37、それぞれの力
「もう私達に残された使命はレーナの郷を復活させてカイトやモエギ、そしてこの世界のどこかにいるレーナの子供達を幸せにすることなんだ」
「レーナの子供達……?」
私はササラさんの言葉にハッとした。そうだ、百年前レーナの人々が郷から各地に転移したのだとしたら、その血を受け継ぐ者は意外と多く存在するのかもしれない。
しかもレーナ一族は長命だ。ササラさんやマナトさんの様にまだ存命な人もいるだろう。
ベガもシルマ、それにレイトの話でもレーナの郷がどんなに素晴らしい場所だったのか窺い知れた。
「レーナの郷……みんなが言う様にそんなに素敵な場所なら私も行ってみたい。そして、復活させるために手伝わせて欲しい。私の力が少しでも役に立てるなら。でも、先ずはお母さんを探して、霊元石礦床の封印を解いた方がいいわよね」
私の言葉にササラさんとマナトさんが顔を見合わせた。
どうしたんだろう? 私、変なこと言ったかしら?
「アマネ様、そのことなんだけど、クレハ様を探す前にレーナの郷に行って礦床を解除した方がいいと思うのだが」
「……え? どうして?」
「そうだね、私もその方がいいと思うよ」
首を傾げる私に、マナトさんとササラさんがそう言うけど、私にはよく分からない。
だって、礦床を解除するには封印した者と同じ力が必要だと言う。封印したのはその時首長で私の祖母に当たるハナと伯父のタクト。二人のマナの力はかなり強かったと聞いた。
私とレイトじゃその力には及ばないと思う。じゃあ、マナトさんとササラさんの力を合わせれば大丈夫だと言うことなのだろうか?
私の疑問にササラさんが答える。
「残念ながら、私とマナトはそれほどマナの力は強くないんだけど、カイトの力はかなり強いみたいなんだよ。ハナ様に及ばないまでもタクトと同じくらいにはね。それに、アマネのマナも私とマナトよりも強いはずだ。クレハの娘だからね。だから、私とマナト、そしてアマネとカイトの四人の力を合わせれば大丈夫だと思うよ。モエギとレイトはまだ幼いからそれほど力がないかも知れないけどね」
「力を合わせれば……」
私はササラさんの言葉を反芻する。
今まで私は、礦床を封印した者と同じくらいの力がなければ無理だと思っていた。でも、ササラさんの言う様にみんなで力を合わせれば解除できるのかも知れない。そうなれば霊元石礦床が解放されて、いずれこの世界は十分なマナエネルギーで満たされるだろう。
そして、私たちは霊元石を手に入れることができる。霊元石があれば、私たちレーナの血を引く者は力を増幅できると言う。そうすれば、他のレーナ一族を探すこともレーナの郷を復活させることもそう難しくはないのかも知れない。
でも……力を手に入れるのはレーナ一族だけではない。他の者達も大気のマナエネルギーが高まれば魔力が増えるのではないのだろうか? そうなると再びレーナの郷が脅威に晒されるのではないだろうか?
そんな疑問が頭を過った。
『アマネ、心配するな。この世界の人間の平均寿命は七十年〜八十年だ。レーナ一族ほど長命ではない。そして、魔力の多さは母親の腹の中での成長時に決まる。どんなに魔力が多い親だったとしても、十分にマナエネルギーを取り込めなかった母親から生まれれば、赤子の魔力量は限られるのだ』
『そうじゃな。ベガの言う通りじゃ。この百年間のマナ濃度は大分低くなっていたからそれほど魔力が多い者は生まれなかったじゃろう。現に、クラメイル帝国は無限樹海から手を引いている。無限樹海の魔獣に抵抗することが出来なくなったせいじゃ。妾はレイトが守りの結界に包まれている間、無限樹海の様子を見にいったことがあるから確かじゃ』
『やはりな。ならば、我々聖霊獣の脅威にはならないだろう。今度こそ吾輩たちはレーナの郷を護ることが出来る』
私はベガとシルマの言葉にホッと胸を撫で下ろす。
霊元石礦床の封印を解除すれば、大気のマナエネルギーが増え更に霊元石によって私たちが使える力が増える。私は天気を操ることしかできないみたいだが、ササラさんとマナトさんの力が強くなれば、レーナの郷を守れるかも知れない。
ササラさんの幻惑はレーナの郷を隠してくれるだろうし、マナトさんの遠視は郷に近づくものを察知してくれるだろう。
それにレイト、カイト、モエギちゃん、ひとりひとりの力は大きくなくてもみんなで力を合わせれば何とかなるかも知れない。それにレーナ一族はみんな特殊能力を持っている。それを上手く使いこなせれば……
ギフト……あれ? そういえば……
「カイトとモエギちゃんの特殊能力は何かしら?」
「カイトの特殊能力は隠形で、モエギの特殊能力は時操だよ」
私がぽろりと溢した疑問にササラさんが答えてくれた。
ん? カイトの特殊能力は隠形……マナトさんは遠視でササラさんは幻惑。
これって、隠密に特化した能力だよね。
何それ! 忍者みたいでカッコイイ!
もしかして、レーナの郷って忍者の郷なのでは?
『アマネ、忍者ではないぞ。レーナ一族の特殊能力は守りに特化しているだけだ』
妄想がエスカレートした私の頭の中にベガのツッコミが届いた。
ササラさんはカイトとモエギちゃんの特殊能力について更に詳しく教えてくれる。
「カイトは隠形、私は幻惑が使えるから町をうろついてもレーナ一族だと知られることはない。だから、私とカイトが買い出し担当なんだ。カイトの隠形は自分の姿を消すだけじゃなく、他の人間や物質の姿も消すことができるんだよ」
「え? すごい、姿を消すことができるなんてまるで透明人間みたいね」
「透明人間……?」
「えっと、何でもないわ」
訝し気な表情を浮かべるカイトに私はすぐに自分の言葉を打ち消した。この世界では、どうやら「透明人間」と言う言葉は知られていないらしい。
「アマネ、モエギの時操は便利だぞ。物質の時を進めたり戻したりできる。つまり、物を新品の状態に戻すことができるんだ。この絨毯も実は捨てられていたものなんだ。全然そう見えないだろ?」
私はササラさんの言葉に、改めて足元に敷かれている橙色の絨毯に目を向けた。きっとこの絨毯がなければこの石壁で囲まれた地下の部屋は寒々しさが漂っていただろう。
「本当、すごいわね。何て便利な力なの? 正直言って羨ましいわ」
「羨ましい? レーナの一族は一人一人違う力を持っているからそれぞれに役割がある。神はきっとみんなで助け合って生きていくために違う力を与えたんだろう。羨ましがることなんてないさ。アマネの力は何だい? きっとアマネにもその力によって与えられた役割があるんじゃないかい?」
ササラさんの問いに言葉が詰まる。
私の特殊能力は天役、雨を降らせたり、晴れにしたりするだけで何も特筆することはないと思う。でも、ベガもシルマも私の力を知った時はとても驚いていた。
ササラさん達の力の様に本当に役立つのだろうか?
「私の力は天役です。みんなの力になれるかどうか分かりません」
「「何だって?!」」
ササラさんとマナトさんが驚きの声を上げた。その横でカイトは「天役?」と首を傾げている。
「これはまた……凄い特殊能力を授かったものだ」
「そうだな。レーナ一族の始祖以来の特殊能力ではないか? 確か、伝承にあったよな」
ササラさんとマナトさんが揃って腕を組み考え込んだ。
私は二人の様子にそんな様子に戸惑う。
「あの……ササラさん、マナトさん……?」
「アマネ、私は天役を持つ者にあったことはないがレーナ一族に伝わる伝承によるとそれは神にも並ぶ程の凄い特殊能力だと伝えられている。天候を操るということは、農作物を実らせることも枯らすこともできる。レーナの郷の農作物の栽培に貢献することができるんだ」
「そうだよ、アマネ様。アマネ様の力は素晴らしい!」
ササラさんとマナトさんはそう言うけど、それでも私にはそこまでとは思えない。だってレーナ一族には……
「ふーん、でもさ、母ちゃんはレーナ一族が注いだマナのおかげでレーナの郷の農作物はいつでも豊作だって言ってたよな。天候がどう関係するんだ?」
私が思ったことをカイトが代弁してくれた。
バシっ!
カイトの後頭部を叩く音が部屋に響いた。
「痛ってえなぁ。何すんだよ! 母ちゃん!」
「あんたは余計なことを言うんじゃないよ!」
ササラさんってば容赦ないなぁ。
私は二人の様子に落ち込んでしまったことをいつの間にか忘れて苦笑した。
「アマネ、天候を操るだけじゃない。天役とは唯一攻撃に特化した力なんだ。有事の時にはきっとアマネの力は必要になる。アマネが思っている以上にね」
私が思っている以上に……
ササラさんの言葉は落ち込む私の心に染み込み小さな灯りを灯したのだった。
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