モエギ、大丈夫だよ。作り方はちゃんと私が入手しているからな」

「母さん、ほんとう?」

「ああ、本当さ」

 一瞬、落胆した表情を見せたモエギちゃんはササラさんの言葉にホッとした様に笑みをこぼした。


「それにしても、郷の食べ物が恋しいよ。特にここ何十年も米を食ってないなぁ」

「そうだねぇ、この国の主食は小麦が中心だからねぇ」

 マナトさんとササラさんが考え深気に呟いた。


 その言葉を聞いて私はハッとした。


 そうだ、お米っ! キャンピングカーにお米を積んでいるではないか!


「マナトさん、ササラさん、私、お米持っています!」

 私が発した突然の言葉にマナトさんとササラさんが驚いた表情でこちらを見た。


「本当かい? どこで手に入れたんだい?」

「おいら達もクラメイル帝国で散々米を探したんだ。それでも見つからなくて、結局、米はレーナの郷でしか作られてないんだと結論づけたんだ。まさか、アマネ様が米を持っているとは……」

「えっと、地球にいる知り合いに貰ったんです。たくさんあるからみんなで食べましょう。あとでキャンピングカーから持って来ます」

「本当かい? アマネ。でも、私たちみんなで食べたらすぐに無くなってしまうんじゃないかい?」

「大丈夫ですよ。無くなったら、また地球に行って手に入れればいいし。あのキャンピングカーって地球に転移できるんです」

「「なんだってぇ!?」」

 マナトさんとササラさんの大きな声にびくりとする。レイト、カイト、モエギちゃんも二人の様子に食べる手が止まっている。


「まったく、クレハのやつ何ていうものを作ったんだ。異世界からこっちに来るだけではなくて行ったり来たりできるなんて」

「そうだね。クレハ様は天才的な発想の持ち主だったからね。いつもとんでもない物ばかり作っていなぁ。でも、まさか異界を何度も越えられる物を作るなんてね。本当に規格外だよ」


 二人の話を聞くと、お母さんは自分の(ギフト)を遺憾なく発揮していた様に思えた。


「それよりも、あのキャンピングカーっていう乗り物私も乗ってみたいんだけどいいかな?」

「あっ、母ちゃんずるい。俺も乗ってみたい」

「私も!」

 ササラさんの言葉にカイトとモエギちゃんが便乗する。


「もちろん、いいですよ」

「そうだ、アマネ様。その乗り物、この地下の入り口あたりに移動した方がいいな。ササラの幻術で入り口はぼかしているから、近くに停車させれば同じ効果があるからな」

「ああ、そうだね。こんな所にわざわざ来るものもいないだろうけど、あのキャンピングカーは目立つからな。そうした方がいいだろう」


 そうか、ササラさんの特殊能力(ギフト)は幻惑。それは幻術を使える力だ。その力でキャンピングカーから目を逸らすことができるのか。二人の様子だとキャンピングカーはこの世界では目立つ存在の様だから、それはありがたいかも……


 私達は二人の言葉で食事が終わるとキャンピングカーの元に向かうことになった。


「へぇ〜、すごいな」

「ソファーにテーブル、調理場まであるんだ」

「すごーい! お家みたい!」

「俺、魔導車だって遠くからしか見たことないけど、魔導者よりスゲーや」

 キャンピングカーに乗るなり四人はそれぞれ感動の声をあげた。


 私はみんなに一つ一つキャンピングカーの設備を説明する。


「すごいねー、料理もできるしソファーはベッドにもなるのかぁ」

「そうだね。さすがクレハ様だ。これなら長旅も快適にできるのではないか?」

「なあ、アマネ、これ凄いな。このまま移動できるんだろ?」

 ササラさん、マナトさん、カイトが目を輝かせて感嘆の声をあげた。

「あっ、マナトさん、ササラさん、これがお米です。明日みんなで食べましょう」

「おおっ! 本当にお米だねぇ」

「アマネ様、いいのかい? おいら達も食べたらすぐに無くなっちまうよ」

「これだけあるもの、当分は無くならないわ。それに、みんなで食べた方が美味しいもの」


 私の言葉にみんな嬉しそうに頬を緩ませた。


「じゃあ、みんな、明日に備えてもう休もうとしよう」


 キャンピングカーを地下入り口まで移動させると、ササラさんの声で私たちはそれぞれの部屋に戻って早めに休むことにした。


 明日はいよいよレーナの郷に向かって出発する。この世界に来たときは不安が大きかったけど、仲間が増えたことで楽しみの方が大きくなった。


 まだ見ぬ母の故郷に私は思いを馳せ、顔を緩ませるのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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