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伝説の一族〜キャンピングカーで転移した先は母の故郷のようです〜  作者: 梅丸みかん


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30, 小さなベガの偵察

 吾輩は小さな体でキャンピングカーから飛び降りると、慎重に塀の方に近づいていった。とりあえず塀の隙間から中を覗いてみる。崩れかかった石造りの建物やあちこち傷ついた古い廃屋がまばらに見えた。


 小さな体では全貌を掴むことができないが、点在する建造物の残骸を見るとここで大きな争いごとが起こったことを想像させる。


 シルマが言っていた通り、吾輩がこの地を離れていた百年ほどの間に各地で戦が起こっていたことを証明する様な景色に人間の愚かさを再認識した。


 辺りを警戒しながら比較的マシな建物に近づく。


 その時、懐かしい気配を感じた。マナの薄さのせいで全盛期ほどの力の半分にも満たないため、気配に気づくのが遅れたのだ。以前なら、塀の中に入る前にその気配に気付いたはずだ。


 ふむふむ、地球よりもマナが濃いとはいえ、まだまだの様だ。まあ、この世界のマナの量は以前と地球に転移する前と比べてだいぶ少ない。まぁ、吾輩が何度も小さくなったり、大きくなったりするため自分の中のマナを消費したせいもあるが。だが、霊元石礦床が解放されれば問題あるまい。アマネとレイト、それにクレハが加われば直ぐに礦床は解放されるだろうからな。


 吾輩はそう自分に言い聞かせ、懐かしい気配を辿る。


 ふと前を見ると瓦礫と崩れた建物の間から銀色の角が見えた。


 ふむ、やはりあやつか……相変わらずあれで隠れたつもりなのか? まだ吾輩に気付いていない様だな。元々あやつの力が弱いせいもあるが、おそらく吾輩の力もまだ弱いせいで気配を辿れぬのだろう。


『おい、銀鼠。其方であろう。姿を表せ。吾輩……ベガである』

 瓦礫に隠れている懐かしい存在に向かって吾輩は声をかけた。すると建物からのぞいていた銀色の角がビクリと震え、その持ち主が恐々と瓦礫から顔を覗かせた。


『べ…ガ? やっぱり、ベガなの?』

 銀鼠は吾輩の姿を視認すると一目散に駆け寄ってきた。


『マナトがベガに似ているっていうけどまさかと思っていたのよ。だって、いまのあたいの力じゃ他の聖霊獣の力を辿れないし……ほんとうに……あのシルマの次に強いベガなの?』

 吾輩のそばまでくると銀鼠が興奮冷めやらぬ様子で捲し立てた。


『銀鼠、それは聞き捨てならないな。シルマより吾輩の方が遥かに強いのだが』

『そうだった? それよりベガ、あたいの名前はシャウラよ。銀鼠なんて呼ばないで』

『おお、それはすまぬ』


『それにしてもベガ、随分小さくなったわね。あたいより小さいじゃない?』

『これは偵察のためだ。どんな者がここに隠れているのか分からぬからな』

『どんな者って、あたいがいるんだからあたいの主人、マナトに決まっているじゃない? と言うより、百年間も音沙汰ないなんてどう言うことよ!』


『いや、吾輩はクレハと共に地球に飛んだのだ。地球とはこことは全く違う別の世界だ。地球では僅か二十年ほどしか経過しておらぬかったのだ。ここが百年も経過していたなんてシルマに聞いてやっとさっき知ったばかりだ』


 銀鼠……シャウラはまんまるな瞳を更に丸くして驚きの表情をした。

『地球? 別の世界? ってどう言うこと? それに、シルマ? シルマも一緒なの? シルマもこの百年会ってないのよ。一体どうなっているの? このままじゃマナが少なすぎてこの世界が崩壊してしまうじゃない!』


『シャウラ、そう興奮するな。吾輩もそのことは把握している。だから霊元石礦床の封印を解除するためにクレハを探しているのだ』


『クレハを探してるってどうして? 一緒じゃないの?』

『ああ、そのことを含め説明しよう。マナトがこの場所にいるのなら是非とも協力を仰ぎたいしな。それにしてもマナトがまだ生きておったとは……』

『ベガも知っているでしょ? レーナ一族が長命だってこと。マナトも随分歳をとっちゃたけど元気よ。あたいに着いてきて、マナトがいる場所まで案内するわ』


 吾輩は光を纏うと少しだけ体を大きくしてシャウラの後に続いた。


 シャウラは『それでもまだ小さいわね』と言ったけど大きくなりすぎると可愛くないから仕方がないのだ。


 丸い見た目とは違って身軽に瓦礫を縫って目的地を目指す銀鼠……もとい、シャウラ。吾輩はその後ろを追いながら周辺の様子を観察する。


 瓦礫の向こうには小さな畑が見えた。それほど広くはないが、何とか枯れることなく実っているのはレーナの力を注いでいるからに違いない。


『ここから中に入れるわ』

 そう言ってシャウラは石の地面に被さる様に閉じられた扉を角でトントンと二回叩いた。


「シャウラ? 大丈夫だった? 問題なかった?」

 扉の向こう側から少女特有の高くて透明感のある声が聞こえた。


 ここにいるのはマナトだけではないのか?


『大丈夫よ。マナトが言った通り塀の外にいるのはレーナの血を引く者よ』

「え? 本当に父さんの言った通りだったの?」

『ええ、彼らの保護聖霊獣を連れてきたから入れてくれる?』

「分かった」

 少女の声がそう言うなり、地面を塞いでいた扉が開いた。


 現れたのは声で察した通り七〜八才くらいの少女だった。少女が着ている深緑色の木綿のワンピースは上質ではないが破れもなく綺麗だ。茶色がかった金の髪を二つに結え、翠緑の瞳が不安げに揺れていた。


 髪色は純粋なレーナ一族とは違うが、瞳の色を見るとレーナの血を受け継いでいるのかも知れぬ……お父さんと言ったところをみるとマナトの子か? マナトはレーナ一族以外の者と婚姻を結んだのか?


『ベガ、この子も一緒にここに住んでるのよ』

「ベ……ガ?」

 きょとんとした顔で吾輩を見つめる少女。


「まぁ! あなたが聖霊獣さん? なんて可愛いの? 私はモエギ、よろしくね」

 戸惑っていた少女の顔が吾輩を見た途端、嬉しそうに微笑んだ。


 やはり吾輩は可愛いのである。少女の笑顔を引き出すほどに。


『えへん、そうだ吾輩がクレハとアマネの保護聖霊獣である』

「ふふふっ、お兄ちゃんと母さんは今町に行っているからいないけど、父さんが奥にいるわ。中に入ってちょうだい」

 吾輩はモエギと言う少女に案内され、地面の扉に隠されていた階段を降りていく。


 左右には小さな灯りがあるが、地下だけあって薄暗い。


 壁と床には白い石で出来ていて頑丈そうな作りになっている。外とは違い、中は崩れた場所もなく綺麗だ。もしかしたら、補修したのかも知れない。だとしたら、クレハと同じ様に創造の特殊能力(ギフト)と同じ様な力を持つ者がいるのだろうか……


 階段を降りると真っ直ぐに長い廊下が続いていた。廊下には左右等間隔に扉が付いている。


 いくつかの扉を通り過ぎ、モエギは一つの扉の前で立ち止まると中に向かって声をかける。

「父さん、シャウラが聖霊獣を連れてきたわ。塀の前に来た乗り物にはやっぱりレーナ一族の人達が乗っているみたいよ」

「そうか、それは良かった!」

 勢いよく扉を開くと嬉しそうに相好を崩した年配の男性が顔を出した。


「ん? やはりベガか? 随分とコンパクトになったがクレハ様の保護聖霊獣のベガで間違いないよな?」

『いかにも、その通りである! 小さくなったのは可愛いから……じゃなくて、偵察のためである。それにしてもマナト、歳は取ったが元気そうではないか? まあこの世界では百年も経つから仕方があるまいが』


「まあ確かに歳は取ったが私は元気だ。それで、遠見をしたら妙な乗り物からベガが降りてくるのが見えたのだがあの中にクレハ様がいるのか? 遠見では乗り物や建物の中までは見えないからな。もしかしたらあの乗り物はクレハ様が作ったのか?」


 マナトは期待の眼差しで吾輩を見つめた。マナトの特殊能力(ギフト)は「遠見」

 その名の通り遠くを見渡せる力だ。もしかしたら、その力のお陰でここまで生きながらえてきたのかも知れない。


『あの乗り物はキャンピングカーと言い、クレハが地球の乗り物を改造した物だ。クレハは乗っていないが、クレハの娘であるアマネが乗っている。それとタクトの息子のレイトもな』


「何と! クレハ様に娘が? それにレイト様も乗っているとは! だけど、地球? の乗り物とは? クレハ様が一緒ではないのならクレハ様はどこにいらっしゃるのだ?」

『うむ、そうだな。アマネ達も読んで詳しく話そう。其方達の話も聞きたい』

「もちろん私達の話も聞いてもらうつもりだよ。その上でこの先のことを相談したいと思っていたんだ」

『そうか、ではしばし待たれよ。今、アマネに念話を送る故』


「ああ、モエギ、塀の前まで彼らを迎えに行っておくれ。シャウラ、モエギの護衛、よろしく頼むよ」

 マナトがそう言うなり、モエギはスカートをひるがせて外に向かうと、その後ろをシャウラが慌てて着いて行ったのだった。

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