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伝説の一族〜キャンピングカーで転移した先は母の故郷のようです〜  作者: 梅丸みかん


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25, メガネ天使

 自宅を離れてから数日しか過ぎていないはずなのにとても懐かしい景色に安心感が漂う。フロントガラスの向こう側にはアスファルトで舗装された道路が見え、サインドウィンドウから見えるガレージの壁にかかった工具や収納ラックは以前と同じ場所に位置している。


 いつもはフロントガラスの向こうはシャッターで閉じられているはずだったが、キャンピングカーで出かけるためにシャッターを開けっぱなしにしていたことを思い出した。


「本当に地球に戻ってきたんだ……」


 私の周りに展開する見慣れた景色を眺めていると、あの異世界での出来事が夢のように感じた。


『ふむ、ここが地球か。アマネにとっては現実の世界かも知れぬが、妾からしてみると此処こそが異世界じゃな』

 銀緑の竜シルマが私の目の前に浮きながらそう呟いた。


 途端に異世界に行ったことが現実にあったことだと実感する。


 現実の世界に緑銀の竜……


 フロントガラスの向こうに見える背景と私の目の前に浮遊する生き物の姿がミスマッチで不思議な感覚に陥った。


「ここどこ? 今すごく光って……そしてら全然違う場所になってて……ここが地球なの?」

 レイトの戸惑いと不安を滲ませた声で我に返る。


「そうよ、此処が地球で私が住んでいた日本よ。そして、ここは私の家の庭にあるガレージの中ね」

「ガレージ?」

「そう、車を置いておく場所。つまり、このキャンピングカーの駐車場ね」

「ふーん……ねぇ、外に出てもいい?」

「もちろんいいわよ。一緒に外に出ましょう……あっ、そうだ、ベガはともかくシルマは他の人に見られないように注意してね」

『ふむ、ではこの姿ならどうじゃ?』

 私の言葉を受けたシルマは体を光らせると更に小さくなり羽がなくなった。まるで只の緑色のトカゲのように。


 羽がなくなったのにそのまま目の前に浮いているのはどう言うことだろう? と不思議に思ったが、聖霊獣と言う私にとっては未知の生物なのでそう言うこともあるのかも知れない。


「え? シルマ? トカゲにもなることができるの?」

『トカゲ? 何じゃそれは? 妾はただそこにいる生き物に似せただけじゃ』

「そこにいる?」

 シルマの視線に目を向けると、サイドウィンドウから見える工具箱の上で薄緑色の細長い体がじっとしていた。微かに伸びる陽の光が滑らかな鱗の表面を照しほんのり光っている様に見える。


「えっとあれってヤモリ? ……よね?」

 私が声が聞こえたかの様にその小さな生き物はピクリと動くと一瞬でどこかへ消えていった。


 どうやらシルマはトカゲではなくてヤモリに変身したつもりらしい。


 トカゲとヤモリの明確な違いは私にはよく分からないけど、どっちにしろその姿ならもし他の人に見られても問題ないと思った。


 一方、ベガは……銀色の柴犬っていただろうか? うん、でも見ようによっては只の白い柴犬に見えなくはない……多分……


 もふもふの子犬だからきっと誰も不思議に思わないだろう……うん、そうに違いない。


 私はベガを見つめ自分自身を無理やり納得させた。買い物の時はキャンピングカーの中で待機してもらえば問題ないと思う。


 外に出ると空には薄い雲が所々に広がり、柔らかな陽光が地面に降り注いでいた。庭の梅の木の枝先に淡い緑がのぞいているのが見える。春特有の湿り気を帯びた土の匂い、庭の隅で囀る鳥たちの声、自然の躍動を感じさせるその風景は安心感をもたらす。


 三人……聖霊獣たちも入れて……を伴い、ガレージのすぐ隣にある家に入る。出て行った時と変わらない家の中を見回してホッとした。


「ここがアマネの家なの? レーナの郷とちょっと似てるね」

「ちょっと似てる?」

「うん、靴を脱いで入るところが」

 へぇ、レーナ一族の家も日本式なんだ。あれ? もしかして……


 私はレイトの言葉でシルマが話していたことを思い出した。確か元々はレーナ一族の祖先は他の世界から召喚された人達だと……もしかしてその召喚先は日本だったりして……でも、お母さんもレイトも瞳の色が翠緑だから違うわよね。


 好奇心を隠さずキョロキョロと家の中を見回しているレイトの可愛らしさに頬を緩めながらそんなことを考えた。


「レイトこっちよ。此処が私の部屋なの。お城で暮らしていたレイトにしてみれば狭くてびっくりするかも知れないけど」

「うううん、そんなことないよ。レーナの家もそんなに大きくはなかったんだ。ここはお城と違って温かく感じるよ。まるでレーナの家みたいに」


 私はレイトの言葉に嬉しくなった。この家は側から見れば古くて小さな家だ。でも私にとっては母と父の思い出が詰まっている。父を亡くし母が失踪してしまったと言う辛い記憶はあるけれどそれを補うほどの三人で楽しく過ごした想い出があるのだ。


 そいえば、レイトの特殊能力(ギフト)は心感だとシルマが言っていた。もしかしたら、この家に宿る記憶を感じ取ったのかも知れない。そんなことまで出来るのかは分からないけど……


 私の部屋はベッドに机、そして背の低いチェストがあるだけであまり物を置いていないのでとてもシンプルだ。唯一ピンク色のカーテンだけがこの部屋が女の子の部屋だと言うことを示している。


 この部屋でもレイトはキョロキョロと見回している。


「レイト、外ではこれを被ってね。私のだけど、後ろを調節すれば何とか大丈夫だと思う。ちゃんと後でレイトに合ったのを買うから今だけ我慢してくれる?」

 私はクローゼットから帽子(キャップ)を取り出し、後ろのバックルを狭めるとレイトの頭に被せた。


「うん、分かったよ」

 レイトが帽子(キャップ)の鍔を小さな手で確かめるように撫でた。


 これで何とか銀緑の髪は目立たなくなっただろう。あとは服装が王子様っぽい……でも実際、王子様だったのだから仕方がない。まあ、コスプレする人もいるのだから大丈夫だろう。服は買ってすぐに着替えればいいし……問題なのはそのキラキラした翠緑の瞳……


 私のメガネ……は大きすぎるわよね……


『アマネ、クレハが作ったメガネなら自動的に身につけた者の顔の大きさに合わせるから大丈夫だと思うぞ』

 ベガの言葉が私の頭の中に響く。


「え? そうなの? あのメガネお母さんが作ったの? それにメガネが自動的に顔の大きさに合わせてくれるってそんなの聞いたことがないわ。あっ、そういえばお母さんは錬金術師だったわね」


 私はベガとシルマが言っていたことを思い出し納得した。


 早速私のメガネをレイトにかけて見た。レンズを通すとレイトの瞳が焦茶色に見える。


 キャー可愛い! メガネ天使……可愛すぎる…


 瞳の色が変化しても可愛いのだから元々の素材がいいのだろう。


「さあ、これでいいわね」

 何とか平静を装いそう言ったのに

「メガネ天使……?」

 とレイトが不思議そうに首を傾げた。


 心の声を聞かれていた……

 

「レイトはメガネも似合うわね。綺麗な翠緑の瞳を隠すのは勿体無いけど目立たないように買い物の時はこのメガネをかけてくれる? この世界の……この国の人の瞳は殆どが黒か焦茶だから」

「うん、でもアマネの目も綺麗な翠緑だからメガネをするの?」

「翠緑? 私の瞳の色は黒に近い深緑だったと思うけど……」

 納得いかないと言うように首を傾げるレイトを見てハタと気がついた。


 そう言えば私、異世界に行ってから全然鏡を見ていない。化粧もしたことがなく、お洒落に無頓着な私は普段から自分の容姿をあまり気にしたことがなかった。


 異世界に行ってここに帰ってくるまでに約五日。その間鏡を見ていないなんて女子としてどうなの? と言う前に人間としてどうなのだろうか? 


 向こうでは一応毎日顔は洗っていたしどうせ誰にも会わないだろうと思っていた。でも、これから買い物に行くのだからちょっとは自分のことを鏡で確認した方がいいかも知れない。


 久しぶりに鏡を覗いた私は驚いた。確かに瞳の色がレイトと同じ翠緑だ。しかも、肩にかかるくらいに伸びた髪の毛の色も以前よりも緑に近くなってきたような気がする。肌の色も透明感が増しているように思うのは気のせいだろうか?


『地球よりも強い濃度のマナエネルギーを取り込みレーナ一族の特徴が増したのだろうな』

 ベガが私の心の疑問に答えた。


 これは……レイトだけではなく私も目立つのではないだろうか? ……いや、きっと大丈夫だろう。今や色々な髪色に染めている人も多いし、カラーコンタクトをしている人だっているからきっと大丈夫だ。でも念の為、私は母が置いて行ったメガネを身につけることにした。


 すると、「僕とお揃いだね」と嬉しそうにレイトが言った。あまりにも可愛過ぎてたまらず私はレイトをギュッと抱きしめたのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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