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伝説の一族〜キャンピングカーで転移した先は母の故郷のようです〜  作者: 梅丸みかん


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33、マナトの後悔

マナト視点です。

 おいらはね、レーナ一族の裏切り者なんだ。ああ、裏切り者だと言っても彼らに直接危害を加えたわけではないよ。


 クラメイル帝国の者たちに唆されて、レーナの郷が襲撃される前に郷から出てしまったと言うことだ。まあ、郷から出るのは自由だからそれだけで裏切り者だなんて誰も言わないかも知れないけどね。


 だけど、おいらの特殊能力(ギフト)は遠見だ。おいらの力があれば襲撃を防げなかったとしても、もっと護りを固めることができたと思ってしまうんだ。まあ、おこがましい考えだとは思うけどね。


 首長であるハナ様や彼女の夫であるクナト様がいても防げなかったんだ。おいらがいたからってどうにもならなかったことは自分でも分かっているんだ。


 でも、その場にいなかったとう言う事実のせいで、ずっと後悔と罪悪感が心の奥に居座っていて自分を責めずにはいられなかったんだ。この百年間ずっと……


 最初、クラメイル帝国の帝都パーセルの街はおいらにとって未知の世界だった。これまで見たことが無かった建築様式の建物は窓枠や花の咲き誇る窓箱で美しく装飾され、遠くにそびえ立つ尖塔に城壁や街の中心にある荘厳な雰囲気の大聖堂はレーナの郷とは別世界の様だった。


 時折響く鐘楼の音や街中に漂うは香ばしい焼き菓子やパンの匂いは歩いているだけで心を浮き立たせた。


 更においらの心を引き寄せたのは美しい女性達だ。


 時々煌びやかな馬車が通りを行き交い、そこから降りて来る女性の多くは金や銀の髪に空の様に青い瞳を携えたていた。纏っている服装も煌びやかでレーナの女性達がとても地味に感じるほどだった。


 美しい街並み、食べたこともない食事、美しい女性達。そして、レーナ一族と言うことで優遇され、立派な住居も提供されたんだ。


 何もかも全てがすぐにオイラを魅了した。


 お金の使い方も覚えた。レーナの郷にはお金というものがなかったからね。


 ん? アマネ様は知らなかったのかい? そうか、アマネ様は地球で生まれて地球で育ったんだったな。そう、レーナの郷にはお金なんて必要なかったんだ。欲しい物があれば必ず誰かが提供してくれたからな。


 奪い合いに? そんなこと一度もなかったよ。レーナの人々は自分の出来る力を発揮して誰かの為に何かを提供することを喜びとしていたからね。


 そう言えば、クレハ様も色々な物を作ってはみんなに提供していたっけ……


 なのにおいらは表面だけの煌びやかさに惑わされてそんな天国の様な郷を出てしまったんだ。


 そして、おいらは恋をした。相手は貴族の女性で……たしか、子爵令嬢だったかな……クラメイル人に多い金髪碧眼の華やかで美しい女性だった。


 おいらは彼女に夢中になった。何でも彼女の願いを叶えた。クラメイル帝国では魔力が持つ者誰もが霊元石を扱える様にしたいと言う願望があった。だから、おいらは霊元石のマナエネルギー抽出実験にも積極的に協力した。まぁ、結局霊元石からマナエネルギーを取り出せるのはレーナの血を引く者に限るという結果になったのだが。


 彼女は頻繁に蓄魔器に霊元石のマナエルギーの注入を依頼してきた。おいらは得意げに彼女に言われるまま、いくつもの蓄魔器いっぱいにマナエネルギーを注入し続けたよ。その度に多くの報酬を貰い、彼女と一緒にいる時間も増えた。


 おいらには特別な力があり、美しい彼女にも愛されている。そんな考えが次第においらを傲慢にしていった。


 何もかもが上手くいき有頂天だったおいらは、これまでのレーナの郷での暮らしがとても地味で何の魅力も感じられなくなってしまったんだ。


 だが、そんな事は長くは続かなかった。


 そんなおいらを正気に戻したのは、皮肉なことにクラメイル帝国によるレーナの郷への侵略の知らせを聞いた時だった。


 ある日、おいらはいつもの様に彼女と二人で過ごしていた。彼女は時折おいらの邸を訪れて他愛のない話をした後、仕事を置いていく。彼女はその日もいつもと変わらない様子だったから、まさか彼女からそのことを聞かされるなんておいらは思いもよらなかったんだ。


「ねぇ、レーナの郷はクラメイル帝国のものになったのよ。だから、あなたもクラメイル人としてこの国に尽くす必要があるのよ。さあ、霊元石礦床への入り方を教えてちょうだい」

 彼女は甘い声で、突然おいらにそう囁いたんだ。


「何を言っている? なぜそんなことを言うんだ? 今までだって君に逆らった事はなかったじゃないか? おいらはいつだって君のために……」

 例えクラメイル帝国に住んでいたとしてもおいらはレーナ一族としての誇りを捨てたわけではなかった。


 レーナの郷がクラメイル帝国のものになった? どういうことだ? レーナの郷はレーナ一族のものでしかない。彼女は何を言っているんだ?


「そうね、だからこれからも私のために、クラメイル帝国のために尽くしてちょうだい。レーナ一族は自分たちの住処を捨てて逃げたのよ。だから、霊元石礦床はクラメイル帝国のものなのよ。私に礦床への入り方を教えてちょうだい」

 

 彼女の言い分に首を捻る。おいらがそう簡単に教えるわけがないじゃないか。そもそも、霊元石礦床にはレーナの血を引く者以外入ることはできない。


「無理だよ。君たちには礦床には入れない。それよりもどうしてレーナ一族が住処を捨てて逃げたなんてどう言うことだ? レーナ一族がレーナの郷を捨てるなんてありえない。万が一捨てるとしたら……」


 おいらはそこまで言って最悪の事態が頭に過った。


「まさか……! 郷を襲ったのか?」

「レーナ一族がいけないのよ。霊元石を独り占めするから」


 おいらは彼女の返事に言葉を失った。


 レーナ一族が郷を捨てて逃げるとしたら、自分たちの身が危険にさらされたせいだとおいらはすぐに察した。

 レーナの民は戦いを好まない。一族を守るためなら反撃して相手を傷つけるよりも逃げることを選ぶだろう。


「なんて言うことだ!」

 おいらは頭を抱えた。おいらがこの町でのうのうと暮らしている時にレーナの郷が襲われた。


「ねぇ、レーナ一族しか霊元石を礦床に入れないのならあなたが採ってきてちょうだい」

「それも無理だ。レーナ一族が郷を後にしたなら礦床は封印されているだろう。おいらの力だけでは解除することはできない」

「やっぱりレーナ一族が霊元石を独り占めしているのは本当だったのね。そう言って私たちに霊元石を渡さないつもりね! この意地汚い蛮族が! 他に何もないあなた達はクラメイル帝国に尽くすしかないのよ! いいから霊元石を渡しなさい!」

 蔑む様な彼女の言葉は今までになかった程冷たい。

 

 これまで優しかった彼女の口調はまるで人が変わった様で、オイラの中に混乱を招いた。優し気に見えていた彼女の顔がだんだんと別人の様に歪んでいる様だった。


 もしかしておいらは利用されていたのか? だとしたらおいらは何て愚かだったのだろう。表面だけの煌びやかさや見た目だけに騙されて、レーナの郷を出てしまったことを心底悔やんだ。


 だが今更悔やんだところで元に戻るわけではない。そんなことより、レーナ一族が郷を捨てたと言う。


 おいらは真っ青になった。立っていられないほど全身が震え、故郷の者達を憂いた。


 そうか……もし、クラメイル帝国がレーナの郷を強襲したのなら、レーナ一族は真っ先に護りの体制に入る。それでも護れないと悟ったら確実に逃げる道を選ぶだろう。


 だとしたら、転移の術を使ったのか……?

 転移の術とは保護聖霊獣の力と自身のマナエネルギーを合わせて発動させるレーナ一族が持つ究極の術だ。


 転移の術を使うとしばらくの間、力を失う。だから、よっぽどのことがない限り発動させることはないのだ。


 おいらは慌ててレーナの郷へ向かった。


「待ちなさいよ!」

 後ろでそんな叫び声が聞こえたが、もうおいらにとって彼女は既に得体の知れない生き物にしか見えなかった。


 レーナの郷へ……早く……レーナの郷へ行って確かめなくては! 


 帝都パーセルからレーナの郷まで騎乗で向かったとしても五日はかかる。おいらは今まで貯めていたお金を叩いて一番足の速い馬を購入してレーナの郷に向かうことにした。


 転移の術は……使えないな。もし使ったらしばらくの間おいらは自分の力を使えなくなる。


『待って、マナト。クラメイル帝国の目的は霊元石礦床。だとしたらレーナの血を引く者だと分かったら捕えられる可能性があるわ』

 シャウラの言葉でおいらはフード付きのマントを着て、瞳の色が隠れるほどフードを深く被った。


『だから言ったわよね。あたいの言うことを聞かないから!』

「ああ、悪かった。ものすごく後悔してる」

 シャウラの咎める声がおいらの頭の中に響く。シャウラはおいらが郷を出る時に必死に止めていたのだ。そして、もう一人おいらを必死で止めた人物を思い出した。


 ササラ……


 君は赦してくれるか? ……こんなおいらを……


 必死に涙を滲ませながらおいらを止めた幼馴染のササラの顔が蘇り頭から離れなくなった。


『ギエナの気配がする! この街にササラがいるかも……」

 帝都パーセルを出て二日目の夕方、パーセルとレーナの郷の中間地点にある街に着いた途端シャウラが興奮気味に言葉を放った。ササラの聖霊獣の気配を感じ取ったのだ。


「シャウラ、ギエナの気配はどっちの方だ?」

「えっと、西の方かな。こっから歩きで一時間くらいの所だよ」

 おいらは遠視を使ってササラがいる場所を探した。幸運なことに、ちょうどササラが店に入る瞬間を捉えた。


 見つけた……


「シャウラ、ササラが『月下の晩餐』と言う店に入ったのが見えた。行くぞ!」

 おいらはシャウラと共にササラが入って行った店に急いだ。


「いらっしゃいませー!」

 店に入ると懐かしい声がおいら達を出迎えた。


「マナト……」

 おいらの姿を目にしたササラは目を丸くしたまま驚き、固まった。


「ササラ……無事だったか……」

 ほっとしたおいらはササラに駆け寄った。


「マナト……今仕事中なの。近くに部屋を借りているからそこで待ってて」

 その店で店員として働いていたササラは、そう言ってオイラに部屋の鍵を握らせると何事もなかったかの様に仕事に戻って行った。


 相変わらず、切り替えが早い。そんな以前と変わらない彼女に心なしかホッとした。


 ササラの部屋で待っていたオイラは、ササラに謝ると彼女は苦笑して「若気の至りってやつだね」と言って赦してくれたんだ。本当に彼女には頭が上がらないよ。


 やがて、おいらとササラは当たり前の様に夫婦になった。そして生まれたのが息子のカイトだ。


 ああ、カイトとササラが戻ってきた様だな……


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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