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11, 聖霊獣シルマが見た過去【1】

 今現在、妾はレイトの守護聖霊獣であるが、元はレイトの祖母でありレーナ一族では先見の特殊能力(ギフト)を所持する首長ハナの守護をしておったのじゃ。


 ベガも知っての通り、ことの始まりはクラメイル帝国人達がレーナの民が居住する郷を侵略してきたのが発端じゃ。


 奴らが強襲してきたとき、レーナの一族はあまりにも時間が無く逃げる算段をするのが精一杯であった。


 首長であった先見の巫女ハナはクラメイル帝国人が侵攻する数時間前に、そのことを察知していたが僅かな時間にできることは限られていた。


 レーナ一族は争いごとを嫌う。元々戦闘民族ではないのだ。マナの力により他国の人間達を殲滅することはできるだろうが、それをしないのは人に害を及ぼしたり、殺したりするという概念がない故である。


 そればかりではない。レーナ一族は人を殺めた場合、レーナ一族自体が滅びると伝えられているのじゃ。


 神がレーナ一族に力を与えたのはその強い力で己らを護るためだったのかも知れぬな。そして、その力を乱用しない様に枷をかけたのだろう。


 レーナ一族にとって優先すべきことは、霊元石の礦床でありマナ排出の源である霊元湖と一族を護ることであった。霊元湖を護ることは遠い昔、神に課せられたレーナ一族の使命であり、一族を守ることもその使命を果たすためである。


 神と言うのはレーナ一族に伝わる女神レーナのことじゃ。妾も会ったことはないが、古くからレーナ一族に伝承されてきた女神様じゃ。


 どこもかしこも混沌に包まれていた遥かなる昔、この世界は絶滅に瀕しておった。その原因は人間達が撒き散らす瘴気。各地では戦争が絶えず己の欲に塗れた人間ばかりであったのだ。嫉みや妬み、恨みや憎しみ、それらがもたらす絶望と悲しみがこの世界を覆った。人が放つマイナスのエネルギーはやがて瘴気となり自然にも影響を及ぼして行った。


 瘴気に当てられた精霊達は力を無くし、大地が荒れ自然からのマナの供給が減ったのじゃ。そのせいで人々はマナエネルギーを十分に補給できなくなり、魔法が使えなくなったばかりか体が弱り、病気にかかりやすくなった。そして、やがて多くの者が命を落とすようになったのじゃ。


 そこで女神レーナはこの大地の底に渦巻くマナを吸い上げる霊元湖を解放し、他世界の人間を召喚して管理させたのじゃ。志が高く、崇高な心根を持つもの達を。この世界にはそんな精神性の高い人間が存在しなかったから他世界から召喚するしかなかったのじゃ。


 もちろん無理に召喚したわけではない。その世界で行き場を失ったもの達に声をかけたのじゃ。強い力と生きる場所を与える代わりにこの世界に住んで霊元湖を管理して欲しいと提案したのである。


 その者達がレーナ一族の祖先だと言われておる。


 クラメイル帝国の兵が郷を襲撃する直前、ハナは息子のタクトと共に霊元石の礦床がある霊洞へ向かった。霊洞の奥は白銀の霧に包まれており更にその奥にはマナを放つ霊元湖が一面に存在しておる。


 まるでエネルギーの塊の様な深緑の水面には金色の粒子が輝いて神の恵みを撒き散らしているかの様であった。その周りを囲う岩壁にはびっしりと霊元石が埋まっているのじゃ。


 この場所を封印するのはマナの源が荒らされないことだけが理由ではない。あまりにも強いマナの力は普通の人間には強すぎるからなのじゃ。

 

 欲を長けた人間達に解放したらどうなると思う? 自分たちが礦床に侵入し命を落とすなら自業自得として仕方がないが、もしもこの場所に入れば命の危険があると知れば権力者達は弱い者を強制的に派遣して霊元石を採取するだろう。


 それ故、レーナ一族がその地を離れる際には礦床を封鎖するしかなかったのじゃ。


 耐性があるのはレーナの一族の血を引く者だけなのじゃから。


 ハナはいずれこの争いに終止符が付いたときにこの地に戻り封印を解くようにクレハとタクトに委ねた。


 ハナの夫であるクナトは身体が大きく腕力に長けており、クナトの特殊能力(ギフト)は筋強であったからな。マナの力はハナの半分しかなかったが、その力により郷の者達を守るため、郷の入り口で見張りをする事になった。


 半分と言ってもレーナの民としては平均的なのじゃがな。クナトはそんなことも気にせず自分の持てる力を発揮するために毎日の様に身体を鍛えていたからクラメイルの兵達より何倍も強かった。


 数々の敵を退き、戦神のように剣を振るい敵の攻撃を躱すクナト。


 だが、レーナ一族であるクナトも敵といえどクラメイルの兵を傷つけることはなかった。たとえ己が傷つけられてもじゃ。


 魔術師に動きを止められてもレーナ一族には効かない。だが、それを知ってかクラメイル帝国の兵たちは物理攻撃を仕掛けてきた。


 そんな中、クナトは四方から矢が降り注ぎ身体が貫かれても何事もなかったようにマナを宿した剣を振り、襲ってくる敵の剣を弾き続けた。


 そのお陰で郷内全てのレーナの民は無事に逃げおおせたのじゃ。


 ハナはそんな夫の体中に矢が刺さり紅に染まっていくのを只見ていることはできなかった。長い槍がクナトに向かって飛んでくるのを察してクナトの前に飛び出していった。


 咄嗟のことだったのじゃろう。ハナの先見の力は時には数秒先しか見えないこともあるからのう。


 槍はハナの胸を貫き、その後ろにいたクナトまで突き抜けたのじゃ。


「シルマ、レイトを守れ」


 クラメイル帝国の数百人に及ぶ魔術師達によって妙な魔術で動きを止められていた妾に必死に叫ぶハナの声が飛んできた。


 ハナの命が途絶えようとしている……


 渾身の力を振り絞り、クラメイルの魔術師達が妾を拘束していた術を破るため身体に宿るマナを残らず解放した。


 痛む頭に、血の涙を流しながら身体の奥底から放ったマナの力によって魔術師達に衝撃を与え、何とか自由を得たのだが時既に遅し。


 妾は守護聖霊獣であるというのに主であるハナを守れなかったのじゃ。契約主の命が途絶えれば霊獣は解き放てれて霊界に戻らねばならぬ。だが、ハナは最後の命を妾に下した。


 主の命は絶対。


 妾は霊界に帰る事にはならず、主の命によってレイトの守護聖霊獣となった。


 タクトの息子レイトはまだ二才になったばかり。通常、守護聖霊獣との契約は五才以降にされるのじゃ。まだ、レイトが契約していなかったのを知っていたハナは咄嗟に孫であるレイトを守るように妾に伝えたのじゃろう。


 妾はハナの命を受け、レイトの姿を探した。


 確か、敵襲があってすぐにセアラに抱きかかえられたレイトの姿を目にしていたことを思い出した。何故かタクトがセアラの腕を掴み言い争っている様に見えたときのことを。


 ああ、セアラと言うのはクレハの兄タクトの嫁で元クラメイル帝国の姫君じゃ。ん? アマネは知っておったか? そうか、ベガが話したか……


 そう、レイトの母親であるセアラは銀髪に薄青の瞳の美しい女性じゃった。だが、その心根は決して美しいものではなかったのじゃ。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

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