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19, レイトの記憶【力の発現】

 僕がクラメイル帝国に連れてこられてから三年が経った。


 必要なことがない限り僕に話しかけて来る者はこの城には誰もいない。この城のみんなは僕のことを嫌いなんだ。でも大丈夫。僕にはシルマがいる。


 それに、ずっとここにいるわけじゃない。もう少し大きくなったらレーナの郷に帰るんだ。


 きっと……


「殿下、本日の霊元石です。よろしくお願いします」

 僕は目の前に並べられた霊元石の量をみてうんざりした。日に日に霊元石からマナエネルギーを取り出す量が増えていく。きっと僕が倒れないギリギリの量を用意しているのだと思う。この仕事が終わった後は身体が怠くて動くことも出来なくなる。


「母上、霊元石の量を少し減らしては貰えませんか? 身体が怠くなって辛いのです」

 一度、そう言って母上に訴えたことがある。だけど、ただ叱られるだけだった。


「何を言っているのです。あなたにはこうして衣食住を何不自由なく与えているのです。その分働くのは当然です。あなたにはそれしかできないのだから甘えているのではありません」

 母上の言葉が厳しく僕の訴えを退ける。


 僕は本当は贅沢な食事も煌びやかな服も広くて豪華な部屋もいらないんだ。どんなに贅沢な食事でもいつも一人で食べているせいで全然美味しく感じない。煌びやかな服も動きにくいだけだし、広くて豪華な部屋も広さはなぜかよけい寂しくなるし、豪華さはとても冷たく感じる。


 レーナの郷に帰りたい……あの懐かしい暖かな場所へ……。


 思い出す度涙が零れそうになる。どんなに求めてももうあの場所へ帰ることができない。それでも願わずにはいられない。


 誰か……僕をここから連れ出して……。


 ある日、いつもの様にメイシーが僕の身支度を調えてくれている時だった。

『今日も殿下はご機嫌斜めのようね。こんなに贅沢な暮らしをさせて貰って何が不満なのかしら? ニコリともしなくて全く可愛げがないわね』

 突然、僕の頭の中にそんな声が届いた。僕は思わずメイシーの顔をジッと見つめた。


「殿下、どうかされましたか?」

 メイシーは今度はちゃんと声に出して話した。


 さっきのは気のせいかな? そう思おうとした時だった。


『どうしたのかしら? 突然、動きを止めて。全く殿下の考えていることが分からないわ。あら、深緑の瞳に金環が……不気味だわ』

 また僕の頭の中で声がする。メイシーの唇が全く動いていないからメイシーがしゃべったわけではないのは確かだ。


 だとしたら、メイシーが考えていることが僕の頭の中に届いたの?


『レイト、お主のレーナの特殊能力(ギフト)が発現したのじゃろう。何事もなかった振りをしろ。侍女に気付かれるな』

 今度はシルマの声が僕の頭に届く。レーナの特殊能力(ギフト)? ……レーナの特殊能力(ギフト)って何?


『そうか、お主は幼すぎて誰からもその事を聞かされていなかったのじゃな。それは後で妾が教える。侍女に覚られるのはまずい』


 僕はシルマの言うとおりにメイシーに答える。

「メイシー、何でもないよ。ちょっと考え事をしていただけなんだ」

「そうですか……」

 メイシーはそれ以上何も言うことなく、僕の身支度が終わると朝食を運んで来た。


 いつもの様に僕は一人で朝食を食べ始める。メイシーが部屋を出るとシルマにも朝食を分け与える。本当はシルマは聖霊獣だからマナエネルギーがあれば食べる必要はないんだけど、食べるのは好きみたいだ。


 聖霊獣は自分で大気に漂っているマナを取り込んでいるけど、マナが少なくなると契約主が霊元石からマナエネルギーを取りだし聖霊獣にあげることも出来る。でも、僕が毎日の様に勉強と霊元石からマナエネルギーを取り出す仕事をする様子を見ているシルマは、いらないと言う。だから、せめて僕の食事を分けてあげる事にした。


 朝食が終わると勉強の時間だ。今日はクラメイル帝国の歴史を習う。この大陸で最も大きく、最も歴史があるクラメイル帝国。この国の人々は自分の国を誇りに思い皇帝を敬っているのが歴史教師の言葉から窺い知れた。


 口髭(マスタッシュ)を時折撫でながら小太りの男は、僕を見下ろしクラメイル帝国の歴史を語る。 彼がいつも僕に教えてくれる歴史教師だ。初めて会ったときに名前を教えてもらったけど忘れてしまった。


 何だか長くて難しい発音だったと思う。だから僕はいつも心の中で口髭(マスタッシュ)と呼んでいる。この時間は僕にとってとても苦痛に感じる。だっていつもレーナ一族を貶すのだから。


「我が国は、全世界のために霊元石からマナエネルギーを取り出す研究をしているのです。だが、レーナ一族は貴重な霊元石を独り占めし、我らからその技術を盗んだのです。偉大なる皇帝陛下の愛娘セアラ皇女を人質に。だが、天は愚かなレーナ一族に天罰を下し、彼らを滅ぼしたのです」

 声高らかに唱える歴史教師は自分が放った言葉に陶酔しているように見えた。


『忌々しいレーナ一族目。あのタクトと言う者がセアラ皇女の言うことを聞いていれば霊元石の礦床が手に入ったのに。セアラ皇女が婚姻期間の間霊元石を我々に随分流してくれたがそれだけでは足りぬだろう。霊元石は何度もマナエネルギーを取り出すといずれ砕け散るのだから。せめたタクトを殺さず捕獲できていればよかったのだが、まあ今となっては仕方ない。この蛮族の血の入った皇子が成長すれば礦床も手に入るかも知れないからな』


 僕の中に口髭(マスタッシュ)の別の言葉が流れてくる。これは、口に出して言っていない。心の中で考えた言葉だ。


 口髭(マスタッシュ)は今何と言ったか……そう、タクトを殺さずに……と言った。タクト……って父様のことだ。


 父様は殺されたの? じゃあ、御祖母様は? 御祖父様は? クレハは? レーナのみんなは? みんなどうなったの?

ここまで読んでいただきありがとうござます。

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